記事・レポート
人事労務の法的課題
~マクドナルド判決に学ぶ企業の対応~
その他
更新日 : 2008年12月12日
(金)
第2章 法律で明確には定義されていない監督責任者とする判断基準
高谷知佐子: まず労働基準法上の管理監督者の定義をおさらいしておきます。まず大前提として「使用者は労働者に対して1日当たり8時間を超えて労働させてはいけない」とあります。1日8時間、1週間で40時間。休日は1週間に最低1日、4週4日を与えなければいけない規制があります。
では残業はというと、使用者と労働者の代表者が「労使協定」という約束をします。1日8時間を超えて労働させてもいいという合意をし、それに基づいて残業が行われます。「時間を超えて労働した場合、最低25%増しの割増賃金を払わなくてはならない」というのが規制です。
ただ労働基準法は例外として、労働時間や休日の縛りに該当しない労働者がいるとしています。筆頭は農業や漁業従事者。彼らは季節や天気を相手に仕事をしているので、決まった労働時間や休日などとは言っていられません。
それと同列に、管理監督者のグループがいます。ところが労働基準法には、管理監督者は「労働者を監督し、または管理する者」というだけで、はっきり定義されていないのです。
それを補完するものとして旧労働省の通達があり、「一般的には部長、工場長等労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にあるものの意であり、名称にとらわれず実態に即して判断すべきものである」としています。
ただこれを読んでも、「部長や工場長ならいい?」「うちには部長ではなく、マネージャーだが?」など、不明点も多いわけです。他のいろいろ通達を読んでも、はっきりわからない。結局、企業それぞれが管理監督者の位置づけを検討しなければいけないわけで、一律の基準というものはなかなか立てづらい。そこが難しさなのかなと思います。せめて、実態に即して判断するときの判断基準がほしいと思っています。
管理監督者の問題を考える上で、これまでの判例や通達の分析から得られた、3つの判断要素をご紹介します。
1. 職務内容、権限、責任に照らして、労務管理を含め、企業全体の事業経営に関する重要事項にどのように関与しているか
2. 勤務態様が労働時間等に対する規制に馴染まないものであるか(出退勤をはじめとする労働時間については裁量権を有しているか)
3. 給与・手当・一時金などについて管理監督者にふさわしい待遇がされているか
裁判所ではどれを一番重視しているのかというと【職務内容、権限、責任】です。やはり管理監督者としてふさわしい権限をもっていることが重要だと思います。
では、「マクドナルド判決」での対立点と、裁判所の見解を見ていきます。
まず、【職務内容、権限、責任】。通達の「経営者と一体的な立場」は、経営者と同じとはいわないものの、それに匹敵する権限や責任を持っていなければいけないのが裁判所の立場です。マクドナルド側はこう主張しました。
「店長は、店舗責任者としてアルバイトの従業員の採用、育成、勤務シフトの決定をしている」。店にとって一番大事な「販売促進の活動の企画・実施等について権限を持っている」。それから「会社の営業方針や営業戦略に即した店舗運営を遂行すべき立場にある」。「店長は店長会議に出て、『会社としてどういう店舗運営をしていくか』の話し合いもしており、ちゃんと経営に参画している」。だから、店長は管理監督者だというのです。
これに対して、裁判所はこう言います。
まず、「店長の職務・権限は店舗内の事項に限られる」。だから、経営者と一体とはいえないというわけです。また、「企業経営上の必要から『経営者と一体的な立場』において、労基法上の労働時間の枠を超えて事業活動をすることを要請されてもやむを得ないといえるような重要な職務と権限を付与されているとは認められない」。
店長会議に関しても、「その場は、実は本部が決めたことを店長に説明するだけで、店長から意見できるような議論の場ではない」から、店長が「経営と一体」の権限を持つとはいえませんということです。
また採用権限・人事権も、アルバイトに対しては持っているが、正社員には持っていない、それでは「経営者と一体の立場」ではないと判断しています。
現在、課長クラスが管理監督者になっている会社は多いですが、私の知る限りでは、「課長が新人の採用権限を持っている」ことはありません。人事評価の第一次評価者であっても、課長の人事評価が自動的に認められる会社はあまりありません。
課長が他の課に口を出したり、部課長会議において会社経営に参画するような議論がされている会社はほとんどないと思います。裁判所がいう「経営者との一体的な立場」「企業全体の事業経営に関する重要事項への参画」は、普通の会社における課長レベルでは難しいことになってしまいます。
(その3に続く、全10回)
では残業はというと、使用者と労働者の代表者が「労使協定」という約束をします。1日8時間を超えて労働させてもいいという合意をし、それに基づいて残業が行われます。「時間を超えて労働した場合、最低25%増しの割増賃金を払わなくてはならない」というのが規制です。
ただ労働基準法は例外として、労働時間や休日の縛りに該当しない労働者がいるとしています。筆頭は農業や漁業従事者。彼らは季節や天気を相手に仕事をしているので、決まった労働時間や休日などとは言っていられません。
それと同列に、管理監督者のグループがいます。ところが労働基準法には、管理監督者は「労働者を監督し、または管理する者」というだけで、はっきり定義されていないのです。
それを補完するものとして旧労働省の通達があり、「一般的には部長、工場長等労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にあるものの意であり、名称にとらわれず実態に即して判断すべきものである」としています。
ただこれを読んでも、「部長や工場長ならいい?」「うちには部長ではなく、マネージャーだが?」など、不明点も多いわけです。他のいろいろ通達を読んでも、はっきりわからない。結局、企業それぞれが管理監督者の位置づけを検討しなければいけないわけで、一律の基準というものはなかなか立てづらい。そこが難しさなのかなと思います。せめて、実態に即して判断するときの判断基準がほしいと思っています。
管理監督者の問題を考える上で、これまでの判例や通達の分析から得られた、3つの判断要素をご紹介します。
1. 職務内容、権限、責任に照らして、労務管理を含め、企業全体の事業経営に関する重要事項にどのように関与しているか
2. 勤務態様が労働時間等に対する規制に馴染まないものであるか(出退勤をはじめとする労働時間については裁量権を有しているか)
3. 給与・手当・一時金などについて管理監督者にふさわしい待遇がされているか
裁判所ではどれを一番重視しているのかというと【職務内容、権限、責任】です。やはり管理監督者としてふさわしい権限をもっていることが重要だと思います。
では、「マクドナルド判決」での対立点と、裁判所の見解を見ていきます。
まず、【職務内容、権限、責任】。通達の「経営者と一体的な立場」は、経営者と同じとはいわないものの、それに匹敵する権限や責任を持っていなければいけないのが裁判所の立場です。マクドナルド側はこう主張しました。
「店長は、店舗責任者としてアルバイトの従業員の採用、育成、勤務シフトの決定をしている」。店にとって一番大事な「販売促進の活動の企画・実施等について権限を持っている」。それから「会社の営業方針や営業戦略に即した店舗運営を遂行すべき立場にある」。「店長は店長会議に出て、『会社としてどういう店舗運営をしていくか』の話し合いもしており、ちゃんと経営に参画している」。だから、店長は管理監督者だというのです。
これに対して、裁判所はこう言います。
まず、「店長の職務・権限は店舗内の事項に限られる」。だから、経営者と一体とはいえないというわけです。また、「企業経営上の必要から『経営者と一体的な立場』において、労基法上の労働時間の枠を超えて事業活動をすることを要請されてもやむを得ないといえるような重要な職務と権限を付与されているとは認められない」。
店長会議に関しても、「その場は、実は本部が決めたことを店長に説明するだけで、店長から意見できるような議論の場ではない」から、店長が「経営と一体」の権限を持つとはいえませんということです。
また採用権限・人事権も、アルバイトに対しては持っているが、正社員には持っていない、それでは「経営者と一体の立場」ではないと判断しています。
現在、課長クラスが管理監督者になっている会社は多いですが、私の知る限りでは、「課長が新人の採用権限を持っている」ことはありません。人事評価の第一次評価者であっても、課長の人事評価が自動的に認められる会社はあまりありません。
課長が他の課に口を出したり、部課長会議において会社経営に参画するような議論がされている会社はほとんどないと思います。裁判所がいう「経営者との一体的な立場」「企業全体の事業経営に関する重要事項への参画」は、普通の会社における課長レベルでは難しいことになってしまいます。
(その3に続く、全10回)
※この原稿は、2008年9月3日にアカデミーヒルズで開催した『ヒューマンリソースマネジメントの舞台裏:人事労務の法的課題~マクドナルド判決に学ぶ企業の対応~』を元に作成したものです。
人事労務の法的課題 インデックス
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第1章 「マクドナルド判決」の背景にある労働市場環境の変化
2008年12月03日 (水)
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第2章 法律で明確には定義されていない監督責任者とする判断基準
2008年12月12日 (金)
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第3章 労働時間の自由裁量に関して違和感の残る裁判所の判断
2009年01月19日 (月)
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第4章 店長系の責任・権限程度では、管理監督者と言い切れない
2009年02月05日 (木)
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第5章 役員の1つ下のポジションは、管理監督者性を認める傾向
2009年02月27日 (金)
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第6章 今の法制度には選択肢がなくフレキシビリティに欠ける
2009年03月06日 (金)
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第7章 裁判所は鈍感だから方向転換できない。法改正が最良の策
2009年03月13日 (金)
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第8章 パフォーマンス評価で残業代と賞与のバランスを図る
2009年03月23日 (月)
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第9章 「36協定」で残業代が要らなくなるわけではない
2009年03月31日 (火)
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第10章 時間外労働は使用者の命令に基づいて行うのが原則
2009年04月13日 (月)
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