記事・レポート

オバマ大統領と今後のアメリカ

ライブラリートーク 「日本の政治シリーズ 第1回」

更新日 : 2009年08月13日 (木)

第5章 「ねじれ国会で何もできない」と言う人には政治家の資格がない

ジェラルト・カーティス コロンビア大学教授
ジェラルト・カーティス コロンビア大学教授

ジェラルド・カーティス: オバマ大統領の最初の支持率は80%以上ありました。今は60%ぐらいですが、アメリカの場合、60%を維持できるのであれば高い支持率なのです。しかし最近、オバマ大統領に対する批判も上がっているのは間違いなく、下手をしたら政権が行き詰る心配もあります。

オバマ政権に対する心配事はたくさんあります。「議会との関係」「アメリカの経済情勢の不安」「それと外交、特にアフガニスタン」この3つが非常に心配です。

議会との関係は、日本ではわかりにくい問題です。日本など議会制国家であれば党議拘束があり、例えば麻生首相が「定額給付金を行う」と決めれば、反対意見の自民党の議員も最終的には賛成票を入れます。しかしアメリカでは、議会と大統領は、ある意味で対等な立場にあります。

日本の総理大臣は議会人で、また、内閣の少なくとも過半数は国会議員です。一方大統領制度は、議会人でない人たちが大統領と内閣を構成し、議会と対等な立場で交渉して政策をつくっていきます。日本では「憲法を改正して大統領制にすれば、もっと強いリーダーが出てくるだろう」と言われていますが、実は逆なのです。

以前、コロンビア大学にいたニュースタット教授は、ジョン・F・ケネディが大統領に選ばれた1960年に『Presidential Power』という本を書きました。その中で、大統領のパワーとは「power to persuade(説得する力)」、いわゆる炉辺談話をしたり、議会人に対して交渉をしたりすることだとし、persuadeできるかどうかがアメリカの政治にとっては非常に重要だと書きました。

ジェラルト・カーティス コロンビア大学教授

今、アメリカの民主党は大統領府を抑え、上院議員および下院議員の過半数を抑えています。先日、中国共産党の人と話したのですが、彼らは「下院も上院も全部民主党が持っているから、大統領は中国共産党と同じぐらい何でもできるだろう」と言っていました。しかし、それは違います。 オバマ政権の大きな特徴は、この100年で“議会人の経験を持つ人たち”が一番多い政権だということです。副大統領は1973年以来、ずっと上院議員をやっていたジョセフ・バイデンさん、国務長官はヒラリー・クリントンさん、そしてホワイトハウスのチーフ・オブ・スタッフのラーム・エマニュエルさんは下院議員の大変な有力者です。つまり、議会を上手に動かせる人を周りに置いているのです。 日本では「ねじれ」という言葉がよく使われます。「参議院では民主党が第一党で、自民党は衆議院だけで過半数を取っている。ねじれ状況だから何もできない」とよく言われます。でもアメリカの政治家は、「ねじれ」であろうとなかろうと、絶えず交渉しなければならないのです。 「ねじれ状況の中で、どういう戦略が組めるか」と対案を出して考えるのが政治家のやるべきことなのです。日本の政治主導者がそれをしないのは「ねじれ」が悪いのではなく、政治家に戦略がないということです。 議会との関係がうまくいくか、いかないか。オバマ政権はどうなっているかを考えるとき、一番重要なのは「議会との関係はどうなっているか」を知ることです。