記事・レポート
加藤嘉一と竹中平蔵が、日本と中国のこれからを激論
中国で最も有名な日本人が語る、中から見た中国と外から見た日本
アカデミーヒルズセミナー政治・経済・国際キャリア・人
更新日 : 2012年03月09日
(金)
第3章 左傾化する中国に見切りをつけ、海外移住を目指す若者たち
加藤嘉一: 格差、教育、医療、社会保障など、今の中国には改革しなければならない問題が山積みですが、イデオロギー闘争が改革の邪魔をしているように私には感じられます。
今、中国では、日本でいう公営住宅をたくさんつくっています。2011年度末までに1000万戸、3年で3600万戸といった目標も掲げています。北京の地下鉄はたった2元、日本円にして20円ちょっとで50km先ぐらいまで行けます。格差が広がる中で、中国共産党としても社会的弱者を公共政策でどう上手くなだめていくか、すごく気を配っているのです。その象徴が重慶の戸籍制度改革です。
重慶は人口3,000万人の直轄市ですが、重慶の中にも都市部と農村部があって、出身によってそれぞれ違う戸籍を持っています。日本のように住民票を移せばそこの小学校に通えるような制度ではないので、農村から来た人はそもそもお金を持っていないのに、そういう場面で役人に賄賂を渡さないといけなかったりするんです。しかし去年(2010年)重慶は戸籍制度改革を実施して、一定の条件をクリアした農村出身者に都市戸籍をプレゼントするようになりました。現段階で約300万人の農民が都市戸籍を獲得できるよう、政策を推し進めているようです。
薄熙来(はく・きらい)さんという遼寧省書記や商務部長を務めた経験のある重慶の書記は——中国ではどの組織にも共産党委員が入っていて、常に書記がトップなんです。例えば北京大学も学長ではなく、北京大学共産党委員会書記がトップ——世論対策で「毛沢東万歳」という、極端に言えば「文革万歳」みたいな革命歌の大合唱をガンガンやって、世論に迎合しています。私もお会いしたことがありますが、非常にカリスマ性に富んだ昨今の中国政治では稀な政治家です。
文革時代は貧乏だったけど、皮肉にも平等というか、格差はあまりなかった。それを知っている中年以上の世代にしてみれば、胡錦濤政権がやっていることは迷惑でしかないんです。農村と都市の間だけでなく、都市内でも格差が広がって、バンバン物価が上がって「これまで普通に買っていた豚肉がめちゃめちゃ高い!」とかいう不満を持っているんです。こうした中で「毛沢東時代は素晴らしかった」という勢力が、今すごく勢いづいています。危険な信号です。
中国で「毛沢東万歳」ということは左派ですから、政治的には正しいので、共産党はこれをたたけません。一方でリベラリストは何をやってもたたかれます。その象徴がノーベル平和賞をとった劉暁波さんです。国内世論がどんどん左に傾いている今、中国で何が起きているかというと、富豪の60%が既に海外移住しているか、移住を検討中というデータがあります。特に若い人たちは、移住できるなら移住しようという考え方になっていて、体制に対する不満はかつてないほど高まっていると感じます。
移住に対して『環球時報』という非常にナショナリスティックな新聞の調査によると、21%の人が「個人の自由だ」と回答する一方、79%の人間が「制限を加えるべきだ。移民税を取れ」と回答しています。私は「反エリート主義」と呼んでいるんですけど、こういう人たちは富や高学歴に対する不満がすごくて、リベラリストにものすごく腹を立てています。「中国には中国のやり方がある。開発独裁のどこが悪い? 欧米に従うべきじゃない。チャイナモデルだ。ベイジン・コンセンサスだ」というわけです。非常に感情的な議論です。
中国は今、グローバリゼーションで外との関わりが強まっていく中で、「日本けしからん」「アメリカけしからん」「グーグルけしからん」「劉暁波けしからん」「ノルウェーのノーベル委員会けしからん」というナショナリスティックな、もっといえばファシズム的な世論に包まれています。排外主義ですね。私は10年後の中国は“赤い帝国”、レッド・エンパイアになるんじゃないかと危惧しています。
こういう状況の中、中国共産党は「党内民主」と言って、外国の若い起業家や私のような若い人間にどんどん意見を求めてきています。彼らは非常にオープンで、あらゆる対象から学習しようと思っているのです。習近平さんは、教育、医療、社会保障、土地改革など、いろいろな「社会体制改革」を進めていきたいのではないかと察しています。例えば農民が都市に来てきちんと生活すれば、都市戸籍を得られて、子孫を現地の学校や病院に行かせられるようにしたいのだと思います。ただ、現状は世論のイデオロギー闘争に体力を奪われている状態ですので、非常に難しいのではないかと思います。
今、中国では、日本でいう公営住宅をたくさんつくっています。2011年度末までに1000万戸、3年で3600万戸といった目標も掲げています。北京の地下鉄はたった2元、日本円にして20円ちょっとで50km先ぐらいまで行けます。格差が広がる中で、中国共産党としても社会的弱者を公共政策でどう上手くなだめていくか、すごく気を配っているのです。その象徴が重慶の戸籍制度改革です。
重慶は人口3,000万人の直轄市ですが、重慶の中にも都市部と農村部があって、出身によってそれぞれ違う戸籍を持っています。日本のように住民票を移せばそこの小学校に通えるような制度ではないので、農村から来た人はそもそもお金を持っていないのに、そういう場面で役人に賄賂を渡さないといけなかったりするんです。しかし去年(2010年)重慶は戸籍制度改革を実施して、一定の条件をクリアした農村出身者に都市戸籍をプレゼントするようになりました。現段階で約300万人の農民が都市戸籍を獲得できるよう、政策を推し進めているようです。
薄熙来(はく・きらい)さんという遼寧省書記や商務部長を務めた経験のある重慶の書記は——中国ではどの組織にも共産党委員が入っていて、常に書記がトップなんです。例えば北京大学も学長ではなく、北京大学共産党委員会書記がトップ——世論対策で「毛沢東万歳」という、極端に言えば「文革万歳」みたいな革命歌の大合唱をガンガンやって、世論に迎合しています。私もお会いしたことがありますが、非常にカリスマ性に富んだ昨今の中国政治では稀な政治家です。
文革時代は貧乏だったけど、皮肉にも平等というか、格差はあまりなかった。それを知っている中年以上の世代にしてみれば、胡錦濤政権がやっていることは迷惑でしかないんです。農村と都市の間だけでなく、都市内でも格差が広がって、バンバン物価が上がって「これまで普通に買っていた豚肉がめちゃめちゃ高い!」とかいう不満を持っているんです。こうした中で「毛沢東時代は素晴らしかった」という勢力が、今すごく勢いづいています。危険な信号です。
中国で「毛沢東万歳」ということは左派ですから、政治的には正しいので、共産党はこれをたたけません。一方でリベラリストは何をやってもたたかれます。その象徴がノーベル平和賞をとった劉暁波さんです。国内世論がどんどん左に傾いている今、中国で何が起きているかというと、富豪の60%が既に海外移住しているか、移住を検討中というデータがあります。特に若い人たちは、移住できるなら移住しようという考え方になっていて、体制に対する不満はかつてないほど高まっていると感じます。
移住に対して『環球時報』という非常にナショナリスティックな新聞の調査によると、21%の人が「個人の自由だ」と回答する一方、79%の人間が「制限を加えるべきだ。移民税を取れ」と回答しています。私は「反エリート主義」と呼んでいるんですけど、こういう人たちは富や高学歴に対する不満がすごくて、リベラリストにものすごく腹を立てています。「中国には中国のやり方がある。開発独裁のどこが悪い? 欧米に従うべきじゃない。チャイナモデルだ。ベイジン・コンセンサスだ」というわけです。非常に感情的な議論です。
中国は今、グローバリゼーションで外との関わりが強まっていく中で、「日本けしからん」「アメリカけしからん」「グーグルけしからん」「劉暁波けしからん」「ノルウェーのノーベル委員会けしからん」というナショナリスティックな、もっといえばファシズム的な世論に包まれています。排外主義ですね。私は10年後の中国は“赤い帝国”、レッド・エンパイアになるんじゃないかと危惧しています。
こういう状況の中、中国共産党は「党内民主」と言って、外国の若い起業家や私のような若い人間にどんどん意見を求めてきています。彼らは非常にオープンで、あらゆる対象から学習しようと思っているのです。習近平さんは、教育、医療、社会保障、土地改革など、いろいろな「社会体制改革」を進めていきたいのではないかと察しています。例えば農民が都市に来てきちんと生活すれば、都市戸籍を得られて、子孫を現地の学校や病院に行かせられるようにしたいのだと思います。ただ、現状は世論のイデオロギー闘争に体力を奪われている状態ですので、非常に難しいのではないかと思います。
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該当講座
加藤嘉一×竹中平蔵が日本と中国のこれからを激論!
~「中国でもっとも有名な日本人」が政治・経済から中国人の日常生活までを語る~
加藤嘉一 (英フィナンシャルタイムズ中国語版コラムニスト/北京大学研究員/慶應義塾大学SFC研究所上席所員/香港フェニックステレビコメンテーター)
竹中平蔵 (アカデミーヒルズ理事長/慶應義塾大学名誉教授)
竹中平蔵 (アカデミーヒルズ理事長/慶應義塾大学名誉教授)
加藤 嘉一(コラムニスト)
竹中 平蔵(慶應義塾大学教授/アカデミーヒルズ理事長)
政治・経済から一般の中国人の生活まで、あらゆる角度から日本と中国のこれからについて、会場の皆さまにもご参加いただきながら議論します。
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