記事・レポート

戸田奈津子氏が語る「映画の魅力を表現する字幕翻訳」

~1秒4文字、10文字×2行の世界~

更新日 : 2010年04月20日 (火)

第5章 初めて字幕の存在に気づいたのは、就職活動のとき

戸田奈津子氏

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戸田奈津子: 戦後の日本は、今とは全く違って映画しか娯楽がありませんでした。敗戦で富士山から海まで焼け野原になり、唯一の娯楽が映画だったのです。私はその洗礼を受けました。映画は自分の生活とかけ離れているからこそ、夢がかなうような、バラ色の世界にたちまちハマリました。

それが小学校の高学年頃で、中学に入ると英語の勉強が始まりました。私は中学に入って、本当に初めてアルファベットのABCを目にしたのです。映画で耳にしていた英語は一言もわからなかったけど「あの映画の言葉はこういう文字か」と、そのとき初めて知りました。

映画のおかげで、私は英語に興味を持ちました。もし映画がなければ、英語なんか大嫌いになってたかもしれません。好きなことがあると、それにまつわることを自発的に勉強する。それは本当に素晴らしいことで、私は映画様々で、英語だけは真面目に勉強しました。

大学は英語の学校に行きました。でも4年間、教室ではなくほとんど映画館におりました。中学、高校、大学と、10年間英語を勉強しつつ、大半の時間を映画館で過ごしたのです。好きなことをしているとすぐに時間は経つもので、あっという間に4年が過ぎました。そして就職という大きな幕がドンと目の前に降りてきたとき、「どうしよう、何を仕事にしよう」となったのです。

「自分の好きなことを仕事にできたらいいな」と思い、そこで初めて自分を振り返りました。そして「私はとにもかくにも映画が好きだ。それに引きずられて英語も勉強した、この2つが活かせるものがあればいいな」と、短絡的に考えたのです。そのとき初めて、「いつも字幕を見ているけれど、あれって、誰かがどこかでやっているんだ」と気づいたのです。

それまで何千本と映画を観ていたのに、「字幕をしている人がいる」なんて考えたことがありませんでした。でも職業に迫られて、「あっ、誰かやっているんだ。あの仕事は、まず映画を観るのが仕事なんだ。こんなに素晴らしいことはない」と思ったんです。

私は英語は勉強しましたが、ヒヤリング力や会話はゼロ。今と違って当時の英語の授業は活字だけで、ネイティブの先生なんていませんでした。私は10年間英語を勉強しましたが、その間、口と耳を使ったことは一度もありません。目で読み、書くだけでした。

そんな耳で聞いていても、字幕ってあんなにベラベラしゃべっているのに、出てくる文章は短い!。4文字とか5文字でパッと変わるので「全部は訳していないな」ということぐらいは気づきました。長いものを非常に縮小しているのに、ちゃんと泣ける、笑える、感動できる——とても面白そう。普通の本の翻訳とは違う、という予感がしました。

私は芝居が好きだったので、短い言葉で的確にドラマを表現して、台詞をつくるということにすごく興味持ち、「私の仕事はこれだ!」と思ったのです。それが大学卒業の直前でした。

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映画の魅力を表現する字幕翻訳
~1秒4文字、10字×2行の世界~
戸田奈津子 (映画字幕翻訳者)

戸田 奈津子(映画字幕翻訳者)
10月の六本木ヒルズクラブランチョンセミナーでは映画字幕翻訳者の戸田奈津子氏をお迎えします。「字幕翻訳者になりたい」と、夢を叶えるために、ゼロから出発し、門のない世界に挑み続け、字幕翻訳者として活躍するまでに20年間の歳月を振り返り、映画に魅せられたご自身の人生と、1秒4文字、10字×2行という厳しい文字制限の中から生まれる字幕翻訳の世界についてお話いただきます。


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