記事・レポート

人事労務の法的課題

~マクドナルド判決に学ぶ企業の対応~

更新日 : 2009年01月19日 (月)

第3章 労働時間の自由裁量に関して違和感の残る裁判所の判断

アカデミーヒルズで開催した「人事労務の法的課題~マクドナルド判決に学ぶ企業の対応~」

高谷知佐子: 次に【労働時間に関する裁量】。マクドナルド側は「店長はいつ出社する、帰宅するということについて上司の許可を必要としない」、「休日についても許可制ではない。休みたければ自分でやりくりして休んでいい」と主張しました。

ところが裁判所は、「店長としての固有の業務を遂行するだけで相応の時間を要する」。相応の時間ということは、自由時間がほとんどないということです。これでは、自分で裁量する余地がないというのが裁判所の言い方です。

また、店舗の営業時間帯には必ずシフトマネージャーを置くのですが、うまく手配できないときは自分でやらなければならず、結局、長時間の時間外労働を余儀なくされる。だから自由裁量はないというわけです。

実は、管理監督者と労働時間の自由裁量に関しては、裁判所は……

少し履き違え気味なのではないかと思います。例えば、責任が重い管理監督者は、やらなければいけないことがたくさんある。結果として朝8時から夜10時まで仕事をしなければいけない日が続いても、それは権限や責任に見合った業務のために必要だといえます。そこで「自由裁量がない」というのは、ちょっと違和感があります。

ただ、「必然的にそうしなければいけない労働時間の設定をしてしまうと、管理監督者性を否定する要素になる」ということですから、そこを押えておいていただいたらいいのかなと思います。

それから【給与・手当・一時金などの処遇】。マクドナルド側は「店長の平均年収は約707万円。1つ下のポジションであるFAM(ファースト・アシスタント・マネージャー)は590万円で、約100万円の差がある。だから十分管理監督者として処遇されている」という主張でした。

これに対しては、裁判所は「店長にはA~C評価があって、確かにA評価の店長はFAMの年収を下回ることはない、しかしC評価だと、FAMを下回る。あるいはB評価であったとしても、その差は44万円しかない。また、店長の週40時間を超える労働時間(編注:実質残業時間)は月平均39.28時間。FAMの38.65時間を超えている」。

要するに、こんなにたくさん仕事をしている人たちの処遇として、管理監督者だというには十分ではない金額だとしています。処遇が十分かどうかは会社にもよるでしょうし、世間一般の評価もありますが、裁判所は「逆転が起きているからだめだ」とするのです。

これから管理監督者の処遇の見直しを考えている方がいれば、単に「手当をつけた」「基本給が上回っている」だけではなく、下のポジションの人が時間外労働をしたときの平均年収あるいは年収額を下回ってしまわない設計にしないと厳しい、と認識していただきたいと思います。

ただ、これは原告側がどう主張するか、会社側がどう反論するかにも関係します。少なくとも「マクドナルド判決」から見ると、逆転現象が起きると問題になる可能性は高いといえますし、裁判所が今後、管理監督者に関する考え方をドラスティックに変えることもちょっと考えにくいと思います。

まだ控訴審中なので、どのような結論が出るのかを注目したいと思いますが、マクドナルドでは、店長の処遇については見直す方向で、一部の店舗についてフランチャイズ化する形で対応を進めつつ、裁判は裁判として行っていく方針のようです(2008年9月現在)。
(その4に続く、全10回)

※この原稿は、2008年9月3日にアカデミーヒルズで開催した『ヒューマンリソースマネジメントの舞台裏:人事労務の法的課題~マクドナルド判決に学ぶ企業の対応~』を元に作成したものです。

該当講座

人事労務の法的課題

~マクドナルド判決に学ぶ企業の対応

人事労務の法的課題
高谷知佐子 (森・濱田松本法律事務所 弁護士)
山本紳也 (プライスウォーターハウスクーパースHRS パートナー)

人事・労務専門弁護士の人気ランキングで常に上位に入る高谷知佐子弁護士をお迎えし、昨今の人事・労務問題をどう解決するか、企業の対応策を考えます。今回は、マクドナルド判決を取り上げます。東京地裁の判決を解説するとともに労働基準監督署の指導基準にも触れながら、これら問題の背景および本質を探ります。 ま....


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