アートと 天文と 資本主義 <新WEBセッション> vol.2
森美術館館長・片岡真実さんの回答編
異分野の掛け合わせで何が起こるのか? WEB上鼎談シリーズ 第1弾!
2回目は、森美術館館長 片岡真実さんの回答編です!質問者は、天文学の専門家である東京大学の高梨直紘さん、NHK「欲望の資本主義」のプロデューサー丸山俊一さん。
前回記事の片岡さんの「アートの最先端」を読んだ高梨さんと丸山さんの質問に、片岡さんがズバリ答えます。読者からの質問も大募集中です!皆さんもぜひご参加ください。
<セッションは、次のように進めていきます>
①「アート、天文、資本主義の最先端」って何ですか?
[相互質問]
②片岡さんの回答編(質問者:高梨さん、丸山さん)←今回ココです
③高梨さんの回答編(質問者:丸山さん、片岡さん)
④丸山さんの回答編(質問者:片岡さん、高梨さん)
⑤追加質問・読者質問に答える
明快な見取り図をありがとうございます。「複数の進歩的な考え方や表現」が「発見」されていく過程自体が、欧米的な文脈の価値観、政治観などで語られる「ジレンマ」ではありませんか?
アートの一つの機能が、社会への批評性だとすれば、批評すべき社会に組み込まれることで成立する、ジレンマです。
「多様化」の時代を、単なる「なんでもあり」とは峻別する為にも難しい問題ではないかと思いますが、いかがでしょう? 丸山俊一 NHKエンタープライズ番組開発エグゼクティブプロデューサー
東京藝術大学客員教授/早稲田大学非常勤講師
森美術館館長
この何年か、白人男性以外のアイデンティティを持ったアーティストの存在感が、少なくとも欧米では顕著に高まっています。その現象自体、従来の欧米的な価値観を前提にした是正の構図と言えるかもしれません。ただし、非欧米圏やいわゆるマイノリティ・コミュニティからの発言は力強く、自信に溢れ、自国の政治的、社会的、文化的歴史を批評的に紐解きながら、そこから真実を探そうとする姿勢には凛々しいものがあります。
そのなかで欧米中心、白人男性中心の美術史を描いてきた欧米の主要美術館が、内部からも変革を進めていることが、現代の面白いところです。多様化の時代における「発見」や「再発見」の過程では、「なんでもあり」ではなく、それまで無価値だったものに新たな芸術的、歴史的価値を見出し、それらが意味を成すためのトランスナショナルな繋がりが模索されています。
さらにそこにアート市場での評価が重なるという価値づけの相乗効果が起こり、歴史が書き換えられているような気がします。1960年代、美術の世界ではインスティテューショナル・クリティーク(制度批判)が広がり、美術館など美術を取り巻く制度がしばしば作品の題材にもなりました。
批評すべき社会に組み込まれることでアートが成立するというジレンマというよりは、社会システムそのものを読み解き、疑問を呈する姿勢(それは真理を探究する姿勢でもあると思いますが)に意味があると考えられます。美術を取り巻く制度や批評の在り方、鑑賞者との関係も今日では格段に複雑化していますが、これはジレンマというよりも、新しい時代の新しいチャレンジと捉えることができるように思います。
ご質問へのお答えになっているかどうか定かではありませんが…。
現在進行中の新型コロナウイルス禍を過去の疫病などと比較して語ることの妥当性については分かりませんが、歴史を振り返ると、人類は過去に何度も大きな疫病に見舞われ、その度に乗り越えてきた(乗り越えられなかった集団は消滅したのでしょうが…)のだと思います。
その歴史は、アートにどのような痕跡として残っているのでしょうか?
現在のこの状況に対して、アーティストたちにはどのような反応が表れているでしょうか? 高梨直紘 天文学普及プロジェクト「天プラ」代表
東京大学エグゼクティブ・マネジメント・プログラム 特任准教授
森美術館館長
アーティストは自分たちの生きている時代を作品に投影します。歴史上では、例えば《叫び》で有名なエドヴァルド・ムンクが、20世紀初頭のパンデミック、スペイン風邪の後の自画像を描いたものなどもあります。こうした個人的な体験から、社会風刺画的なもの、そこで起こる社会不安など特定のかたちを持たない感情や現象を抽象化した表現まで、アートの在り方は多様です。日本では第二次世界大戦後の1950年代にも、当時の社会情勢を描いたルポルタージュ絵画や、岡本太郎が当時の社会が生み出すエネルギーを描いた作品などもありました。
一方で、アニカ・イ(1971年生まれ、韓国)のようにバクテリアの動きなどを素材に、自然科学の世界を視覚化する現代アーティストもいます。
アートは時代や地域を超えて、この「世界」をあらゆる角度から見せてくれるものだと思っています。
さまざまな専門分野と接続できる題材に溢れていますが、なかでも、何だかわからないものや全く想像もしていなかったこと、一般的な認識と全然違うものなどは、現代アートの好材料です。したがって新型コロナウィルスも何らかの形で作品化されると思いますが、そこでは今回のパンデミックが浮き彫りにする人間の本質や宇宙の壮大な営みなどが描き出されて欲しいですね。
丸山俊一さんへのリクエスト
みんな違ってみんないい、十人十色の世の中に、もっともっと資本主義でより公平に、評価しあえる令和の時代を願っています。
アートと 天文と 資本主義 <新WEBセッション> インデックス
講師紹介
片岡真実(かたおか・まみ)
森美術館 館長
ニッセイ基礎研究所都市開発部、東京オペラシティアートギャラリー・チーフキュレーターを経て、2003年より森美術館。2007〜09年はヘイワード・ギャラリー(ロンドン)国際キュレーター兼務。第9回光州ビエンナーレ(韓国、2012)共同芸術監督、第21回シドニー・ビエンナーレ芸術監督(2018)。CIMAM(国際美術館会議)会長、京都造形芸術大学大学院教授。日本及びアジアの現代アートを中心に企画・執筆・講演等多数。
丸山俊一(まるやま・しゅんいち)
NHKエンタープライズ番組開発エグゼクティブプロデューサー
東京藝術大学客員教授/早稲田大学非常勤講師
「欲望の資本主義」を始めとする「欲望」シリーズ、「地球タクシー」、「ネコメンタリー」他、時代の潮流を捉える企画を開発、制作し続ける。
著書「14歳からの資本主義」「結論は出さなくていい」共著「欲望の資本主義1~3」「マルクス・ガブリエル欲望の時代を哲学するⅠ、Ⅱ」「AI以後」他多数。
「やめられない、止まらない。欲望が欲望を生む、欲望の資本主義。」
2016年5月、このフレーズにて大好評で幕を開けた「欲望の資本主義」。「欲望の経済史/民主主義/時代の哲学/哲学史」など様々な広がりのあるシリーズ展開しています。
高梨直紘(たかなし・なおひろ)
天文学普及プロジェクト「天プラ」代表
東京大学エグゼクティブ・マネジメント・プログラム 特任准教授
1979年(昭和54年)広島県広島市生まれ。2008年(平成20年)東京大学大学院博士課程修了 博士(理学)、国立天文台 広報普及員・研究員(ハワイ観測所)を経て、現在に至る。天文学と社会の関係をどのようにデザインするか、という観点から実践的な研究活動を行っている。六本木天文クラブの企画責任者。主な著作物に「一家に1枚 宇宙図」(共著)など。
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