記事・レポート
貧困のない世界を創る ~ソーシャル・ビジネスと新しい資本主義~
ノーベル平和賞受賞者ムハマド・ユヌス氏 来日記念セミナー
更新日 : 2009年10月07日
(水)
第1章 27ドルで借金苦という異状。グラミン銀行の誕生背景
世界同時不況の犯人として、グローバル資本主義に疑いの目が向けられています。しかしムハマド・ユヌス氏は、資本主義ビジネスの手法を用いて貧困を減らすことに成功し、ノーベル平和賞を受賞しました。貧困を生み出すビジネスと解消するビジネス —— その分かれ目とは? 「社会企業」の真髄と世界を変える道筋に迫ります。
講師:ムハマド・ユヌス(グラミン銀行総裁)
モデレーター:米倉誠一郎(日本元気塾塾長/一橋大学イノベーション研究センター長・教授)
ムハマド・ユヌス: 1972年、私は留学先のアメリカから帰国し、バングラデシュの大学で経済学の教授となり、すばらしい経済学の理論をバングラデシュの若い学生たちに教えたいという熱意に溢れていました。
1974年にバングラデシュは、凄まじい飢饉に襲われました。しかし、後になって実は国の中で食料が有り余っていたということがわかったのです。それなのに多くの人は食べ物を買うお金がなく、飢えに苦しんで死んでしまったのです。
私は、その状況の前で無力でした。優れた経済学の理論はあるけど、何ができるのか。全くどうしたらいいのかわかりませんでした。しかし、「理論を捨て去り、一介の人間に戻って考えよう。街中を歩き、貧しい人の横に立ってみよう。そして何か力になれることをしよう」と、行動を起こしていくなかで学んでいったのです。
村人たちを取り巻いている状況がわかりはじめ、私は驚きました。絶体絶命に追い込まれた人たちが、必死でほんの少額を高利貸しから借りるのですが、そうすると高利貸しはその人の人生を乗っ取って奴隷にしてしまうのです。それを何度も目にして、「こんなことがあっていいのか」と大変なショックを受けました。
そこでまず、どういう人がどのくらいの額を借りているのか調べたところ、42人が総額でたった27ドルを借りていただけだったのです。こんなわずかな金額を借りただけで、こんなに苦しまなければいけないのか。私はそんな教育を受けたことはありませんでした。
私は、この問題は解決できると気がつきました。思いついたアイディアは簡単なものです。「この42人の人たちに27ドルをあげて、高利貸しにお金を返済してもらおう。返済したら彼らは解放される。少なくとも私にそれはできる」と考え、ただちに実行しました。
みんなとても喜んでくれ、私が奇跡を起こしたかのような目で見てくれました。「少額のお金でこれほど多くの人を幸せにできるなら、もっとやれるのではないか」と思いました。
いろいろ考えた中で、素晴らしいと思ったアイディアが1つありました。そこで、大学のキャンパスにいる銀行家のところに行って、「貧しい人々が高利貸しから借りなくて済むように、銀行が貸し付けてほしい」と頼んでみました。ところが、銀行家は「とんでもない。銀行は貧しい人には貸せない。絶対だめだ」と言いました。
何カ月も押し問答が続き、とうとう私は別のアイディアを思いつきました。「私が保証人になります。すべての書類に署名しますから、お金を貸してあげてください」と、2カ月にわたって説得を試みたところ、ようやく受け入れてくれました。その後、長い歴史になるマイクロクレジットは、そこから始まったのです。
うまくいき始めたことで私は情熱を覚えましたが、銀行の方は渋るようになりました。私は「もう銀行との取引はやめて、自分で貧しい人々のための銀行を立ち上げよう」と思うようになりました。1976年、今度は銀行を設立するために当局との戦いが始まりましたが、幸運なことに1983年に許可が下りました。
グラミン銀行というのは「村の銀行」という意味です。全国展開で、28,000人以上の職員がいます。平均のローン額は200ドルぐらいですので非常に少額ですが、貸付総額は毎年10億ドル以上になります。今約800万人の借り手がおり、その97%が女性です。加入したときには極貧にあえいでいた人たちです。
30ドルや35ドルという少額の借金で自営業をしたりして、収入を上げることから始め、その後少し多くの借金をして、さらに成長していっています。グラミン銀行で5年以上借りている人たちの65%を、貧困のボーダーラインより上に引き上げることができました。
1974年にバングラデシュは、凄まじい飢饉に襲われました。しかし、後になって実は国の中で食料が有り余っていたということがわかったのです。それなのに多くの人は食べ物を買うお金がなく、飢えに苦しんで死んでしまったのです。
私は、その状況の前で無力でした。優れた経済学の理論はあるけど、何ができるのか。全くどうしたらいいのかわかりませんでした。しかし、「理論を捨て去り、一介の人間に戻って考えよう。街中を歩き、貧しい人の横に立ってみよう。そして何か力になれることをしよう」と、行動を起こしていくなかで学んでいったのです。
村人たちを取り巻いている状況がわかりはじめ、私は驚きました。絶体絶命に追い込まれた人たちが、必死でほんの少額を高利貸しから借りるのですが、そうすると高利貸しはその人の人生を乗っ取って奴隷にしてしまうのです。それを何度も目にして、「こんなことがあっていいのか」と大変なショックを受けました。
そこでまず、どういう人がどのくらいの額を借りているのか調べたところ、42人が総額でたった27ドルを借りていただけだったのです。こんなわずかな金額を借りただけで、こんなに苦しまなければいけないのか。私はそんな教育を受けたことはありませんでした。
私は、この問題は解決できると気がつきました。思いついたアイディアは簡単なものです。「この42人の人たちに27ドルをあげて、高利貸しにお金を返済してもらおう。返済したら彼らは解放される。少なくとも私にそれはできる」と考え、ただちに実行しました。
みんなとても喜んでくれ、私が奇跡を起こしたかのような目で見てくれました。「少額のお金でこれほど多くの人を幸せにできるなら、もっとやれるのではないか」と思いました。
いろいろ考えた中で、素晴らしいと思ったアイディアが1つありました。そこで、大学のキャンパスにいる銀行家のところに行って、「貧しい人々が高利貸しから借りなくて済むように、銀行が貸し付けてほしい」と頼んでみました。ところが、銀行家は「とんでもない。銀行は貧しい人には貸せない。絶対だめだ」と言いました。
何カ月も押し問答が続き、とうとう私は別のアイディアを思いつきました。「私が保証人になります。すべての書類に署名しますから、お金を貸してあげてください」と、2カ月にわたって説得を試みたところ、ようやく受け入れてくれました。その後、長い歴史になるマイクロクレジットは、そこから始まったのです。
うまくいき始めたことで私は情熱を覚えましたが、銀行の方は渋るようになりました。私は「もう銀行との取引はやめて、自分で貧しい人々のための銀行を立ち上げよう」と思うようになりました。1976年、今度は銀行を設立するために当局との戦いが始まりましたが、幸運なことに1983年に許可が下りました。
グラミン銀行というのは「村の銀行」という意味です。全国展開で、28,000人以上の職員がいます。平均のローン額は200ドルぐらいですので非常に少額ですが、貸付総額は毎年10億ドル以上になります。今約800万人の借り手がおり、その97%が女性です。加入したときには極貧にあえいでいた人たちです。
30ドルや35ドルという少額の借金で自営業をしたりして、収入を上げることから始め、その後少し多くの借金をして、さらに成長していっています。グラミン銀行で5年以上借りている人たちの65%を、貧困のボーダーラインより上に引き上げることができました。
関連書籍
貧困のない世界を創る—ソーシャル・ビジネスと新しい資本主義
ユヌス,ムハマド, 猪熊 弘子【訳】早川書房
ムハマド・ユヌス自伝—貧困なき世界をめざす銀行家
ユヌス,ムハマド, ジョリ,アラン, 猪熊 弘子【訳】早川書房
貧困のない世界を創る ~ソーシャル・ビジネスと新しい資本主義~ インデックス
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第1章 27ドルで借金苦という異状。グラミン銀行の誕生背景
2009年10月07日 (水)
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第2章 グラミン銀行がニューヨークに進出した理由
2009年10月16日 (金)
-
第3章 なぜ100年に1度の危機に陥ったのか。ビジネスの概念を問い直せ
2009年10月26日 (月)
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第4章 ソーシャル・ビジネスで「技術と問題」をつなげば、社会問題は解決できる
2009年11月06日 (金)
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第5章 ソーシャル・ビジネスもビジネス。持続可能でなければならない
2009年11月17日 (火)
-
第6章 お金を稼ぐ目的は何ですか?
2009年11月27日 (金)
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第7章 ソーシャル・ビジネスとチャリティの違い
2009年12月08日 (火)
該当講座
ノーベル平和賞受賞者ムハマド・ユヌス氏来日記念セミナー
貧困のない世界を創る ~ソーシャル・ビジネスと新しい資本主義~
ムハマド・ユヌス(グラミン銀行総裁)
貧困層に無担保で少額の融資を行う「マイクロクレジット」という手法によって、貧しい人々の経済的自立を支援するグラミン銀行を設立し、その活動によってノーベル平和賞を受賞したムハマド・ユヌス氏。彼が新たに提唱する「ソーシャル・ビジネス」の構想と実践についてお話いただきます。
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