記事・レポート

オバマ大統領と今後のアメリカ

ライブラリートーク 「日本の政治シリーズ 第1回」

更新日 : 2009年09月24日 (木)

第8章 米国の核廃絶で困るのは日本!? 市民の政治離れが危機を招く

ジェラルト・カーティス コロンビア大学教授
ジェラルト・カーティス コロンビア大学教授

会場からの質問: アメリカの外交問題でもう1つ重要なのは、ロシアとの関係だと思います。ブッシュ政権と比べて、オバマ政権では大きな変化はあるのでしょうか。

ジェラルド・カーティス:政権が変わっても外交の多くは継続しますが、オバマ政権はいろいろな意味でブッシュ政権と違ったことをやろうとしています。ロシアとの関係はいい例です。

ヒラリー・クリントンさんはロシアの外務大臣と会ったとき、「敵対的な態度ではなく、いろいろな問題について一緒に取り組みましょう。特にイランが核兵器開発をしないためにロシアが協力してくれれば、アメリカのミサイル防衛(BMD/Ballistic Missile Defense)を東ヨーロッパに配置しないこともあり得ます」と話しています。

また、オバマ大統領は真剣に核兵器の数を減らすこと、軍縮を考えています。ロシアと核兵器を減らす交渉も始めます。しかし、日本のリアクションがちょっと気になります。唯一の被爆国、日本の一般の人々は核兵器へのアレルギーが非常に強いのですが、実は軍事専門家や防衛省の専門家とは大きなギャップがあります。

専門家の間では、「アメリカの核の傘を考えると、核兵器が少なくなると信頼性が疑われる。ヨーロッパのミサイル防衛をやめるのなら、日本のもやめるのではないか。アメリカが核兵器削減に力を入れると困る」という意見もあるのです。

日本の一般世論と専門家の意見をもっと日本の新聞が取り上げて、日本人一般の価値観が日本政府の政策に反映されるようにならないと非常に危険だと、私は気にしています。

ジェラルト・カーティス コロンビア大学教授

最後にひとつだけお話しさせてください。オバマさんが大統領になってまだ2カ月しかたっていません(※編注:本講演は2009年3月19日開催)。2カ月間で景気刺激策も予算案も、アフガニスタンのことも米ロ関係も、アジアについても、すでにいろいろなことを始めています。 これらがうまくいくかどうか、そして彼が偉大な大統領になれるかどうかはわかりません。しかし、オバマ大統領は「せっかく大統領になるなら、危機の時になった方がより満足感、達成感がある。私は運がいい」とよく言うのです。成功するか失敗するかわかりませんが、彼は「チェンジ」を起こすでしょう。 今、日本の政治に一番足りないのはそういう決断力です。それがないから結局、すべてが中途半端に終わってしまうのです。景気刺激策も外交も大胆なものにはならない。日本には問題も多いけれどポテンシャルがあるので、本当にいいリーダーシップがあれば……と、非常にもったいないと私は思っています。 この責任は、麻生首相や小沢さんだけではなく、有権者にもあるのです。有権者がこういう政治を許し、問題がある政治家を当選させているのです。これが変わるには時間がかかりますが、政治家を責めるばかりでなく、マスコミの政治に対する報道、そして国民・有権者の投票行動が重要です。 「経済が悪くなれば自民党が強くなる」というのが戦後日本の歴史でした。「こんなに厳しいときに政権交代なんて考えられない」という意味だったのですが、どうも今年(2009年)は違う年になりそうです。 やはり「チェンジ」が大事なのです。チェンジして失敗するかもしれないけれど、チェンジが起こって世代交代すれば、日本政治の将来はもうちょっと明るくなります。私の次の講演は2カ月後です。そのときは、もっと詳しく日本の政治情勢についてお話したいと思います。(終)