記事・レポート

東日本大震災・海外報道の舞台裏

なぜ過剰報道は起きたのか

アカデミーヒルズセミナー政治・経済・国際
更新日 : 2011年09月22日 (木)

第6章 言論の自由を重視する海外、情報提供を重視する日本

石倉洋子氏(左)エリック・ジョンストン氏(右)

会場からの質問: 日本が偏見の目で見られるというのは、私たち報道の受け手にも責任があると思うのです。連日「大丈夫です。すぐ影響が出ることはありません」と言われると、慣れてしまう国民性なのかなと思います。そういう国民性に合わせてマスコミも情報を出すから「日本のマスコミは踏み込んでいない」と見られてしまうのではないでしょうか。

エリック・ジョンストン: これは基本的に、日本のマスコミの問題だと思います。「大丈夫、心配ない」と伝えるのは、日本の報道文化の1つではないでしょうか。もちろん日本のマスコミも、日本を守らなければならないという責任はすごく感じていると思います。しかし「政府はこう発言した。東電はこう発言した。だから信じるしかない」と思っている日本人の記者もたくさんいました。

海外マスコミの報道を「過激だ!」と批判する前に、「なぜそう判断したのか」「どういう観点からそういう報道をしたのか」という分析をしなければいけないのに、そういう分析をした日本のマスコミはほとんどありません。みんな自分のプライドで「いや、自分たちのほうが正しい。日本政府、日本の電力会社は正しい」としか言っていません。だから議論にならないんです。これは大きな問題です。 

それから、海外マスコミは「言論の自由はちょっとした間違いより大切だ」と思っている傾向があり、日本のマスコミは「情報提供」ばかりで、情報のダンプになる傾向があります。

石倉洋子: 海外マスコミには、言論の自由を守るという精神が基本にあるということですね。

エリック・ジョンストン: そうです、それに対する考え方が基本的に違います。海外マスコミは「ちょっとくらい間違いがあったとしても、基本的なポイントが正しそうだったら報道する。情報発信する」ということです。

石倉洋子: 原発について語ろうとすると非常に専門的な知識が必要ですよね。こういう場合とかく「私は専門家じゃないので、何も言えない」ということになってしまいがちです。でも臆する必要はないということを、この前、コラムで書いていらっしゃいましたよね。「この前の記者会見で言っていたことと今言っていることとは全然違うじゃないか」とか、「新しい事実が出てきたということか。それとも全然わかってないのに、毎回勝手なことを言っているのか」というのは、専門知識のあるなしにかかわらず、追及していい、すべきだと。

エリック・ジョンストン: そうです。以前IAEAのセミナーに出席したとき、ある日本の新聞記者が「原子力を取材するには、少なくとも10年間勉強しなければいけない」と言っていましたが、ジャーナリストが何も書かずに10年間勉強するのは不可能です。それは記者じゃなくて、学者の仕事です(笑)。私たちの仕事は日々の締め切りに間に合うように情報を収集し、新しい動きや訂正は随時更新、明日の訂正は明日。そういう仕事です。

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Eric Jonston
ジャパンタイムズ


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東日本大震災・海外報道の舞台裏

~外国メディアは日本をどのように報道したのか~

東日本大震災・海外報道の舞台裏
Eric Johnston (ジャパンタイムズ大阪支局次長)
石倉洋子 (一橋大学名誉教授)

エリック・ジョンストン(ジャパンタイムズ大阪支局次長)
石倉 洋子(慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科 教授)
3月11日に発生した東日本大震災がもたらした未曾有の被害と原発事故は世界中の注目を集めました。
海外メディアの報道はセンセーショナルで不正確な情報も多いと指摘される過剰な報道がされました。20年以上日本に滞在し、日本語で原発問題を含めて取材活動を続けているジョンストン記者をお招きして、東日本大震災における海外報道の舞台裏に迫ります。


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