アートと 天文と 資本主義 <新WEBセッション> vol.5
読者の皆さんからの質問にお答えします!
異分野の掛け合わせで何が起こるのか? WEB鼎談シリーズ もいよいよ最終回です!
今回は、読者の皆さんからの質問に片岡真実さん、高梨直紘さん、丸山俊一さんが回答します!
<セッションの進め方>
①「アート、天文、資本主義の最先端」って何ですか?
②片岡さんの回答編(質問者:高梨さん、丸山さん)
③高梨さんの回答編(質問者:丸山さん、片岡さん)
④丸山さんの回答編(質問者:片岡さん、高梨さん)
⑤読者の皆さんからの質問に答える ← 今回ここです
現代アートは、感性や感覚の表現だと思いますが、その中でも特に日本人は自然を感覚で捉え、感情で表現しているようにも思えますが、片岡さんからみて、日本人のその感受性の特性はどのようにお考えでしょうか?また、今回のコロナの発端も、ひょっとしたら環境破壊が根本原因なのかも知れませんが、今の議論は、対処療法のみに終始しているようにも思えます。だからこそ、日本的な感性で素直に自然の置かれた状況を表現し、本当の意味での警笛を鳴らすことが今こそ大切なのではないでしょうか?
森美術館館長
今回のパンデミックが文明、経済や産業、政治を優先してきた人類への、自然界からの警鐘である、あるいは地球の自浄作用であるという声が聞かれています。私も同感です。また、COVID-19は地球や人間にとってのより大きな危機の一端に過ぎないという見方もあります。
自然を人間と対立するものではなく、人間もまた自然の一部であると考えるのは、日本に限らず広くアジア、さらには北欧、ケルト、オセアニア、カナダなど自然とともに暮らしてきた世界各地の先住民文化に通底するものです。欧米を中心に発展してきた現代アートの文脈では、見た目の問題よりもその背景にある概念を重視するコンセプチュアル・アートが現在も根底にあります。そのなかでは、日本に限らずアジア系のアーティストはコンセプチュアル・アートよりも、感情や情動、身体性あるいは物語性に依拠した表現の方が親和性が高いと言われることもあります。
人類の文明が地球規模の生態系に影響を及ぼす時代をドイツの化学者クルッツェンが「人新世」として提唱したのは2000年。そして2030年には国連が定めた持続可能な開発目標(SDGs)を中核とするアジェンダの成果を測る年を迎えます。古来の自然観や宗教観に立ち帰り、それをいかに現代に照応できるのかを考えることで、日本のアートは地球の未来にも貢献できるのではないかと思います。
宇宙にも恐ろしいウィルスがいるでしょうか?
地球以外にも恐ろしいウイルスがいるかどうかと問われれば、いないとは言えないでしょうね。宇宙はあまりに広大ですから。もっとも、ありとあらゆるものが「ないとは言えない」のが宇宙の奥深さ(というか、適当なところ)ですので、その程度の意味で受け取って下さい。
ちなみに、「地球にいるウイルスに宇宙起源のものもあるか?」という問いになると、とたんに緊張感が出ます。パンスペルミア説と呼ばれる、宇宙に生命の起源を求める仮説がありまして、真剣に研究されていたりもします。宇宙はやっぱり奥深い。
地球の生物は、遺伝子情報DNAを元に存続していますが、地球外生命を探すとき、DNAのようなものを元に存続している生物を探す手段はあるのでしょうか?
残念ながら、遠い遠い惑星にあるDNAのようなもの(二重らせん構造をもった高分子)を検出する方法はいまのところありません。その惑星まで行ってみないと分からないレベルの話だと思います。 じゃあやれることはないのかというと、そういうわけでもありません。
2017年、とある小天体の発見が大きな話題になりました。発見当初は彗星と見られていたその天体は、軌道計算をしてみると、なんと太陽系外から飛来したことが分かったのです。オウムアムアと名付けられたこの天体は、どこか遠い星で産まれた後に、なんらかのきっかけでそこを飛び出して、なんの因果か太陽系に飛び込んできたことになります。
この時はそのまま太陽系から飛び去っていくのを(文字通り)眺めているだけしかできませんでしたが、もしこの天体から岩でも回収して、その成分をじっくり調べてみたらどうだったか。もしも、そこにDNAのようなものの欠片でも見つけられたなら…これって、なかなかすごいことじゃないでしょうか。 もっとも、太陽系外から天体が飛来するなんてことは滅多になさそうですし(といいつつ、実は去年も同様の天体が発見されました)、太陽系外から飛び込んで来た天体にいきなり探査機を飛ばすなどということは現実問題として難しいのですが、でもノーチャンスではない、というあたりがロマンだなと思ったりします。宇宙はやっぱり奥深い。
会社への帰属意識とか在宅勤務でオンオフが曖昧になるなかで、自らの仕事に対する責任感や思いも弱くなってきました。
みなさん、ご意見、ご感想ありがとうございます。「会社への帰属意識とか在宅勤務でオンオフが曖昧になるなかで、自らの仕事に対する責任感や思いも弱くなってきました。」とは、まさに今多くのみなさんが素朴に感じている気持ちを代弁されているのではないでしょうか?
「責任感や思いが弱く」なるかどうかは別として、家の中という生活空間でパソコンのディスプレイとにらめっこを続けるうちに、日中の時の流れが変わり、普段のオフィスでのあの感覚は?仕事とは?会社とは?と考える機会となった方は多いことでしょう。
人間は習慣性の生き物です。満員電車に詰め込まれ定時までに会社に滑り込む毎日を繰り返すうちそれが仕事と思い込み、何の違和も感じなくなることで「会社員」としての帰属意識も生まれていくわけですが、それも一つの「物語」に過ぎなかったとひとたび思い始めると、様々な日常の風景の感じ方も変わります。三週間も会社に行かない日が続けば、よくあの満員電車に毎日乗っていたなと、どんなに素晴らしい会社でも、あのコンクリートの建物に日が暮れるまでずっといたものだなと、不思議な感覚を抱き始めることでしょう。話を広げて人間の欲望も、実はそうした「物語」が支えるフィクションだと思えば、もう少し、その付き合い方も見えてこようというものなのですが。
https://icf.academyhills.com/interview/interview2019_8.php
さて逆に言えば、人はなにゆえに会社という場を作ったのでしょう?確かに最高の利潤をあげる為、効率性を追求する組織というのも一つの定義ですが、実は広い社会の中での居場所であり、広い意味でのアイデンティティを得るための場でもあったからではないでしょうか?確かにモノ作り主体の時代は大規模な工場設備が多くの分野に必要で、その場に行かねば仕事が成り立たないケースが多かったわけです。しかし、今やポスト産業社会、ある意味人類の長い歴史上で、大富豪も中学生もここまで同じ技術水準のテクノロジーをそれぞれが手のひらに握りしめている時代も無いわけで、経済の勝敗を決するのは無形のアイデアだという業種が増えています。少なくともそうした業界では、物理的に立派な会社の建物は要りません。それぞれの異能/異脳の掛け算でイノベーションを起こす為の集団形成ができればよいわけで、シンプルなホームページに会社の理念を表現するロゴが一つあれば十分ということになるわけです。
そうしたクリエイティブ社会では、オンもオフも消失します。その区別、その時間管理の概念自体が産業社会の生産ラインに向かう仕事のスタイルを標準形としたものだからです。そうした物理的制約から一見解き放たれた自由さは素晴らしくもあり…、しかし同時に不安を呼び、人によっては過酷なものともなることでしょう。その時、私たちは現在の会社に代わるフィクションを作ろうとするのかもしれませんね。それは、リアルとバーチャルの狭間にあるような気がしていますが、いずれにせよ一周回って、仕事に使命感を感じる為のフィクション=会社に似た名づけがたい集団、人と人とを結ぶ体系が、ゆるやかな形で試行錯誤されていくのではないでしょうか?時代の変化、変わる夢の形と、変わらぬ人間の性(サガ)が織りなす風景の探究は終わりません。
この状況下で出来るということで、初めてWEB誌面にて分野を超えた
インタラクティブセッションを試みました。
5回に渡り、セッションを紡いでくださった
片岡真実さん、高梨直紘さん、丸山俊一さん、ありがとうございました。
そして、多くの感想・ご質問をお寄せくださったり、楽しみにお読みくださった読者の皆様に
心より御礼申し上げます。
「ぜひスピンアウトのオンラインイベントを!」という声も届き、嬉しく思っております。
次回企画も、どうぞお楽しみに!
アートと 天文と 資本主義 <新WEBセッション> インデックス
講師紹介
片岡真実(かたおか・まみ)
森美術館 館長
ニッセイ基礎研究所都市開発部、東京オペラシティアートギャラリー・チーフキュレーターを経て、2003年より森美術館。2007〜09年はヘイワード・ギャラリー(ロンドン)国際キュレーター兼務。第9回光州ビエンナーレ(韓国、2012)共同芸術監督、第21回シドニー・ビエンナーレ芸術監督(2018)。CIMAM(国際美術館会議)会長、京都造形芸術大学大学院教授。日本及びアジアの現代アートを中心に企画・執筆・講演等多数。
丸山俊一(まるやま・しゅんいち)
NHKエンタープライズ番組開発エグゼクティブプロデューサー
東京藝術大学客員教授/早稲田大学非常勤講師
「欲望の資本主義」を始めとする「欲望」シリーズ、「地球タクシー」、「ネコメンタリー」他、時代の潮流を捉える企画を開発、制作し続ける。
著書「14歳からの資本主義」「結論は出さなくていい」共著「欲望の資本主義1~3」「マルクス・ガブリエル欲望の時代を哲学するⅠ、Ⅱ」「AI以後」他多数。
「やめられない、止まらない。欲望が欲望を生む、欲望の資本主義。」
2016年5月、このフレーズにて大好評で幕を開けた「欲望の資本主義」。「欲望の経済史/民主主義/時代の哲学/哲学史」など様々な広がりのあるシリーズ展開しています。
高梨直紘(たかなし・なおひろ)
天文学普及プロジェクト「天プラ」代表
東京大学エグゼクティブ・マネジメント・プログラム 特任准教授
1979年(昭和54年)広島県広島市生まれ。2008年(平成20年)東京大学大学院博士課程修了 博士(理学)、国立天文台 広報普及員・研究員(ハワイ観測所)を経て、現在に至る。天文学と社会の関係をどのようにデザインするか、という観点から実践的な研究活動を行っている。六本木天文クラブの企画責任者。主な著作物に「一家に1枚 宇宙図」(共著)など。
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