記事・レポート
東日本大震災・海外報道の舞台裏
なぜ過剰報道は起きたのか
アカデミーヒルズセミナー政治・経済・国際
更新日 : 2011年09月16日
(金)
第4章 なぜ過剰報道は起きたのか
エリック・ジョンストン: なぜ海外マスコミは過激な報道をしたのか。この理由に迫るために「地震発生直後の海外マスコミの取材状況」と「過激な報道が起きた理由に対する、外国人記者と日本人のマスコミ関係者の見解の違い」、そして最後に「私の見方」を紹介したいと思います。
まず「地震発生後の海外マスコミの取材状況」ですが、冒頭でご紹介したように、3月12日には海外から“有名な”外国人記者がたくさん来日しました。そのため、東北で現場取材をする海外マスコミには、もともと日本にいた外国特派員と、突然やってきた記者とが混在することになりましたが、彼らには2つの共通点がありました。1つは「日本語や日本のことがわからない記者たちは協力し合い、一緒に車に乗るなどして被災地内を回った」ということ。
もう1つは「東北の現場だけを取材したケースが多かった」ということです。日本のマスコミは現場取材と中央政府や東電の発表の両方を報道しましたが、海外マスコミは中央政府と東電の記者会見を欠席することが多かったのです。欠席理由の1つは、海外マスコミは人数が少ないので、東北の現場を取材しながら、東京で開かれる政府や東電の記者会見に出る余裕がなかったからです。被災地を取材するほうが重要だと判断したのです。もう1つの理由は、記者クラブのせいで、日本政府には被災現場でオフィシャルな情報を海外マスコミに提供する仕組みが不足していたからです。日本政府の態度は「質問があったら、自分で適当な当局を見つければいいだろう」という感じだったようです。これについては、記者から批判の声をよく耳にしました。
次に「過激な報道が起きた理由に対する、外国人記者と日本人のマスコミ関係者の見解の違い」を紹介します。海外マスコミの見解では「日本記者クラブ制度」と「ガラパゴス諸島精神」が理由にあげられました。記者クラブに参加できるのは特定の日本・海外マスコミだけで、この村の住民以外には情報を出してはならないというシステムになっています。ここが政府と東電とマスコミの「村社会」になったのです。もし日本政府や東電が最初から全ての海外マスコミに対して開かれていたら、偏見的な報道はそれほど発生しなかっただろうということでした。
日本でガラパゴスといえば、日本国内市場だけのための技術開発という意味ですが、ガラパゴス諸島精神というのは、最近一部の海外学者や海外マスコミ、在日外国人が日本人のメンタリティについて使い始めている言葉で「日本人は世界の流れから孤立するようになった」という意味です。日本政府や企業は、海外マスコミと効果的に対話する方法も知らなければ、知識も経験も関心もなくなってしまったというわけです。政府や東電が繰り返し「心配はない」と言えば、それで日本国民は安心するかもしれませんが、海外では全く通用しません。
次に日本マスコミの見解ですが、これは6つほどありました。その1つは「海外マスコミは日本や日本人のことをあまり知らない」というものでした。たとえまじめに取材しても、誤解、間違え、偏見のある報道を避けるのは不可能だと。これは非常に残念なことだと思います。ほかには「イギリスのタブロイド誌や一部のアメリカのテレビ局は日本人が嫌いだから」「国民を心配させないため、放射線の“事実”を慎重に取材した日本マスコミと違って、海外マスコミには事実を報道しないことに販売メリットがあったから」「日本マスコミは原子力専門家に取材するとき、海外マスコミより気をつけていた。海外マスコミは反原子力のプロパガンダだけを発信したから」という意見もありました。
もう少し冷静な意見では「外国人記者たちのなかにも、現場取材をきちんとした人はたくさんいた。問題は日本に来なかった外国人記者や解説者だ。彼らは根拠のない憶測や極端な言い方でパニックを煽った」というものです。この点については、多くの海外マスコミ、あるいは在日外国特派員も認めています。しかし、日本語がわかる在日外国特派員が、過激な日本語ブログや日本の週刊誌をもとに取材した例もありました。これについては「情報源の選択に問題があったから」と言っていました。
最後に、私の見方を紹介しておきます。今回は前例のない災害だったため、海外だけでなく日本のマスコミも思ったように取材できなかった、その結果、正確なレポートができなかったのではないかと思います。地震が発生したとき、日本の政治や社会、そして日本語がわかる外国特派員が少なかったというのは事実です。そのため、日本の対応をうまく取材・解釈して、海外に説明できなかったのだと思います。日本について知識のある在日外国人特派員より、有名な外国人記者の解釈に頼り過ぎたということもあるでしょう。
原子力の安全性や放射線の危険性については専門家の見解がバラバラなので、福島原発を客観的・中立的に取材できなかったということもあります。今回、多くの海外マスコミは、日本マスコミより原子力の安全性に懐疑的だということが明確になりました。
地震、津波、福島原発の爆発が“首都東京”に影響を与えたから、ということもあると思います。東京は日本の中心であり、外国人の人口が一番多い都市です。もしこれが東京ではなく、大阪、広島、福岡などに影響を与えたものだとしたら、海外マスコミも日本マスコミも、これほど高い関心は示さなかったと思います。その場合、過激な海外マスコミの報道は相当少なかったのではないでしょうか。そしてもう1つ、福島原発が爆発する映像がなかったら、海外マスコミの報道はもっと冷静なものになっただろうと私は思います。
まず「地震発生後の海外マスコミの取材状況」ですが、冒頭でご紹介したように、3月12日には海外から“有名な”外国人記者がたくさん来日しました。そのため、東北で現場取材をする海外マスコミには、もともと日本にいた外国特派員と、突然やってきた記者とが混在することになりましたが、彼らには2つの共通点がありました。1つは「日本語や日本のことがわからない記者たちは協力し合い、一緒に車に乗るなどして被災地内を回った」ということ。
もう1つは「東北の現場だけを取材したケースが多かった」ということです。日本のマスコミは現場取材と中央政府や東電の発表の両方を報道しましたが、海外マスコミは中央政府と東電の記者会見を欠席することが多かったのです。欠席理由の1つは、海外マスコミは人数が少ないので、東北の現場を取材しながら、東京で開かれる政府や東電の記者会見に出る余裕がなかったからです。被災地を取材するほうが重要だと判断したのです。もう1つの理由は、記者クラブのせいで、日本政府には被災現場でオフィシャルな情報を海外マスコミに提供する仕組みが不足していたからです。日本政府の態度は「質問があったら、自分で適当な当局を見つければいいだろう」という感じだったようです。これについては、記者から批判の声をよく耳にしました。
次に「過激な報道が起きた理由に対する、外国人記者と日本人のマスコミ関係者の見解の違い」を紹介します。海外マスコミの見解では「日本記者クラブ制度」と「ガラパゴス諸島精神」が理由にあげられました。記者クラブに参加できるのは特定の日本・海外マスコミだけで、この村の住民以外には情報を出してはならないというシステムになっています。ここが政府と東電とマスコミの「村社会」になったのです。もし日本政府や東電が最初から全ての海外マスコミに対して開かれていたら、偏見的な報道はそれほど発生しなかっただろうということでした。
日本でガラパゴスといえば、日本国内市場だけのための技術開発という意味ですが、ガラパゴス諸島精神というのは、最近一部の海外学者や海外マスコミ、在日外国人が日本人のメンタリティについて使い始めている言葉で「日本人は世界の流れから孤立するようになった」という意味です。日本政府や企業は、海外マスコミと効果的に対話する方法も知らなければ、知識も経験も関心もなくなってしまったというわけです。政府や東電が繰り返し「心配はない」と言えば、それで日本国民は安心するかもしれませんが、海外では全く通用しません。
次に日本マスコミの見解ですが、これは6つほどありました。その1つは「海外マスコミは日本や日本人のことをあまり知らない」というものでした。たとえまじめに取材しても、誤解、間違え、偏見のある報道を避けるのは不可能だと。これは非常に残念なことだと思います。ほかには「イギリスのタブロイド誌や一部のアメリカのテレビ局は日本人が嫌いだから」「国民を心配させないため、放射線の“事実”を慎重に取材した日本マスコミと違って、海外マスコミには事実を報道しないことに販売メリットがあったから」「日本マスコミは原子力専門家に取材するとき、海外マスコミより気をつけていた。海外マスコミは反原子力のプロパガンダだけを発信したから」という意見もありました。
もう少し冷静な意見では「外国人記者たちのなかにも、現場取材をきちんとした人はたくさんいた。問題は日本に来なかった外国人記者や解説者だ。彼らは根拠のない憶測や極端な言い方でパニックを煽った」というものです。この点については、多くの海外マスコミ、あるいは在日外国特派員も認めています。しかし、日本語がわかる在日外国特派員が、過激な日本語ブログや日本の週刊誌をもとに取材した例もありました。これについては「情報源の選択に問題があったから」と言っていました。
最後に、私の見方を紹介しておきます。今回は前例のない災害だったため、海外だけでなく日本のマスコミも思ったように取材できなかった、その結果、正確なレポートができなかったのではないかと思います。地震が発生したとき、日本の政治や社会、そして日本語がわかる外国特派員が少なかったというのは事実です。そのため、日本の対応をうまく取材・解釈して、海外に説明できなかったのだと思います。日本について知識のある在日外国人特派員より、有名な外国人記者の解釈に頼り過ぎたということもあるでしょう。
原子力の安全性や放射線の危険性については専門家の見解がバラバラなので、福島原発を客観的・中立的に取材できなかったということもあります。今回、多くの海外マスコミは、日本マスコミより原子力の安全性に懐疑的だということが明確になりました。
地震、津波、福島原発の爆発が“首都東京”に影響を与えたから、ということもあると思います。東京は日本の中心であり、外国人の人口が一番多い都市です。もしこれが東京ではなく、大阪、広島、福岡などに影響を与えたものだとしたら、海外マスコミも日本マスコミも、これほど高い関心は示さなかったと思います。その場合、過激な海外マスコミの報道は相当少なかったのではないでしょうか。そしてもう1つ、福島原発が爆発する映像がなかったら、海外マスコミの報道はもっと冷静なものになっただろうと私は思います。
関連書籍
The Japan Times NEWS DIGEST 臨時増刊号 3.11大震災・福島原発を海外メディアはどう報じたか
Eric Jonstonジャパンタイムズ
東日本大震災・海外報道の舞台裏 インデックス
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第1章 世界で薄れていた日本への関心が、地震で一変した
2011年09月12日 (月)
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第2章 過剰報道がつくられていった経緯
2011年09月13日 (火)
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第3章 海外マスコミの過激報道に対し、在日外国人と日本政府が反論を開始
2011年09月15日 (木)
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第4章 なぜ過剰報道は起きたのか
2011年09月16日 (金)
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第5章 政府は情報発信をどんどんすべきか、スクリーニングすべきか
2011年09月20日 (火)
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第6章 言論の自由を重視する海外、情報提供を重視する日本
2011年09月22日 (木)
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第7章 専門家を登場させるなら、バックグラウンドを明示すること
2011年09月26日 (月)
該当講座
東日本大震災・海外報道の舞台裏
~外国メディアは日本をどのように報道したのか~
エリック・ジョンストン(ジャパンタイムズ大阪支局次長)
石倉 洋子(慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科 教授)
3月11日に発生した東日本大震災がもたらした未曾有の被害と原発事故は世界中の注目を集めました。
海外メディアの報道はセンセーショナルで不正確な情報も多いと指摘される過剰な報道がされました。20年以上日本に滞在し、日本語で原発問題を含めて取材活動を続けているジョンストン記者をお招きして、東日本大震災における海外報道の舞台裏に迫ります。
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