記事・レポート
時代が求める人間像~知の構造化と課題設定能力~
東京大学エグゼクティブ・マネジメント・プログラムの挑戦
教養キャリア・人
更新日 : 2011年04月22日
(金)
第6章 最先端の技術を社会システムに活かす~べき論から行動へ~
横山禎徳: これからの時代、重要なのはパースペクティブ、展望ではないでしょうか。
小宮山宏: 展望と、それから運動論じゃないかと僕は思うんです。「べき論」というのはたくさんあるけれど、議論だけじゃだめ。やっぱり行動する力が大切。「どうすべき」ではなく「どうやったら本当にできるのか」。日本は動けないんだよね。
日本には、参加型民主主義というのはできていないと思う。「政府が悪い」といくら言ったってよくならないということは、もうわかったでしょ。やっぱり、どうやって動くんですか、というのが大事。
横山禎徳: なぜ行動しないのか。私は長いことコンサルタントをやっていて感じているのは、情報を過剰消費してしまい、アクションをとる前に飽きてしまっているということです。特に金融機関なんかはそうです。「とにかく行動して、結果を見ながら修正していく」という人がなかなか出てこない。これは情報過剰時代の問題なんじゃないかと思います。
小宮山宏: それと、やっぱりベンチャー企業がなかなか育つ環境にないということ。大企業はいろいろなことを言っているけれど、ベンチャーなんてやらないからね。誰かが動き出さないといけない。だから私は最近、「プラチナ社会研究会」というのを立ち上げたんですよ。世界が求める21世紀の社会モデルである「地球環境問題を解決した元気な高齢化社会」をつくる、そのために新しい産業を創造するぞと。失敗してもいいと思って動き出したわけ。
横山禎徳: まあ、そうですよね、年も年だし(笑)。
小宮山宏: 「年も年」っていう考え方はね、もうだめなんだよ。僕らはもう90歳まで生きるという設計をすべきなんです。
横山禎徳: 高齢化社会というのは大きな問題ですが、寒気がするぐらいの怖い部分と、すごい可能性を持つ部分とが両方あるんです。
問題は、後期高齢者と呼ばれる75歳以上の人たちが、2005年から2030年にかけて約1,000万人増えるということ。それから団塊の世代の2人に1人は95歳ぐらいまで生きる可能性があるということ。95歳で亡くなったら、相続人はだいたい65歳ぐらいになる。そういう人はそこでお金をバンバン使うということはないから、消費が伸びない社会になっていくんです。
私は社会システムデザイナーだからシステムがいいと思いますけれど、産業でもシステムでもどっちでもいいんです。要は高齢化社会をどうとらえて、どう解決するかとなると、新しい動きというのはもっと出てくると思います。
小宮山宏: 例えばフランスのストラスブールは街を改造して、都心部は自動車の乗り入れを禁止しています。そうするとどうなるかというと、GDPがものすごく伸びるんです。人が街に出てくるようになって、お店の売り上げが伸びるから。あれは必ず高齢者のボケを遅くしますよ。
横山禎徳: そうでしょうね。寝たきり老人というのは寝かせておくから寝たきり老人になるので、起せば起きた老人になるし、歩かせれば歩く老人になるわけだから。今、歩かせる老人まではだいぶたどりついてきているので、これからは高齢者に目的と責任を持たせて、動かせて達成感を持たせるという仕組みをつくる。そういう可能性はあるでしょう。
山田興一: まさに、大事なのはこういう視点で世界を見るということです。社会全体をどうやって明るくしていこうかというときに、いろいろな分野の勉強をして最先端のことを知り、全体像が見えてくると「こういう社会をつくるために、こんな新しい技術や何かを入れたらどうか」ということがわかってくるんです。少し違う視点が出てきます。いかに多くの人が早くそういうことを知り、社会を経営していくか。これがポイントになってくると思います。
僕は技術をやっていたので、根本のところでは科学技術の進歩と社会システムの設計をどう合わせるかに関心がありますが、社会システムの設計が非常に遅れているんです。いろいろな技術があるのに全く使われていなかったり、無駄な研究がずっとされていたりする。これを何とかしないといけない。
横山禎徳: やってみるまでわからなかったんだけれど、EMPでは結果的にサイエンスの部分が非常に増えました。サイエンス・リテラシーというのがとても重要なんです。蓮舫さんを別に悪く言うわけじゃないけれど、スパコンの予算について「世界一になる理由は何があるんでしょうか? 2位じゃダメなんでしょうか?」と質問した蓮舫さんに対して、文科省のお役人が何と答えたかというと、「日本人の夢です」。そんなんだったら、やめればいいということになる。
あのとき答えなければいけなかったのは、「日本(が国家プロジェクトとして開発したスパコン「地球シミュレーター」)はすでにスパコンランキング(TOP500:2010年6月時点)で37位です。中国は2位ですが、もうすぐアメリカを抜いて1位になります。現在、日本とアメリカのスピードの差は100対1で、アメリカが1時間でできることを、日本は100時間かけないとできません。アメリカが100時間かかることは、日本は2年かかります。これではもう競争になりません」ということです。蓮舫さんがそういうことを知らないのはしょうがないけれど、文科省のお役人が全然それを語れないというのは本当に寂しい。
EMPは理系・文系というのを壊したいんです。両方がわかるようにしていかないとパースペクティブというのは出てこないと思うんですよ。
小宮山宏: 展望と、それから運動論じゃないかと僕は思うんです。「べき論」というのはたくさんあるけれど、議論だけじゃだめ。やっぱり行動する力が大切。「どうすべき」ではなく「どうやったら本当にできるのか」。日本は動けないんだよね。
日本には、参加型民主主義というのはできていないと思う。「政府が悪い」といくら言ったってよくならないということは、もうわかったでしょ。やっぱり、どうやって動くんですか、というのが大事。
横山禎徳: なぜ行動しないのか。私は長いことコンサルタントをやっていて感じているのは、情報を過剰消費してしまい、アクションをとる前に飽きてしまっているということです。特に金融機関なんかはそうです。「とにかく行動して、結果を見ながら修正していく」という人がなかなか出てこない。これは情報過剰時代の問題なんじゃないかと思います。
小宮山宏: それと、やっぱりベンチャー企業がなかなか育つ環境にないということ。大企業はいろいろなことを言っているけれど、ベンチャーなんてやらないからね。誰かが動き出さないといけない。だから私は最近、「プラチナ社会研究会」というのを立ち上げたんですよ。世界が求める21世紀の社会モデルである「地球環境問題を解決した元気な高齢化社会」をつくる、そのために新しい産業を創造するぞと。失敗してもいいと思って動き出したわけ。
横山禎徳: まあ、そうですよね、年も年だし(笑)。
小宮山宏: 「年も年」っていう考え方はね、もうだめなんだよ。僕らはもう90歳まで生きるという設計をすべきなんです。
横山禎徳: 高齢化社会というのは大きな問題ですが、寒気がするぐらいの怖い部分と、すごい可能性を持つ部分とが両方あるんです。
問題は、後期高齢者と呼ばれる75歳以上の人たちが、2005年から2030年にかけて約1,000万人増えるということ。それから団塊の世代の2人に1人は95歳ぐらいまで生きる可能性があるということ。95歳で亡くなったら、相続人はだいたい65歳ぐらいになる。そういう人はそこでお金をバンバン使うということはないから、消費が伸びない社会になっていくんです。
私は社会システムデザイナーだからシステムがいいと思いますけれど、産業でもシステムでもどっちでもいいんです。要は高齢化社会をどうとらえて、どう解決するかとなると、新しい動きというのはもっと出てくると思います。
小宮山宏: 例えばフランスのストラスブールは街を改造して、都心部は自動車の乗り入れを禁止しています。そうするとどうなるかというと、GDPがものすごく伸びるんです。人が街に出てくるようになって、お店の売り上げが伸びるから。あれは必ず高齢者のボケを遅くしますよ。
横山禎徳: そうでしょうね。寝たきり老人というのは寝かせておくから寝たきり老人になるので、起せば起きた老人になるし、歩かせれば歩く老人になるわけだから。今、歩かせる老人まではだいぶたどりついてきているので、これからは高齢者に目的と責任を持たせて、動かせて達成感を持たせるという仕組みをつくる。そういう可能性はあるでしょう。
山田興一: まさに、大事なのはこういう視点で世界を見るということです。社会全体をどうやって明るくしていこうかというときに、いろいろな分野の勉強をして最先端のことを知り、全体像が見えてくると「こういう社会をつくるために、こんな新しい技術や何かを入れたらどうか」ということがわかってくるんです。少し違う視点が出てきます。いかに多くの人が早くそういうことを知り、社会を経営していくか。これがポイントになってくると思います。
僕は技術をやっていたので、根本のところでは科学技術の進歩と社会システムの設計をどう合わせるかに関心がありますが、社会システムの設計が非常に遅れているんです。いろいろな技術があるのに全く使われていなかったり、無駄な研究がずっとされていたりする。これを何とかしないといけない。
横山禎徳: やってみるまでわからなかったんだけれど、EMPでは結果的にサイエンスの部分が非常に増えました。サイエンス・リテラシーというのがとても重要なんです。蓮舫さんを別に悪く言うわけじゃないけれど、スパコンの予算について「世界一になる理由は何があるんでしょうか? 2位じゃダメなんでしょうか?」と質問した蓮舫さんに対して、文科省のお役人が何と答えたかというと、「日本人の夢です」。そんなんだったら、やめればいいということになる。
あのとき答えなければいけなかったのは、「日本(が国家プロジェクトとして開発したスパコン「地球シミュレーター」)はすでにスパコンランキング(TOP500:2010年6月時点)で37位です。中国は2位ですが、もうすぐアメリカを抜いて1位になります。現在、日本とアメリカのスピードの差は100対1で、アメリカが1時間でできることを、日本は100時間かけないとできません。アメリカが100時間かかることは、日本は2年かかります。これではもう競争になりません」ということです。蓮舫さんがそういうことを知らないのはしょうがないけれど、文科省のお役人が全然それを語れないというのは本当に寂しい。
EMPは理系・文系というのを壊したいんです。両方がわかるようにしていかないとパースペクティブというのは出てこないと思うんですよ。
時代が求める人間像~知の構造化と課題設定能力~ インデックス
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第1章 俯瞰して課題設定できること。それがリーダーの要件
2011年04月14日 (木)
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第2章 課題の連関を読み解けば、解決策が見えてくる
2011年04月15日 (金)
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第3章 レアアースなんて大丈夫。やがて人工物は飽和する
2011年04月18日 (月)
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第4章 中国のセメントプラントを日本製に造り替える=ウィン・ウィン
2011年04月19日 (火)
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第5章 「東大EMP」は教養を学ぶ場ではない
2011年04月21日 (木)
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第6章 最先端の技術を社会システムに活かす~べき論から行動へ~
2011年04月22日 (金)
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第7章 You don't know what you don't know.
2011年04月25日 (月)
該当講座
時代が求める人間像
~知の構造化と課題設定能力~
小宮山宏 (東京大学 前総長、総長顧問、EMP チェアマン
株式会社三菱総合研究所 理事長)
山田興一 (東京大学 総長室顧問 EMPコ・チェアマン)
横山禎徳 (東京大学エグゼクティブ・マネジメント・プログラム(東大 EMP)企画・推進責任者 社会システムデザイン研究所ディレクター・社会システムデ ザイナー)
山田興一 (東京大学 総長室顧問 EMPコ・チェアマン)
横山禎徳 (東京大学エグゼクティブ・マネジメント・プログラム(東大 EMP)企画・推進責任者 社会システムデザイン研究所ディレクター・社会システムデ ザイナー)
小宮山宏 (東京大学 前総長、総長顧問、EMPチェアマン 株式会社三菱総合研究所 理事長)
大きな変革期を向えた今、これまでの延長線上に解の得られない時代に求められるリーダー・人間像とは?東京大学前総長であり東大EMPチェアマン小宮山宏氏にお話頂きます。
後半は山田興一氏(東大総長室顧問)、横山禎徳氏(社会システムデザイナー・東大EMP企画推進責任者)による鼎談があります。
教養 キャリア・人
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