記事・レポート
貧困のない世界を創る ~ソーシャル・ビジネスと新しい資本主義~
ノーベル平和賞受賞者ムハマド・ユヌス氏 来日記念セミナー
更新日 : 2009年12月08日
(火)
第7章 ソーシャル・ビジネスとチャリティの違い
会場からの質問: 回りの人たちの多くがソーシャル・ベンチャーに関心があっても、安定した収入を捨てるという自分の殻を破る一歩が踏み出せない。この背景には、子どものころからの教育の影響があると思います。もしバングラデシュで、子どもたちにソーシャル・ベンチャーについて考えるような活動をされていたら、お伺いしたいのですが。
ムハマド・ユヌス: 「グラミン銀行の教育ローンに助けてもらいました」と言ってきた人がいました。そして、「職を見つけるのを手伝ってくれませんか?」と言うので、私はこう話しました。「あなたはグラミン銀行の子どもです。違った考え方をしなさい。毎朝、鏡の前に立って、『私はほかの人から職を与えられるのを待たない。ほかの人に仕事を与えることが私のミッションなんだ』と自分に対して宣誓しなさい」。
彼は驚いていました。「自分の仕事がないのに、どうやってほかの人に仕事を与えるのですか?」「あなたのお母さんは学校に行ったこともないけれど、グラミン銀行から融資を受けて事業を始め、それを拡大してきたから、大学に行った今日のあなたがあるのです。お母さんにはそれができた。あなたは何のために教育を受けたのですか? 自分に対してチャレンジしなさい」と、私は言うのです。
つまり、「お金があなたの制約要因ではない。お金をどうやって使うか、事業を始めることがあなたの使命だ」と言って聞かせるのです。
すべては考え方次第です。「いい成績をとって、いい大学にいく」というのは従来の考え方です。「安定した殻から出たくない」、確かにそうです。職に就いていると天国で、外は地獄のように見えるでしょうが、人生はそんなものではないのです。
私は銀行家になって好きなことをしています。好きなことをやっていれば、24時間働いていても苦にならないはずです。そういう社会が、今までできてこなかったから、「今の職を辞めれば、あとは闇」と思ってしまうのです。でも飛び出てみれば、成功もあれば失敗もあるけれども、どんどん先が続くのです。
会場からの質問: チャリティについての考え方を聞かせてください。それらとソーシャル・ビジネスとの違いを教えてください。
ムハマド・ユヌス: 私はチャリティに反対しているわけではありません。例えば、津波や洪水、あるいはサイクロンや地震等の災害が起こったときには、ソーシャル・ビジネスではなく、慈善活動が必要です。
ただ、人道的な救援活動が終わり、人々が平常な暮らしに戻ろうとしている時期には、それ以上のことを考えなければなりません。チャリティは、「チャリティが必要な状況から抜け出す手助けをする」ということにとどめるべきです。
豊かな先進国では、政府が提供する福祉プログラムがあります。アメリカでは、福祉を受ける立場になって、例えば1ドル稼ぐと、福祉当局に報告しなければならず、そうすると福祉手当から1ドル差し引かれるのです。こんなクレージーなことがあっていいのでしょうか? そんなことをしたら「政府に持っていかれてしまうから、稼いでもしょうがない」という考えになってしまい、いろいろな能力を持った人たちが福祉から抜け出せなくなってしまいます。福祉プログラムというのは、そうなりがちです。
福祉の原則は、「できる限り福祉から早く抜け出せるようにする」ということを目的、目標にするべきで、ソーシャル・ビジネスに切り替えていけば、その壁を打ち破れるのです。
会場からの質問: ユヌス博士の夢を教えてください。
ムハマド・ユヌス: 人間は食べ物のことを心配しているべきものではなく、もっと大きな存在で、世の中のことをどうやって改善したらいいのかを考えるのが人間の役割なんです。ところが世界の多くの人たちにそういう機会が与えられていないから、何かうまくいっていないのです。みんなが世界に貢献することに頭を使うことができる、つまり明日の食べ物のことばかり心配しないで済むような世の中をつくりたいのです。
ミレニアム・サミットでは、「2015年までに貧困を半減する」という目標が掲げられましたが、バングラデシュもその年までに半減させたいと思いますし、できると思います。それができたら、次の目標、「何年までに、貧困をどこまで下げる」と、できるだけ近い期限を設けてその目標を達成し、貧困をゼロにすべきです。
そして「貧困博物館」というものをつくれたらいいと思います。子どもたちが「貧困というのは、一体何?」と訊ねたら、その博物館に連れて行って「貧困というのはひどいものだったんだよ」と語ってあげる。そして、貧困を博物館だけで見られるようなものにするというのが、私の夢です。(了)
ムハマド・ユヌス: 「グラミン銀行の教育ローンに助けてもらいました」と言ってきた人がいました。そして、「職を見つけるのを手伝ってくれませんか?」と言うので、私はこう話しました。「あなたはグラミン銀行の子どもです。違った考え方をしなさい。毎朝、鏡の前に立って、『私はほかの人から職を与えられるのを待たない。ほかの人に仕事を与えることが私のミッションなんだ』と自分に対して宣誓しなさい」。
彼は驚いていました。「自分の仕事がないのに、どうやってほかの人に仕事を与えるのですか?」「あなたのお母さんは学校に行ったこともないけれど、グラミン銀行から融資を受けて事業を始め、それを拡大してきたから、大学に行った今日のあなたがあるのです。お母さんにはそれができた。あなたは何のために教育を受けたのですか? 自分に対してチャレンジしなさい」と、私は言うのです。
つまり、「お金があなたの制約要因ではない。お金をどうやって使うか、事業を始めることがあなたの使命だ」と言って聞かせるのです。
すべては考え方次第です。「いい成績をとって、いい大学にいく」というのは従来の考え方です。「安定した殻から出たくない」、確かにそうです。職に就いていると天国で、外は地獄のように見えるでしょうが、人生はそんなものではないのです。
私は銀行家になって好きなことをしています。好きなことをやっていれば、24時間働いていても苦にならないはずです。そういう社会が、今までできてこなかったから、「今の職を辞めれば、あとは闇」と思ってしまうのです。でも飛び出てみれば、成功もあれば失敗もあるけれども、どんどん先が続くのです。
会場からの質問: チャリティについての考え方を聞かせてください。それらとソーシャル・ビジネスとの違いを教えてください。
ムハマド・ユヌス: 私はチャリティに反対しているわけではありません。例えば、津波や洪水、あるいはサイクロンや地震等の災害が起こったときには、ソーシャル・ビジネスではなく、慈善活動が必要です。
ただ、人道的な救援活動が終わり、人々が平常な暮らしに戻ろうとしている時期には、それ以上のことを考えなければなりません。チャリティは、「チャリティが必要な状況から抜け出す手助けをする」ということにとどめるべきです。
豊かな先進国では、政府が提供する福祉プログラムがあります。アメリカでは、福祉を受ける立場になって、例えば1ドル稼ぐと、福祉当局に報告しなければならず、そうすると福祉手当から1ドル差し引かれるのです。こんなクレージーなことがあっていいのでしょうか? そんなことをしたら「政府に持っていかれてしまうから、稼いでもしょうがない」という考えになってしまい、いろいろな能力を持った人たちが福祉から抜け出せなくなってしまいます。福祉プログラムというのは、そうなりがちです。
福祉の原則は、「できる限り福祉から早く抜け出せるようにする」ということを目的、目標にするべきで、ソーシャル・ビジネスに切り替えていけば、その壁を打ち破れるのです。
会場からの質問: ユヌス博士の夢を教えてください。
ムハマド・ユヌス: 人間は食べ物のことを心配しているべきものではなく、もっと大きな存在で、世の中のことをどうやって改善したらいいのかを考えるのが人間の役割なんです。ところが世界の多くの人たちにそういう機会が与えられていないから、何かうまくいっていないのです。みんなが世界に貢献することに頭を使うことができる、つまり明日の食べ物のことばかり心配しないで済むような世の中をつくりたいのです。
ミレニアム・サミットでは、「2015年までに貧困を半減する」という目標が掲げられましたが、バングラデシュもその年までに半減させたいと思いますし、できると思います。それができたら、次の目標、「何年までに、貧困をどこまで下げる」と、できるだけ近い期限を設けてその目標を達成し、貧困をゼロにすべきです。
そして「貧困博物館」というものをつくれたらいいと思います。子どもたちが「貧困というのは、一体何?」と訊ねたら、その博物館に連れて行って「貧困というのはひどいものだったんだよ」と語ってあげる。そして、貧困を博物館だけで見られるようなものにするというのが、私の夢です。(了)
関連書籍
貧困のない世界を創る—ソーシャル・ビジネスと新しい資本主義
ユヌス,ムハマド, 猪熊 弘子【訳】早川書房
ムハマド・ユヌス自伝—貧困なき世界をめざす銀行家
ユヌス,ムハマド, ジョリ,アラン, 猪熊 弘子【訳】早川書房
貧困のない世界を創る ~ソーシャル・ビジネスと新しい資本主義~ インデックス
-
第1章 27ドルで借金苦という異状。グラミン銀行の誕生背景
2009年10月07日 (水)
-
第2章 グラミン銀行がニューヨークに進出した理由
2009年10月16日 (金)
-
第3章 なぜ100年に1度の危機に陥ったのか。ビジネスの概念を問い直せ
2009年10月26日 (月)
-
第4章 ソーシャル・ビジネスで「技術と問題」をつなげば、社会問題は解決できる
2009年11月06日 (金)
-
第5章 ソーシャル・ビジネスもビジネス。持続可能でなければならない
2009年11月17日 (火)
-
第6章 お金を稼ぐ目的は何ですか?
2009年11月27日 (金)
-
第7章 ソーシャル・ビジネスとチャリティの違い
2009年12月08日 (火)
該当講座
ノーベル平和賞受賞者ムハマド・ユヌス氏来日記念セミナー
貧困のない世界を創る ~ソーシャル・ビジネスと新しい資本主義~
ムハマド・ユヌス(グラミン銀行総裁)
貧困層に無担保で少額の融資を行う「マイクロクレジット」という手法によって、貧しい人々の経済的自立を支援するグラミン銀行を設立し、その活動によってノーベル平和賞を受賞したムハマド・ユヌス氏。彼が新たに提唱する「ソーシャル・ビジネス」の構想と実践についてお話いただきます。
BIZセミナー
政治・経済・国際
注目の記事
-
11月20日 (水) 更新
aiaiのなんか気になる社会のこと
「aiaiのなんか気になる社会のこと」は、「社会課題」よりもっと手前の「ちょっと気になる社会のこと」に目を向けながら、一市民としての視点や選....
-
10月22日 (火) 更新
本から「いま」が見えてくる新刊10選 ~2024年10月~
毎日出版されるたくさんの本を眺めていると、世の中の”いま”が見えてくる。新刊書籍の中から、今知っておきたいテーマを扱った10冊の本を紹介しま....
-
10月22日 (火) 更新
メタバースは私たちの「学び」に何をもたらす?<イベントレポート>
メタバースだからこそ得られる創造的な学びとは?N高、S高を展開する角川ドワンゴ学園の佐藤将大さんと、『メタバース進化論』を出版されたバーチャ....
現在募集中のイベント
-
開催日 : 12月17日 (火) 19:00~20:30
note × academyhills
メディアプラットフォームnoteとのコラボイベント第1回。近著『きみのお金は誰のため』が25万部超のベストセラーとなっている、社会的金融教育....
「そもそもお金って何?未来をつくるためのお金の教養」
-
開催日 : 11月28日 (木) 19:00~20:30
World Report 第10回 アメリカ発 by 渡邊裕子
いま世界の現場で何が起きているのかを、海外在住の日本人ジャーナリスト、起業家、活動家の視点を通して解説し、そこから見えてくることを参加者の皆....
「ハリス V.S. トランプ 米国大統領選挙結果を読み解く」