記事・レポート
人事労務の法的課題
~マクドナルド判決に学ぶ企業の対応~
更新日 : 2009年04月13日
(月)
第10章 時間外労働は使用者の命令に基づいて行うのが原則
会場からの質問: 当社には管理監督者と見なされる支店長が何人かいますが、仮に経営上の理由で1つの支店を閉めることになり、その方の支店長の肩書きを外して、異動せざるを得なくなった場合の処遇についてです。
考え方が2つあり、1つは年収をそのままにして残業代を支払う、2つ目は基本給を支店長以下に下げて残業代を支払う。後者の選択をするのは可能なのか、可能な場合それは不利益変更とみなされる可能性はあるでしょうか。
高谷知佐子: 可能かどうかは、御社の賃金体系が影響します。支店長というポジションに賃金が紐づけされているのであれば、当然、支店長でなくなることによって給料が減る。そういう給与体系であれば、「可能」とお答えしたい。
支店長と給料の金額が紐づけされていない場合もないわけではなく、給与テーブルがないケースでは、支店長でなくなったからといって、ただちに年俸を下げるということはできなくなります。ただ通常、年俸制をとっている会社であれば、毎年、年俸の見直しをされると思うので、その見直しで、業務に見合った年俸の提示をする。その金額が今までより下がることはあり得ることです。
会場からの質問: 外資系の日本法人にいて、日本でのポジションは社長ですが、ワールドワイドの組織ではカントリー・マネージャーという位置づけです。今まさに管理監督者を決めようとしています。
例えばボーナスやベースサラリーを実際に日本で決めた後、本社から「日本は業績がよかったから、エクストラを加えよう」と決定されました。この時、管理監督者が決定した金額とは違う金額になったのですが、こうした場合も、決定権をもつ管理監督者として問題がないのでしょうか。
高谷知佐子: 外資系の場合、本社の意向が強く働いて、実質人事権がないとか、決定権がないということは確かにあります。本来的には、日本の会社における支店という位置づけで見ていただくのが本筋だと思います。
御社が外資の子会社ということであれば、少なくとも独立した法人として完結しているはずです。確かに本社の意向で変わるかもしれませんが、最初のベースはこちらで決められるし、こちらで決めたことについて、さほど異を唱えられないのであれば、管理監督者という取り扱いをしてもいいと思います。
日本の裁判で、原告側から「自分の人事評価をさらに再評価する人がいるんだから、自分に評価権はない」という主張があっても、「その人の評価がほぼ認められる状況であれば、評価権を持っていると考えていい」というのが裁判所の考え方です。
会場からの質問: 残業を事前申請制にして、例えば残業者が「5時間」と申請しても、管理者が「3時間でやってください」とすることは可能でしょうか。もしくは、「5時間」と申請を受け、「OK」としたのに、「7時間かかりました」という場合、「いや、5時間しか認めません」ということが可能でしょうか。
高谷知佐子: 時間外労働は命令することができるので、使用者の命令に基づいてやるというのが原則。先ほどの5時間申請を、「3時間に」と言うのは可能です。ただ、「5時間」が7時間かかったとなったとき、超えた2時間を認めないことができるかは、なかなか難しい点です。
よく見たら7時間でもしようがない業務だった場合、あるいは絶対に7時間かからないのに7時間と申請した場合で変わってきます。何を頼んだのか、何をしていたのかなど、いろいろなケースが考えられると思います。ただ、「5時間以上かかるのであれば、5時間でやめるように」と指導していたのなら、2時間を認めないこともあり得るかも知れません。
会場からの質問: 先ほど山本さんから、残業代はいらないという若手社員の話がありました。タイムレコーダー上は記録として残っているが、「それは勉強なのでいい」と本人が言っている場合でも、残業代を払わなければいけないのですか。
高谷知佐子: 一応、会社と社員双方が「仕事ではない」と認識している時間なら、タイムレコーダーの時間から省いていいということになっています。「合意した」という文書が残っている方がいいでしょう。
でも減らす場合であれば、毎月集計して、「お互いに問題ないよね」という作業は本来されていると思うので、そこで確認されると思います。実際、休憩時間を真面目にタイムレコーダーの時間から減らしている会社がありますので、同じような方向でやることはあり得ます。
山本紳也: とりとめのない話というか、答えのない話ではありますけれども、多分、現場の皆さんと弁護士の先生などを含めて、いろいろと対策を考えていくなかで、少しずつ法律であり慣行が変わっていくものなのかなと思います。高谷先生、皆さま、本日はありがとうございました。(終)
考え方が2つあり、1つは年収をそのままにして残業代を支払う、2つ目は基本給を支店長以下に下げて残業代を支払う。後者の選択をするのは可能なのか、可能な場合それは不利益変更とみなされる可能性はあるでしょうか。
高谷知佐子: 可能かどうかは、御社の賃金体系が影響します。支店長というポジションに賃金が紐づけされているのであれば、当然、支店長でなくなることによって給料が減る。そういう給与体系であれば、「可能」とお答えしたい。
支店長と給料の金額が紐づけされていない場合もないわけではなく、給与テーブルがないケースでは、支店長でなくなったからといって、ただちに年俸を下げるということはできなくなります。ただ通常、年俸制をとっている会社であれば、毎年、年俸の見直しをされると思うので、その見直しで、業務に見合った年俸の提示をする。その金額が今までより下がることはあり得ることです。
会場からの質問: 外資系の日本法人にいて、日本でのポジションは社長ですが、ワールドワイドの組織ではカントリー・マネージャーという位置づけです。今まさに管理監督者を決めようとしています。
例えばボーナスやベースサラリーを実際に日本で決めた後、本社から「日本は業績がよかったから、エクストラを加えよう」と決定されました。この時、管理監督者が決定した金額とは違う金額になったのですが、こうした場合も、決定権をもつ管理監督者として問題がないのでしょうか。
高谷知佐子: 外資系の場合、本社の意向が強く働いて、実質人事権がないとか、決定権がないということは確かにあります。本来的には、日本の会社における支店という位置づけで見ていただくのが本筋だと思います。
御社が外資の子会社ということであれば、少なくとも独立した法人として完結しているはずです。確かに本社の意向で変わるかもしれませんが、最初のベースはこちらで決められるし、こちらで決めたことについて、さほど異を唱えられないのであれば、管理監督者という取り扱いをしてもいいと思います。
日本の裁判で、原告側から「自分の人事評価をさらに再評価する人がいるんだから、自分に評価権はない」という主張があっても、「その人の評価がほぼ認められる状況であれば、評価権を持っていると考えていい」というのが裁判所の考え方です。
会場からの質問: 残業を事前申請制にして、例えば残業者が「5時間」と申請しても、管理者が「3時間でやってください」とすることは可能でしょうか。もしくは、「5時間」と申請を受け、「OK」としたのに、「7時間かかりました」という場合、「いや、5時間しか認めません」ということが可能でしょうか。
高谷知佐子: 時間外労働は命令することができるので、使用者の命令に基づいてやるというのが原則。先ほどの5時間申請を、「3時間に」と言うのは可能です。ただ、「5時間」が7時間かかったとなったとき、超えた2時間を認めないことができるかは、なかなか難しい点です。
よく見たら7時間でもしようがない業務だった場合、あるいは絶対に7時間かからないのに7時間と申請した場合で変わってきます。何を頼んだのか、何をしていたのかなど、いろいろなケースが考えられると思います。ただ、「5時間以上かかるのであれば、5時間でやめるように」と指導していたのなら、2時間を認めないこともあり得るかも知れません。
会場からの質問: 先ほど山本さんから、残業代はいらないという若手社員の話がありました。タイムレコーダー上は記録として残っているが、「それは勉強なのでいい」と本人が言っている場合でも、残業代を払わなければいけないのですか。
高谷知佐子: 一応、会社と社員双方が「仕事ではない」と認識している時間なら、タイムレコーダーの時間から省いていいということになっています。「合意した」という文書が残っている方がいいでしょう。
でも減らす場合であれば、毎月集計して、「お互いに問題ないよね」という作業は本来されていると思うので、そこで確認されると思います。実際、休憩時間を真面目にタイムレコーダーの時間から減らしている会社がありますので、同じような方向でやることはあり得ます。
山本紳也: とりとめのない話というか、答えのない話ではありますけれども、多分、現場の皆さんと弁護士の先生などを含めて、いろいろと対策を考えていくなかで、少しずつ法律であり慣行が変わっていくものなのかなと思います。高谷先生、皆さま、本日はありがとうございました。(終)
※この原稿は、2008年9月3日にアカデミーヒルズで開催した『ヒューマンリソースマネジメントの舞台裏:人事労務の法的課題~マクドナルド判決に学ぶ企業の対応~』を元に作成したものです。
人事労務の法的課題 インデックス
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第1章 「マクドナルド判決」の背景にある労働市場環境の変化
2008年12月03日 (水)
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第2章 法律で明確には定義されていない監督責任者とする判断基準
2008年12月12日 (金)
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第3章 労働時間の自由裁量に関して違和感の残る裁判所の判断
2009年01月19日 (月)
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第4章 店長系の責任・権限程度では、管理監督者と言い切れない
2009年02月05日 (木)
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第5章 役員の1つ下のポジションは、管理監督者性を認める傾向
2009年02月27日 (金)
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第6章 今の法制度には選択肢がなくフレキシビリティに欠ける
2009年03月06日 (金)
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第7章 裁判所は鈍感だから方向転換できない。法改正が最良の策
2009年03月13日 (金)
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第8章 パフォーマンス評価で残業代と賞与のバランスを図る
2009年03月23日 (月)
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第9章 「36協定」で残業代が要らなくなるわけではない
2009年03月31日 (火)
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第10章 時間外労働は使用者の命令に基づいて行うのが原則
2009年04月13日 (月)
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