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貧困のない世界を創る ~ソーシャル・ビジネスと新しい資本主義~

ノーベル平和賞受賞者ムハマド・ユヌス氏 来日記念セミナー

更新日 : 2009年10月26日 (月)

第3章 なぜ100年に1度の危機に陥ったのか。ビジネスの概念を問い直せ

ムハマド・ユヌス氏

ムハマド・ユヌス: グラミンの家族の子どもたちが学校に行けるよう、教育ローンを提供 してきたところ、100%が就学しました。高等教育向けのローンも始めました。今では35,000人以上の学生が、医療、工学等を学んでいます。文字も書けなかった家族から出てきた学生が、博士号までとっています。素晴らしい第二世代が出てきているのです。

あるとき、「私は15年、グラミン銀行で融資を受けました。家も建てたし、私の事業はこんなに育っています。自分の人生でこれだけのことができました」と、うれしそうに語ってくれた女性がいました。彼女の隣にいた若い女性に、「あなたは何をしているのですか?」と聞くと、「私は医大を卒業し、今は医師として働いています」と言いました。

こういうことは、私をとてもうれしくさせてくれますが、同時に疑問も出てきます。「母親だって医師になれたはずだ。しかし、彼女は文字も読めない。彼女を文字も読めないような状態にしたのは、一体誰なんだろう?」

1つの小さな機会が彼女の生活を変え、彼女の娘の生活も変えました。貧困というのは貧しい人たちのせいで起きるのではない。これが、私が学んだ1つの教訓です。

貧困は「制度」がつくるのです。私たちが構築した制度、実施していく政策、そして私たちが設計した概念、こういうものが貧困の種となるのです。貧困は人工的につくられ、課されるもので、制度を是正し、概念や政策を是正することによって、なくすことができるのです。

今、世の中は金融危機の話題で持ち切りです。各地でひどいことが起きているのはわかりますが、私は、「危機を恐れるな。生涯において最大の変化を起こすチャンスととらよう」と言っています。すべての想像力とエネルギーを注ぎ込んで、危機が始まる前に後戻りしないように、こういうことが二度と起きないように、新しい地点に到達できるよう努力すべきなのです。

特に、私が焦点を当てたいのはビジネスという概念です。ここからいろいろな問題が発生していると思うのです。現在のビジネスの概念は、人間をつかみきれていません。「利益の極大化こそが人間の目標、ビジネスの最終目標だ」と我々は教え込まれてきましたが、これは人間を一次元的な生き物としてとらえているにすぎません。人間はロボットではなく、いろいろな側面を持つ、もっと大きな存在のはずです。

我々は人間としての力をもっと発揮できるようにしなければなりません。人間は利己的でもありますが、無私でもあります。その両方を持つからこそ人間なのであり、それをベースにすべきです。無私、無欲からビジネスを立ち上げてもいいじゃありませんか。それを私は「ソーシャル・ビジネス」と呼んでいます。社会目標志向で、社会問題を解決するためのビジネスのことです。

関連書籍

貧困のない世界を創る—ソーシャル・ビジネスと新しい資本主義

ユヌス,ムハマド, 猪熊 弘子【訳】
早川書房

ムハマド・ユヌス自伝—貧困なき世界をめざす銀行家

ユヌス,ムハマド, ジョリ,アラン, 猪熊 弘子【訳】
早川書房


該当講座

ノーベル平和賞受賞者ムハマド・ユヌス氏来日記念セミナー

貧困のない世界を創る ~ソーシャル・ビジネスと新しい資本主義~

ノーベル平和賞受賞者ムハマド・ユヌス氏来日記念セミナー
ムハマド・ユヌス (グラミン銀行創設者/2006年ノーベル平和賞受賞者)
米倉誠一郎 (日本元気塾塾長/法政大学イノベーション・マネジメント研究科教授/ 一橋大学イノベーション研究センター名誉教授)

ムハマド・ユヌス(グラミン銀行総裁)
貧困層に無担保で少額の融資を行う「マイクロクレジット」という手法によって、貧しい人々の経済的自立を支援するグラミン銀行を設立し、その活動によってノーベル平和賞を受賞したムハマド・ユヌス氏。彼が新たに提唱する「ソーシャル・ビジネス」の構想と実践についてお話いただきます。


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