記事・レポート

生きるためのさまざまな力

カフェブレイク・ブックトーク第11回

更新日 : 2009年05月27日 (水)

第1章:『老人力』は生きるために必要なさまざまな〈力〉に着目した本の趨り

最近、「力(ちから)」を用いた造語をタイトルにつけた本をよく見かけます。そのはしりは『老人力』でしょう。今回は私たちが生きていくために必要なさまざまな力を教えてくれる本をご紹介します。ビジネスに役立つ知的能力を喚起する本もたくさん登場します。ぜひご覧下さい。

はじめに——辞典に掲載された語彙を日本語として確立した単語、熟語、もしくは語句とするならば、それ以外のものは新語と言うべきでしょうか。あるいは珍語、戯語となるのでしょうか。国字国語問題についてのむずかしい議論は避けるにしても、最近の本の中には、辞典にはない語彙や語句で標題が付けられているものが少なからずあります。 以下に取り上げた本で、太字で表記しているものはライブラリー所蔵のものです。それらはいま、ライブラリーアレーの書架にまとめて展示しています。(2008年12月現在)



澁川雅俊: その1つに、最近〈力〉(ちから・ぢから・りき・りょく)などを用い、辞書にない単語・熟語・語句を使って標題を付けている本が目に付きます。

その趨りは、その年の流行語大賞を受賞した『老人力』(赤瀬川原平著、06年ちくま文庫。98年に初版『老人力』が、99年にその続編『老人力2』が筑摩書房刊。この文庫本は初編と続編を収録している)です。

私は今年、数えでも満でも、古希になりましたが、この本にはこのところ私自身がつくづくと身にしみて自覚すること、たとえば物忘れとかため息とか、やたら古いモノにしみじみとしたりすることとか、「お元気ですか?」と聞かれて返事に困るとか、かつてはそんなことはなかった日常茶飯事で困ることを前向きに、しかも軽妙に語っています。

『老人力』と同種の力について『男の老後力』(鷲田小彌太著、08年海竜社)があります。これは今後明らかに増加する老齢者の生き方を哲学者として示し、めげがちな人びとを鼓舞しています。『晩年力』(石寒太著、08年幻冬舎)などという本も出されましたが、これは芭蕉の晩年の生き方から負の力が付いた人びとに老い先短い生き方を探そうとしています。またこれも老人力の1つの視点ですが、『祖母力』(樋口恵子著、06年新水社)は現代の高齢者をいざというときの「おばあちゃんの知恵」の持ち主に育てる必要性を主張しています。



以上の他に『忘却の力』(外山滋比古著、08年みすず書房)は、知識肥満に陥っている現代人への警告の書です。知的にスリム化し、頭の働きを良くするヒントを示しています。また『鬱の力』(五木寛之・香山リカ著、08年幻冬舎新書)は、「カネ、カネ、カネ……」と浮かれていた躁の時代が終わって、いま鬱の時代に入ったが、わが国の歴史を振り返り、鬱こそ明日を作る原動力であったと主張しています。『悩む力』(姜尚中著、08年集英社)もその系統の本です。それらはいずれも必ずしも老人力だけではありませんが、忘れ物が多くなった老人力、先が短くなったことを嘆き、悩む力をプラスに変えるヒントが書かれています。また『癒し力』(鳥島圭介著、08年幻冬舎)という本もありましたが、セラピストの話で、実際にその〈力〉について深い見解は述べられていまません。

※書籍情報は、株式会社紀伊国屋書店の書籍データからの転載です。

※六本木ライブラリーでは蔵書を販売しているため、ご紹介している本を所蔵していない場合もございます。あらかじめご了承ください。