記事・レポート
鎌田浩毅の『一生モノの勉強法』実践講座
落ちこぼれ学生から、世界トップレベルの研究者へ
更新日 : 2010年03月30日
(火)
第7章 東京は効率主義だからこそバブルの崩壊まで突き進んでしまう
鎌田浩毅: 私は今、京都に暮らしています。京都から見ると東京というか、日本というか、世界のおかしいところがたくさん見えます。それは何かというと、皆さん忙し過ぎるということです。毎日の仕事やいろいろなお付き合いに追われていますね。皆さん、手帳を真っ黒にしないと不安でしょう? それはある意味で不安症候群だと思います。もちろん忙しいということは、いろいろな仕事で声がかかったり、友達から電話が来たり、とてもうれしいことですね。けれど、その忙しさにかまけていると自分を見失うのですね。
一番大事なことは、本当にこれは自分がすべき仕事だったのか、本当に行くべきレクリエーションだったのか、ただ手帳が白いのが恐いからなのか、もう一回ちゃんと自分を振り返ってみることです。そうしないと、とにかく忙しくしないと不安になってしまい、そのまま仕事と人生の質が低下するのです。
私の同僚や文筆業をやっている知り合いなど、皆そうですね。そして、彼らはすべて東京に住んでいるのです。例えば本を出して6万部ぐらい売れると、依頼がたくさん来ます。次の本を執筆する話や、講演の依頼、雑誌の取材などなど。もし全部引き受けていたら、あっという間に自分の時間が無くなってパンクしてしまうでしょう。パンクするだけならいいですが、それだけではなく自分の受けた仕事の質がどんどん低下するのですよ。
私は今どうしているかと言うと、本当にこの仕事は自分にしかできないものか否かを考えて、仕事を受けるかお断りするのかを決めています。ご依頼いただけるのは大変ありがたいのですが、全部受けていたら、私は頭がパンクしてご期待に応えられなくなります。だから自分でちゃんと抑えます。「申し訳ないけれども、3年待っていただけますか」と丁寧なメールを返します。
これは、東京と京都の距離だからいいのです。編集者の方が本の依頼で来るときも、京都までの新幹線代を使って、ときには一泊して時間を一日か一日半ぐらい、丸々つぶしていらっしゃるわけですね。そうすると、どうしても私に書かせたいと思った方だけが来られるわけです。しかし東京にいたらスッと30分ぐらいで来るわけでしょう。そうすると、今の10倍ぐらい依頼が来ると思います。幸い京都にいるから、今の状況で済んでいるわけです。
『一生モノ』の第二弾として、『京大・鎌田流 知的生産な生き方 ロールモデルを求めて』という本を書きました。一言で言うと「京都の良さ、京都の距離」ということです。結局、東京はすべて効率主義で、だからこそバブルの崩壊まで突き進んでしまったわけですね。これは東京だけではなくて、世界的な傾向です。皆、同じ速度で走らないと自分だけが取り残されると思っている。遅れること自体がトラウマになって、全員が走り出すわけですね。そうではないところから物事を考えないと、良いものは生まれないと思うのです。
記事をシェアする
ブログに書く
この記事のURLはこちら。
http://www.academyhills.com/note/opinion/10021007LifeStudy.html
関連書籍
一生モノの勉強法
鎌田浩毅東洋経済新報社
鎌田浩毅の『一生モノの勉強法』実践講座 インデックス
-
第1章 なぜ、『一生モノの勉強法』なのか
2010年02月10日 (水)
-
第2章 落ちこぼれの理系科学者が、急に火山に目覚め理学博士を取得
2010年02月18日 (木)
-
第3章 失われた10年を全く学んでいない(1)
2010年02月25日 (木)
-
第4章 失われた10年を全く学んでいない(2)
2010年03月05日 (金)
-
第5章 火山の論文を理解してほしいのは、少数の学者ではなく富士山周辺の30万人
2010年03月15日 (月)
-
第6章 もし人を変えようと思ったら自分が変わるしかない
2010年03月23日 (火)
-
第7章 東京は効率主義だからこそバブルの崩壊まで突き進んでしまう
2010年03月30日 (火)
-
第8章 心の京都、心のファッション(1)
2010年04月06日 (火)
-
第9章 心の京都、心のファッション(2)
2010年04月14日 (水)
該当講座
鎌田浩毅 (京都大学大学院 人間・環境学研究科教授)
鎌田 浩毅(京都大学教授)
京都大学の人気教授が数多くの試行錯誤の経験から生み出した、「大人のための実践的勉学のテクニック」を解説します。一生役立つ勉強法を学び、自分を成長させたい方のご参加をお待ちしております。
BIZセミナー
ビジネススキル 教養
注目の記事
-
10月22日 (火) 更新
本から「いま」が見えてくる新刊10選 ~2024年10月~
毎日出版されるたくさんの本を眺めていると、世の中の”いま”が見えてくる。新刊書籍の中から、今知っておきたいテーマを扱った10冊の本を紹介しま....
-
10月22日 (火) 更新
aiaiのなんか気になる社会のこと
「aiaiのなんか気になる社会のこと」は、「社会課題」よりもっと手前の「ちょっと気になる社会のこと」に目を向けながら、一市民としての視点や選....
-
10月22日 (火) 更新
メタバースは私たちの「学び」に何をもたらす?<イベントレポート>
メタバースだからこそ得られる創造的な学びとは?N高、S高を展開する角川ドワンゴ学園の佐藤将大さんと、『メタバース進化論』を出版されたバーチャ....
現在募集中のイベント
-
開催日 : 11月28日 (木) 19:00~20:30
World Report 第10回 アメリカ発 by 渡邊裕子
いま世界の現場で何が起きているのかを、海外在住の日本人ジャーナリスト、起業家、活動家の視点を通して解説し、そこから見えてくることを参加者の皆....
「ハリス V.S. トランプ 米国大統領選挙結果を読み解く」
-
開催日 : 11月14日 (木) 19:00~20:30
「あたりまえ」のつくり方
「テクノロジー」、「ダイバーシティ」、「サステナビリティ」という3つの世界的潮流が押し寄せる中、これまで以上に本来のPRが持つ「新しいあたり....