アートと 天文と 資本主義 <新WEBセッション> vol.3
天文学普及プロジェクト「天プラ」代表・高梨直紘さんの回答編
異分野の掛け合わせで何が起こるのか? WEB上鼎談シリーズ 第1弾!
3回目は、天文学普及プロジェクト「天プラ」代表で東京大学准教授の高梨直紘さんの回答編です!
質問者は、森美術館館長 片岡真実さんと、NHK「欲望の資本主義」のプロデューサー丸山俊一さん。
前回記事の高梨さんの「天文の最先端」を読んだ片岡さんと丸山さんの質問に、高梨さんがワクワクする天文パワー全開でお答えくださいました。読者からの質問も大募集中です!皆さんもぜひご参加ください。
<セッションは、次のように進めていきます>
①「アート、天文、資本主義の最先端」って何ですか?
[相互質問]
②片岡さんの回答編(質問者:高梨さん、丸山さん)
③高梨さんの回答編(質問者:丸山さん、片岡さん)←今回ココです
④丸山さんの回答編(質問者:片岡さん、高梨さん)
⑤追加質問・読者質問に答える
想像力を掻き立てられるお話、ありがとうございます。
「地球とよく似た環境を持っていてもおかしくない惑星」の発見。やはり、その惑星での生命体の存在について考えたくなりますが、今後どのような手法でそれを確かめることができるのでしょう?
天文学のアプローチで遠い惑星の自然の条件などをどう計測、予測するのか?その条件下での生命の形まで推測できるのか?この地球の生命のありようを考える為にも、気になります。
質問ありがとうございます。結論から言えば「できる!」と私は思います。
もちろん(文字通り)星の彼方にある惑星の表面の様子を、望遠鏡を使って直接観ることはできません。あまりにも遠いからです。これは技術がいくら発展しても、原理的に不可能な願望です。
しかし、ある特殊な条件を満たす惑星に関しては、その惑星の大気成分を推測する方法が編み出されています。その方法を使えば、例えばその惑星には酸素があるのか、水蒸気は多いのかといったことが分かってしまいます。これはなかなかすごいことです。
それだけの手がかりがあれば、次は惑星物理学者の出番です。どんな大気モデルが考え得るのか、地表はどんな様子であるのか等といった物理的環境を推測することができます。地表の様子が分かれば、次は生物学者。そこにどんな生物や、生態系が存在しうるかを推測することもできるでしょう。あ、そんな簡単なもんじゃない、というお叱りの声も聞こえてきそうですが、まあ気楽な立場からのコメントということでお許しを。
もちろん、不確実な推測を積み重ねることになっていくので、だんだんと不確定な要素の大きな話になります。実証性や再現性を肝とする近代科学の枠組の中で語ることは難しいかもしれません。でも、これってわくわくする話だと思うんですよね。その意味では、科学そのものの枠組を広げる最前線が、太陽系外惑星の世界には展開されていると思っています。
個人的に興味深いのは、宇宙のどこかに生命溢れる惑星があって、そこに知的な生命が存在した時に、どんな社会システムを採用しているのかというテーマ。特に、何億年と続くような持続性あるシステムがあるとするならば、それはどのようなものであるのか。そういった仮想(でも、ありうるかもしれない)の世界を考えてみることは、私たちの住む地球のあり方を考える上で大事なことかもしれません。
そして、そのまま質問になだれ込みますが、仮に何億年も続く持続性の高い社会システムがあるとすれば、その世界では「欲望」は存在すると思われますか?欲望は規範あるいは技術によって十分に抑え込まれているのか、あるいは、欲望そのものが変質ないし消滅しているのか。はたまた、欲望を活かしてそのシステムを駆動し続けているのか…。地球の有限性が見えて来た中で、無限の欲望と持続
性は両立しうると考えて良いのかどうか、興味深く思っています。
天文学的な数字という言い方がありますが、人間が実感できる尺度を超えたものを扱う天文学。例えば我々が見ている星の光がとてつもなく昔に発せられたものであるように、空間だけでなく、時間的なスケールも果てしないですよね。
そんな風に天文学的に空間や時間を考えていらっしゃると、人間の日々の出来事に対してはおおらかに向き合えるのでは、と想像してしまいます。その天文学的な尺度からは、今回の新型コロナウイルスのような不可視の生命の働きは、どのように見えているのでしょうか?
また、このウイルスも何だかわからないものですが、宇宙の何だかわからないものとして、ダークマターと呼ばれるものがあるんですよね。ダークマターの正体はどのくらい解明されているのでしょうか?興味津々です。
ダークマターの正体!そうですね、結論から言ってしまえば、まださっぱり分かりません。ただ、包囲網は確実に狭まっているように思います。質量を持ったものがあるのは確実なんだけど、よく見えない…というものがダークマターの候補になるのですが、例えば小さなブラックホールや中性子星、白色矮星などと呼ばれる(宇宙スケールで考えれば!)「小さくて」重い天体たちもこの条件に当てはまります。でも、これらの天体たちはどうもダークマターとは違うらしい。となると、残された可能性は未知の素粒子。その検出に向けた観測実験が世界中で行われていますので、そろそろ尻尾くらいは掴めるんじゃあないかと、門外漢は気楽に眺めていますが、はてさて。
ところで、ダークマターは「まだ分かっていない」と言いましたが、本質的に<分からない>ものではありません。少なくとも研究者たちは、理解可能なものと考えて研究対象としています。そういう意味では、新型コロナウイルスも同じですね。いまは詳細な感染メカニズムは分かっていませんが、優秀な研究者たちによって必ず明らかにされることでしょう。確かに肉眼では見えませんが、でも、分かる。そういう類いの話だと思います。ですから、長い長いタイムスケールで考えれば、いずれも人類の歴史に立った小さなさざ波のひとつになっていくのでしょう。そういう意味では、おおらかな見方もできるかもしれません。
でも、これは客観的に世界を語ることしかできない科学の限界でもあります。ありていに言えば、悠長すぎる。私はいま生きてます。宇宙にあまたあるどこかの惑星の上の誰かではなく、私としていま、ここに存在しています(たぶん)。他の何者でもない私自身の眼から世界を眺めているはずなのに、ついつい超越者の視点を借りた科学の眼から世界を語ってしまう。宇宙の話なら他人事のように聞こえても気になりませんが、人間・社会に関わることを他人事のように語られると、ストレスが溜まりますよね。ここに科学特有のコミュニケーション問題がありそうです。もっとも、だからと言って科学者にその解決をお願いしてもしょがない。私たちが自分の言葉でそのことについて語り、最終的には私たち日常の中に取り込んでいくしかないんだと思います。そういう意味では、アートはその最先端を常に走っているように思えて、ええと、応援してます!
でも2回目の片岡さんの回答から、既に各領域の輪郭がぼやけてきていて、すごく面白いです。
「全く違う領域にいる人からの質問は、その人の新しい面を見せてくれるきっかけになるのだ」と、改めて唸りました。
片岡さんのお二方への質問も楽しみです!
アートと 天文と 資本主義 <新WEBセッション> インデックス
講師紹介
片岡真実(かたおか・まみ)
森美術館 館長
ニッセイ基礎研究所都市開発部、東京オペラシティアートギャラリー・チーフキュレーターを経て、2003年より森美術館。2007〜09年はヘイワード・ギャラリー(ロンドン)国際キュレーター兼務。第9回光州ビエンナーレ(韓国、2012)共同芸術監督、第21回シドニー・ビエンナーレ芸術監督(2018)。CIMAM(国際美術館会議)会長、京都造形芸術大学大学院教授。日本及びアジアの現代アートを中心に企画・執筆・講演等多数。
丸山俊一(まるやま・しゅんいち)
NHKエンタープライズ番組開発エグゼクティブプロデューサー
東京藝術大学客員教授/早稲田大学非常勤講師
「欲望の資本主義」を始めとする「欲望」シリーズ、「地球タクシー」、「ネコメンタリー」他、時代の潮流を捉える企画を開発、制作し続ける。
著書「14歳からの資本主義」「結論は出さなくていい」共著「欲望の資本主義1~3」「マルクス・ガブリエル欲望の時代を哲学するⅠ、Ⅱ」「AI以後」他多数。
「やめられない、止まらない。欲望が欲望を生む、欲望の資本主義。」
2016年5月、このフレーズにて大好評で幕を開けた「欲望の資本主義」。「欲望の経済史/民主主義/時代の哲学/哲学史」など様々な広がりのあるシリーズ展開しています。
高梨直紘(たかなし・なおひろ)
天文学普及プロジェクト「天プラ」代表
東京大学エグゼクティブ・マネジメント・プログラム 特任准教授
1979年(昭和54年)広島県広島市生まれ。2008年(平成20年)東京大学大学院博士課程修了 博士(理学)、国立天文台 広報普及員・研究員(ハワイ観測所)を経て、現在に至る。天文学と社会の関係をどのようにデザインするか、という観点から実践的な研究活動を行っている。六本木天文クラブの企画責任者。主な著作物に「一家に1枚 宇宙図」(共著)など。
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