記事・レポート
遠藤功のプレミアム戦略
更新日 : 2008年03月19日
(水)
第1章 キャッチ・コピーではなく戦略としてのプレミアム
遠藤功: 私は去年の12月に『プレミアム戦略』という本を出したのですが、なぜそんな本を出したかというところからお話をさせていただきましょう。たぶん、ここ3年ぐらいの間にいろいろなメディアで「プレミアム」という言葉をよく耳にするようになったと思うのです。私はコンサルティングをもう20年やっていますが、いろいろなプロジェクトにおいて「高付加価値戦略」「プレミアム」などというアプローチを展開してきました。
日本の企業が成長していく中で、どうやって高付加価値の方へシフトしていくのか。しかも、ただ単にシフトするだけではなくて、プレミアムの価格を取れなくてはいけないわけですね。これは結構大変な作業で、たくさんのプロジェクトをやってはきましたが、なかなかうまくいかないものでした。
「プレミアム」という言葉がどんどん独り歩きしている中では、「キャッチ・コピーとしてのプレミアム」ではなく、「戦略としてプレミアム」を考えていかなければいけない。広告宣伝の中で「プレミアム」という言葉を使えば、それでお客さんがうれしそうに買うんじゃないか、という安易な考えに流されがちですが、そうではなくて企業の戦略としてプレミアムを打ち出していく必要があります。今まで日本の企業がやってきたビジネス・モデルから、とにかく発想を変えなければいけない。では、そこで打ち出す戦略というのは、今までの戦略と何が違うのかということをきちんと整理したいということで、この本を出したわけです。
●商品の「格」
昨日、日経新聞を見ていたら、マクドナルドの「プレミアム」が出ていました。「プレミアム・ロースト・コーヒー」は、「シャカシャカチキン」と一緒に買うと150円と。これもプレミアムなんですね。何でもプレミアムって付ければ買ってくれるんじゃないかという発想で、本当のプレミアムを生み出せる会社が日本から生まれてくるのだろうかというと、私は決してそう思わないわけです。発想をどういう風に変えていかなければいけないのか。レクサスがBMW とかアウディのような存在に、セイコーがロレックスに替わるようなブランドにならなきゃいけない。そうならなければ、日本企業は世界では生きのびていけない。
まず、商品の「格」について触れていきたいのですが、商品には、「格」の違いというものがあります。自動車の例で言うなら、スズキのアルトとポルシェの911カレラ。もう全然違いますよね。皆さんどっちを買いたいですか? それは言うまでもなく……いや、「おれはアルトがいい」という人もいるかもしれないけれど、車好きならやっぱり911カレラを持ちたいですよね。アルトは、一番安いモデルだったら70万円台で手に入ります。値頃感のあるいい車です。では、ポルシェの911カレラは幾らでしょう。1178万円です。別に911カレラは空を飛ぶわけでもないですよ。でも、この価格差って何なのだろうと。実に16・7倍です。
では、女性の好きなバッグ、サマンサタバサとエルメスのケリーバッグ。サマンサタバサは、若い女性に人気がありますよね。サマンサタバサのあるモデルは、1万5225円です。一方ケリーバッグは91万3500円。実にその差、60倍です。この価格差はどこから来るんだろうということを真剣に考えなければいけない。今、事例を挙げましたが、高い方の商品はいずれも日本の会社のものではありません。これでいいのでしょうか。
●キャッチ・コピーではなく、あくまでも戦略としてのプレミアム
これだけ価格の高い商品を、日本以外の会社がこういう値付けをして消費者に受け入れられて、消費者は喜んで払っていると。日本の会社合理性を追求して徹底的に効率化して、いい商品を提供しています。でも、これで本当にこれからもやっていけるのでしょうか。
商品には「格」があると思うんですね。単純に「上・中・下」と表すと、「下」というのはとりあえず最低限の機能を果たすということ。「中」はそれなりの品質を備え、機能的な価値は十分というもの。「上」はそれに何かプラス・アルファがあるわけです。それを持っていることによる高揚感、そういうものがなければいけない。
日本の会社は、これまで「中」の部分に圧倒的な強さを持っていたわけです。クオリティの高いものをリーズナブルな価格で作り、提供していくということが得意だった。これは今後とも日本の会社は維持しなければいけないと思います。
ただ、残念ながら、この分野には新たなコンペティターが来ます。中国にしてもインドにしてもブラジルにしても、近い将来どんどん侵食してきます。今は日本の会社の商品に比べたら大したことないと思っているかもしれませんが、そんなことはない。彼らのクオリティはどんどん上がり、しかもコストでは絶対かなわないわけです。
日本の会社というのは、製造業もサービス業もそうですが、「バリュー・フォー・マネー」という考え方です。日本語にすると値ごろ感とかお値打ちということ。お金に合った価値があることを日本人の得意としていたわけです。そのために、改善や合理化を行って徹底的に無駄を省き、品質の高い商品やサービスを提供していく。これが今までの日本の会社の得意分野だったわけです。
前述した海外ブランドの会社は逆で、「マネー・フォー・バリュー」。価値に合った価格をとにかく付けてしまうわけです。この発想の違いがそもそもの違い。モノが作れるか作れないか、それだけの話ではなくて、そもそもビジネスとしての発想が全然違う。残念ながら日本の会社には、こういう値付けをできる会社はまだまだ少ない。
日本企業は力があるから、商品とかサービスではそん色のない価値を作れると思います。日本のバッグ屋さんがケリーバッグと同じものを作れないか。作れますよ。ポルシェと同じもの作れないか。作れます。では、それをビジネスとしてどう展開していくのか、それを日本の会社はこれから真剣に考えていかないといけないと思っています。もう、ブランドの時代は終わったんだと。あくまでキャッチ・コピーではなく、「戦略としてのプレミアム」を考えていくことに主眼があるのです。
日本の企業が成長していく中で、どうやって高付加価値の方へシフトしていくのか。しかも、ただ単にシフトするだけではなくて、プレミアムの価格を取れなくてはいけないわけですね。これは結構大変な作業で、たくさんのプロジェクトをやってはきましたが、なかなかうまくいかないものでした。
「プレミアム」という言葉がどんどん独り歩きしている中では、「キャッチ・コピーとしてのプレミアム」ではなく、「戦略としてプレミアム」を考えていかなければいけない。広告宣伝の中で「プレミアム」という言葉を使えば、それでお客さんがうれしそうに買うんじゃないか、という安易な考えに流されがちですが、そうではなくて企業の戦略としてプレミアムを打ち出していく必要があります。今まで日本の企業がやってきたビジネス・モデルから、とにかく発想を変えなければいけない。では、そこで打ち出す戦略というのは、今までの戦略と何が違うのかということをきちんと整理したいということで、この本を出したわけです。
●商品の「格」
昨日、日経新聞を見ていたら、マクドナルドの「プレミアム」が出ていました。「プレミアム・ロースト・コーヒー」は、「シャカシャカチキン」と一緒に買うと150円と。これもプレミアムなんですね。何でもプレミアムって付ければ買ってくれるんじゃないかという発想で、本当のプレミアムを生み出せる会社が日本から生まれてくるのだろうかというと、私は決してそう思わないわけです。発想をどういう風に変えていかなければいけないのか。レクサスがBMW とかアウディのような存在に、セイコーがロレックスに替わるようなブランドにならなきゃいけない。そうならなければ、日本企業は世界では生きのびていけない。
まず、商品の「格」について触れていきたいのですが、商品には、「格」の違いというものがあります。自動車の例で言うなら、スズキのアルトとポルシェの911カレラ。もう全然違いますよね。皆さんどっちを買いたいですか? それは言うまでもなく……いや、「おれはアルトがいい」という人もいるかもしれないけれど、車好きならやっぱり911カレラを持ちたいですよね。アルトは、一番安いモデルだったら70万円台で手に入ります。値頃感のあるいい車です。では、ポルシェの911カレラは幾らでしょう。1178万円です。別に911カレラは空を飛ぶわけでもないですよ。でも、この価格差って何なのだろうと。実に16・7倍です。
では、女性の好きなバッグ、サマンサタバサとエルメスのケリーバッグ。サマンサタバサは、若い女性に人気がありますよね。サマンサタバサのあるモデルは、1万5225円です。一方ケリーバッグは91万3500円。実にその差、60倍です。この価格差はどこから来るんだろうということを真剣に考えなければいけない。今、事例を挙げましたが、高い方の商品はいずれも日本の会社のものではありません。これでいいのでしょうか。
●キャッチ・コピーではなく、あくまでも戦略としてのプレミアム
これだけ価格の高い商品を、日本以外の会社がこういう値付けをして消費者に受け入れられて、消費者は喜んで払っていると。日本の会社合理性を追求して徹底的に効率化して、いい商品を提供しています。でも、これで本当にこれからもやっていけるのでしょうか。
商品には「格」があると思うんですね。単純に「上・中・下」と表すと、「下」というのはとりあえず最低限の機能を果たすということ。「中」はそれなりの品質を備え、機能的な価値は十分というもの。「上」はそれに何かプラス・アルファがあるわけです。それを持っていることによる高揚感、そういうものがなければいけない。
日本の会社は、これまで「中」の部分に圧倒的な強さを持っていたわけです。クオリティの高いものをリーズナブルな価格で作り、提供していくということが得意だった。これは今後とも日本の会社は維持しなければいけないと思います。
ただ、残念ながら、この分野には新たなコンペティターが来ます。中国にしてもインドにしてもブラジルにしても、近い将来どんどん侵食してきます。今は日本の会社の商品に比べたら大したことないと思っているかもしれませんが、そんなことはない。彼らのクオリティはどんどん上がり、しかもコストでは絶対かなわないわけです。
日本の会社というのは、製造業もサービス業もそうですが、「バリュー・フォー・マネー」という考え方です。日本語にすると値ごろ感とかお値打ちということ。お金に合った価値があることを日本人の得意としていたわけです。そのために、改善や合理化を行って徹底的に無駄を省き、品質の高い商品やサービスを提供していく。これが今までの日本の会社の得意分野だったわけです。
前述した海外ブランドの会社は逆で、「マネー・フォー・バリュー」。価値に合った価格をとにかく付けてしまうわけです。この発想の違いがそもそもの違い。モノが作れるか作れないか、それだけの話ではなくて、そもそもビジネスとしての発想が全然違う。残念ながら日本の会社には、こういう値付けをできる会社はまだまだ少ない。
日本企業は力があるから、商品とかサービスではそん色のない価値を作れると思います。日本のバッグ屋さんがケリーバッグと同じものを作れないか。作れますよ。ポルシェと同じもの作れないか。作れます。では、それをビジネスとしてどう展開していくのか、それを日本の会社はこれから真剣に考えていかないといけないと思っています。もう、ブランドの時代は終わったんだと。あくまでキャッチ・コピーではなく、「戦略としてのプレミアム」を考えていくことに主眼があるのです。
関連書籍
プレミアム戦略
遠藤 功東洋経済新報社
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