記事・レポート
東日本大震災・海外報道の舞台裏
なぜ過剰報道は起きたのか
アカデミーヒルズセミナー政治・経済・国際
更新日 : 2011年09月15日
(木)
第3章 海外マスコミの過激報道に対し、在日外国人と日本政府が反論を開始
エリック・ジョンストン: やがて、海外マスコミの過剰な報道に対して反対活動をする在日外国人が現れました。過剰な報道が家族や友達を怖がらせているということで、マスコミを批判するようになったのです。一番有名なのは「Wall of Shame(恥の壁)」という活動です。これは地震や福島原発に関する記事で「誤解、偏見、過剰、知識不足」な報道を目にしたら報告するように促し、問題のある記事を掲載したマスコミをリストにしてインターネットで公表するという活動です。4月初め頃までに約80本の記事がリストアップされました。
また、日本政府も反論を始めました。4月8日頃、海外マスコミに対して過剰な報道をしないように呼びかけたのです。実はこの直前に「福島原発でホームレスが採用された」という記事がニューヨークタイムズに載り、在日外国人の間でものすごく話題になっていたので、これがきっかけになったのではないかと指摘する人がいましたが、本当かどうかはわかりません。
こうした在日外国人と日本政府による海外マスコミへの批判に対して、今度は海外マスコミが反論を始めました。反論の1つは「このような大地震が起きたとき、ときどき過剰になったとしても危険性を十分に警告するマスコミと、『心配ない』と言うだけのマスコミと、どっちがいいか」というものでした。これはジャーナリズムの哲学的な問題だと思います。
それから多くの海外マスコミは、中でも特に日本のことを知っているマスコミは「日本のマスコミにも責任がある」と言っていました。どういうことかというと、日本のマスコミは原子力を推進している電力会社から広告費として年間数十億円だか数百億円だかわかりませんが、もらっています。「電力会社と関係がある日本マスコミが『心配ない』と言っているが、どこまで信頼していいのか?」ということです。
それから「日本と本国の時差、言葉の違い、円高で物価が高いなどの理由で、収集した情報を詳細に確認する余裕も財源も限られている。この災害の規模を考えたら、ときどき誤報で過剰になってもしょうがない」という実務的な理由もありました。
もう1つ、原子力自体が理解しにくいという理由もありました。原子力の知識がある記者は世界でも非常に少なく、深く勉強する時間もなかったのです。しかも「原子力はどこまで安全なのか」というと矛盾した情報が多く、専門家でも明確に回答できないことがよくあります。
4月になると状況が変わり、海外マスコミに対する批判の数が少なくなりました。これは海外マスコミがパニック状態から沈静へ向かったからだと思います。この頃、海外マスコミの間には、福島原発は長期的な問題で恐らくチェルノブイリのような爆発は起こらないだろうという認識が広がりました。またこのとき、中東や北アフリカ情勢が重要ニュースになったため、多くの外国人記者は日本を去ったのです。結局日本に残った外国人記者の数は、4月末には地震の前からいた551人くらいに戻りました。
現在、海外マスコミは福島原発の日常的な動きと被災者の事情について取材するとともに、日本のマスコミと同じように根本的な事柄についても取材を始めています。例えば「福島原発の放射線の長期的な影響」について。それから「復興にどれくらい費用がかかるのか。それは日本経済や日本の国際支援に影響を及ぼすのか」ということについて。ほかには「東京はいつまで節電しなければならないか。今後長期にわたると思われる電力不足への対応」や「原子力の将来」について。
複数の日本・海外マスコミが、日本の原子力時代と世界の原子力ルネサンスの動きは終わったのではないかと報道しています。しかし日本政府は新エネルギーに移行する重要性を強調する一方、原子力は大切だと、矛盾したメッセージを発信しています。日本の原子力支持派は今後も長期にわたって原子力に投資するように政府を説得できるのか、それとも原子力は新エネルギーに取って代わられるのか。アメリカをはじめ、世界中が注目しています。
また、日本政府も反論を始めました。4月8日頃、海外マスコミに対して過剰な報道をしないように呼びかけたのです。実はこの直前に「福島原発でホームレスが採用された」という記事がニューヨークタイムズに載り、在日外国人の間でものすごく話題になっていたので、これがきっかけになったのではないかと指摘する人がいましたが、本当かどうかはわかりません。
こうした在日外国人と日本政府による海外マスコミへの批判に対して、今度は海外マスコミが反論を始めました。反論の1つは「このような大地震が起きたとき、ときどき過剰になったとしても危険性を十分に警告するマスコミと、『心配ない』と言うだけのマスコミと、どっちがいいか」というものでした。これはジャーナリズムの哲学的な問題だと思います。
それから多くの海外マスコミは、中でも特に日本のことを知っているマスコミは「日本のマスコミにも責任がある」と言っていました。どういうことかというと、日本のマスコミは原子力を推進している電力会社から広告費として年間数十億円だか数百億円だかわかりませんが、もらっています。「電力会社と関係がある日本マスコミが『心配ない』と言っているが、どこまで信頼していいのか?」ということです。
それから「日本と本国の時差、言葉の違い、円高で物価が高いなどの理由で、収集した情報を詳細に確認する余裕も財源も限られている。この災害の規模を考えたら、ときどき誤報で過剰になってもしょうがない」という実務的な理由もありました。
もう1つ、原子力自体が理解しにくいという理由もありました。原子力の知識がある記者は世界でも非常に少なく、深く勉強する時間もなかったのです。しかも「原子力はどこまで安全なのか」というと矛盾した情報が多く、専門家でも明確に回答できないことがよくあります。
4月になると状況が変わり、海外マスコミに対する批判の数が少なくなりました。これは海外マスコミがパニック状態から沈静へ向かったからだと思います。この頃、海外マスコミの間には、福島原発は長期的な問題で恐らくチェルノブイリのような爆発は起こらないだろうという認識が広がりました。またこのとき、中東や北アフリカ情勢が重要ニュースになったため、多くの外国人記者は日本を去ったのです。結局日本に残った外国人記者の数は、4月末には地震の前からいた551人くらいに戻りました。
現在、海外マスコミは福島原発の日常的な動きと被災者の事情について取材するとともに、日本のマスコミと同じように根本的な事柄についても取材を始めています。例えば「福島原発の放射線の長期的な影響」について。それから「復興にどれくらい費用がかかるのか。それは日本経済や日本の国際支援に影響を及ぼすのか」ということについて。ほかには「東京はいつまで節電しなければならないか。今後長期にわたると思われる電力不足への対応」や「原子力の将来」について。
複数の日本・海外マスコミが、日本の原子力時代と世界の原子力ルネサンスの動きは終わったのではないかと報道しています。しかし日本政府は新エネルギーに移行する重要性を強調する一方、原子力は大切だと、矛盾したメッセージを発信しています。日本の原子力支持派は今後も長期にわたって原子力に投資するように政府を説得できるのか、それとも原子力は新エネルギーに取って代わられるのか。アメリカをはじめ、世界中が注目しています。
関連書籍
The Japan Times NEWS DIGEST 臨時増刊号 3.11大震災・福島原発を海外メディアはどう報じたか
Eric Jonstonジャパンタイムズ
東日本大震災・海外報道の舞台裏 インデックス
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第1章 世界で薄れていた日本への関心が、地震で一変した
2011年09月12日 (月)
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第2章 過剰報道がつくられていった経緯
2011年09月13日 (火)
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第3章 海外マスコミの過激報道に対し、在日外国人と日本政府が反論を開始
2011年09月15日 (木)
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第4章 なぜ過剰報道は起きたのか
2011年09月16日 (金)
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第5章 政府は情報発信をどんどんすべきか、スクリーニングすべきか
2011年09月20日 (火)
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第6章 言論の自由を重視する海外、情報提供を重視する日本
2011年09月22日 (木)
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第7章 専門家を登場させるなら、バックグラウンドを明示すること
2011年09月26日 (月)
該当講座
東日本大震災・海外報道の舞台裏
~外国メディアは日本をどのように報道したのか~
エリック・ジョンストン(ジャパンタイムズ大阪支局次長)
石倉 洋子(慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科 教授)
3月11日に発生した東日本大震災がもたらした未曾有の被害と原発事故は世界中の注目を集めました。
海外メディアの報道はセンセーショナルで不正確な情報も多いと指摘される過剰な報道がされました。20年以上日本に滞在し、日本語で原発問題を含めて取材活動を続けているジョンストン記者をお招きして、東日本大震災における海外報道の舞台裏に迫ります。
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