記事・レポート

オバマ大統領と今後のアメリカ

ライブラリートーク 「日本の政治シリーズ 第1回」

更新日 : 2009年09月08日 (火)

第7章 ヒラリーが日本に最初に訪問した理由

ジェラルト・カーティス コロンビア大学教授
ジェラルト・カーティス コロンビア大学教授

ジェラルド・カーティス: オバマ政権と日本の関係、アジア政策について少しお話しします。まずは、ヒラリー・クリントンの訪日の意味です。日本だけでなく、インドネシアや韓国、中国にも行きましたが、あれは大成功でした。

なぜ、日本に最初に来たかというと、理由は簡単です。中国に最初に行っても「ああ、うれしい!」と思われないからです。中国では「何をしに来た?」「どういう話をしに来た?」と中身が話題になるので、最初であろうと最後であろうと関係ないのです。

しかし日本の場合は、最初に来ること自体に意味があります。「共和党のほうが親日で、民主党はそうでもない」と心配している人が多かったからです。しかし民主党も共和党も、対日政策にあまり違いはないので、それを心配する必要はありません。

日本の政治指導者に自分の考え方、日本の将来像、ビジョンがあれば訪日の順番など関係ないのですが、何もないばかりに最初であることでホッとするのです。これは日本だけの現象で(笑)、不思議で、そして悲しいことです。

ヒラリー・クリントンのアジア訪問で、一番重要だったのは中国だったと思います。アメリカの国債を一番持っている国は中国で、日本は二番目です。オバマ政権の大きな目的は、中国との関係をさらによくし、中国と相互的な関係をこれから構築することだったのです。

私は選挙キャンペーン中に、オバマさんのアドバイザーもやっていたので、日本の政治家や財界人から「オバマさんに会いたい」とよく頼まれました。でも「なぜ会いたいのですか?」と聞くと、10秒ぐらい考えてから「会いたいから会いたい」と(笑)。そして「何を日本に求めるのかを知りたい」と言うのです。

しかし、オバマ政権は別に日本に何かを求めているわけではありません。「アメリカから何を求められるか?」という占領時代以来の考え方ではなく、日本の独自の政策、独自のビジョンを持って「アメリカに何を求めるか」を日本の政治家はそろそろ考えるべきです。その方がアメリカ側もつき合いやすいし、関係がよくなると思います。

ジェラルト・カーティス コロンビア大学教授

私はアカデミーヒルズで4年間この講演をしていますが、小泉さん、安倍さん、福田さん、麻生さんと、4年間で4人、総理大臣が替わりました。今年また新しい首相が生まれます、来年はまた違う人になっている可能性もあります。アメリカには「日本はどうせ総理大臣が毎年替わるのだから、日本にエネルギーと時間をかけるのは時間の無駄」というムードがすごくあります。 オバマ政権のアジア政策で一番重要なのは中国、そして日本との関係ですが、一番やっかいなのは北朝鮮です。 オバマ政権が心配しているのは、北朝鮮問題で日米・米韓関係に与えたダメージが大きかったことです。拉致問題に対して条件をつけず、テロ支援国家のリストから北朝鮮を外したことで「アメリカは冷たい」と日本では批判を浴びましたし、韓国でもいろいろな批判が起きました。 私は拉致問題について、進展があり得るように思います。福田政権の時に北朝鮮は、「拉致問題の再調査をする用意がある」というシグナルを出しています。「再調査」とは新しい事実が出てくるということです。 しかし、拉致問題はそれだけで解決することはあり得ません。日本は何でもかんでも拉致問題を条件にせず、核兵器の問題など全体をもっと戦略的に考えた方がいいでしょう。私はリーダーの条件に「勇気をもって苦い薬も飲まなければならない。つらく悲しいことも行わなければならない」ということをつけ加えたいと思います。 日本の政治主導者、あるいは政治家になりたい人は、感情的にならないで、北朝鮮との関係に対して戦略的に考え、日本国民に対してリーダーシップを発揮することが大事です。これからオバマ政権は北朝鮮に対して二国間交渉に出ると思います。日本との関係を重視しているだけに、日本側もフレキシビリティをもって取り組む必要があります。