記事・レポート
貧困のない世界を創る ~ソーシャル・ビジネスと新しい資本主義~
ノーベル平和賞受賞者ムハマド・ユヌス氏 来日記念セミナー
更新日 : 2009年10月16日
(金)
第2章 グラミン銀行がニューヨークに進出した理由
ムハマド・ユヌス: グラミン銀行の面白いところは、そのすべてが借り手の人たちによって回る仕組みになっているところです。今ではバングラデシュ最大の銀行になりましたが、一番貧しい人たちがこの銀行を所有しているのです。そして銀行は利益を上げています。利益はまた銀行の中に戻され、所有している貧しい人々に配当として回ります。
多くの人から、「グラミン銀行のシステムは、どう決めたのですか?」と聞かれます。私はもともと銀行の経営者ではないので、やりながら、戦いながら身につけていったものばかりです。私にとっての最大の財産は、銀行について何も知らなかったことです。既存のルールに縛られることがなかったのです。
では、どのようにルールを決めたのかというと、手続きが必要な場合には、従来の銀行がどうなっているのか、その仕組みをまず見ました。それを学んで理解して、その逆をやるとうまくいったのです。
従来の銀行は金持ち向けの銀行業務をやっていますが、私は貧しい人々を対象にしています。従来の銀行は男性を、私は女性を中心にしました。また、従来の銀行は都心のビジネス街に集中していますが、我々は最も離れた村という場所に行きました。
従来の銀行は担保を必要としますが、私どもは「担保なんて要らない」と言いました。「担保がほしいなら、貧しい人を相手にはできない。何も持っていなくて、食べ物も十分になく死んでいってしまうような人たちに担保を求めるのはクレージーだ」と言いました。
従来の銀行は、借り手が「今までどういうふうにお金を稼いできたか、誰から借りてきたか」、あるいは「過去に何か悪い経歴を持っていないか」ということを知りたがります。私どもはスタッフに、「我々が興味を持っているのは彼らの将来だ。過去には興味がない。悪いことをしてきたかもしれないが、それを罰することはできない」と言いました。ですから、過去について質問はしません。
こういうリストが延々と続きます。ですからマイクロクレジットは、「無担保で少額の金額を貧しい人に貸す」というだけのことではなくて、1つの制度づくりだったのです。
アメリカでこういう制度がうまくいくかどうか、という議論がありました。私はこう言いました。「私どもに任せてくだされば、アメリカでやってみせましょう」と。そこで、2008年の1月、ニューヨークのクイーンズ地区でプログラムを始めました。
「なぜ、わざわざニューヨークに来て、こういうことをするのか?」とジャーナリストから聞かれたので、私はこう答えました。「意図的にニューヨークを選んだのです。ニューヨークは世界の銀行の、いわば首都ですが、『隣人のための銀行業務』はやっていないんじゃないですか。貧しい生活をしている人たちは、ここでは融資を受ける資格がないようですが、私どもならそれができるということを示しに来たのです。決して恐れることはありません。もし私たちが証明できたら、あなたたちも彼らを相手に業務をやってください」と。
アメリカでは、何百万という人たちが銀行から借りる資格がないばかりでなく、持っているお金が少ないと「口座さえ持てない」ということをご存知でしょうか。小切手を現金化する会社があり、口座を持てない人たちは、そういうところで現金化しなければいけないのですが、そこでは1,000ドルの小切手に対して800ドルや750ドルしかもらえません。残りは手数料として取られてしまうのです。
最も高度な銀行業務をやっているはずの国でこういうことが起きているので、何とかしなければならないと思ったのです。業務を始めてもう14カ月ぐらい経つでしょうか(※編注:2008年1月に進出)。約500人の借り手がニューヨークのジャクソンハイツにいて、全員女性です。収入がある人たちには融資をしています。バングラデシュと同じように5人のグループにして、毎週返済というルールでやっています。平均のローン額は2,200ドル、返済率は99.6%です。
多くの人から、「グラミン銀行のシステムは、どう決めたのですか?」と聞かれます。私はもともと銀行の経営者ではないので、やりながら、戦いながら身につけていったものばかりです。私にとっての最大の財産は、銀行について何も知らなかったことです。既存のルールに縛られることがなかったのです。
では、どのようにルールを決めたのかというと、手続きが必要な場合には、従来の銀行がどうなっているのか、その仕組みをまず見ました。それを学んで理解して、その逆をやるとうまくいったのです。
従来の銀行は金持ち向けの銀行業務をやっていますが、私は貧しい人々を対象にしています。従来の銀行は男性を、私は女性を中心にしました。また、従来の銀行は都心のビジネス街に集中していますが、我々は最も離れた村という場所に行きました。
従来の銀行は担保を必要としますが、私どもは「担保なんて要らない」と言いました。「担保がほしいなら、貧しい人を相手にはできない。何も持っていなくて、食べ物も十分になく死んでいってしまうような人たちに担保を求めるのはクレージーだ」と言いました。
従来の銀行は、借り手が「今までどういうふうにお金を稼いできたか、誰から借りてきたか」、あるいは「過去に何か悪い経歴を持っていないか」ということを知りたがります。私どもはスタッフに、「我々が興味を持っているのは彼らの将来だ。過去には興味がない。悪いことをしてきたかもしれないが、それを罰することはできない」と言いました。ですから、過去について質問はしません。
こういうリストが延々と続きます。ですからマイクロクレジットは、「無担保で少額の金額を貧しい人に貸す」というだけのことではなくて、1つの制度づくりだったのです。
アメリカでこういう制度がうまくいくかどうか、という議論がありました。私はこう言いました。「私どもに任せてくだされば、アメリカでやってみせましょう」と。そこで、2008年の1月、ニューヨークのクイーンズ地区でプログラムを始めました。
「なぜ、わざわざニューヨークに来て、こういうことをするのか?」とジャーナリストから聞かれたので、私はこう答えました。「意図的にニューヨークを選んだのです。ニューヨークは世界の銀行の、いわば首都ですが、『隣人のための銀行業務』はやっていないんじゃないですか。貧しい生活をしている人たちは、ここでは融資を受ける資格がないようですが、私どもならそれができるということを示しに来たのです。決して恐れることはありません。もし私たちが証明できたら、あなたたちも彼らを相手に業務をやってください」と。
アメリカでは、何百万という人たちが銀行から借りる資格がないばかりでなく、持っているお金が少ないと「口座さえ持てない」ということをご存知でしょうか。小切手を現金化する会社があり、口座を持てない人たちは、そういうところで現金化しなければいけないのですが、そこでは1,000ドルの小切手に対して800ドルや750ドルしかもらえません。残りは手数料として取られてしまうのです。
最も高度な銀行業務をやっているはずの国でこういうことが起きているので、何とかしなければならないと思ったのです。業務を始めてもう14カ月ぐらい経つでしょうか(※編注:2008年1月に進出)。約500人の借り手がニューヨークのジャクソンハイツにいて、全員女性です。収入がある人たちには融資をしています。バングラデシュと同じように5人のグループにして、毎週返済というルールでやっています。平均のローン額は2,200ドル、返済率は99.6%です。
関連書籍
貧困のない世界を創る—ソーシャル・ビジネスと新しい資本主義
ユヌス,ムハマド, 猪熊 弘子【訳】早川書房
ムハマド・ユヌス自伝—貧困なき世界をめざす銀行家
ユヌス,ムハマド, ジョリ,アラン, 猪熊 弘子【訳】早川書房
貧困のない世界を創る ~ソーシャル・ビジネスと新しい資本主義~ インデックス
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第1章 27ドルで借金苦という異状。グラミン銀行の誕生背景
2009年10月07日 (水)
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第2章 グラミン銀行がニューヨークに進出した理由
2009年10月16日 (金)
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第3章 なぜ100年に1度の危機に陥ったのか。ビジネスの概念を問い直せ
2009年10月26日 (月)
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第4章 ソーシャル・ビジネスで「技術と問題」をつなげば、社会問題は解決できる
2009年11月06日 (金)
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第5章 ソーシャル・ビジネスもビジネス。持続可能でなければならない
2009年11月17日 (火)
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第6章 お金を稼ぐ目的は何ですか?
2009年11月27日 (金)
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第7章 ソーシャル・ビジネスとチャリティの違い
2009年12月08日 (火)
該当講座
ノーベル平和賞受賞者ムハマド・ユヌス氏来日記念セミナー
貧困のない世界を創る ~ソーシャル・ビジネスと新しい資本主義~
ムハマド・ユヌス(グラミン銀行総裁)
貧困層に無担保で少額の融資を行う「マイクロクレジット」という手法によって、貧しい人々の経済的自立を支援するグラミン銀行を設立し、その活動によってノーベル平和賞を受賞したムハマド・ユヌス氏。彼が新たに提唱する「ソーシャル・ビジネス」の構想と実践についてお話いただきます。
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