記事・レポート
ハーバード大教授が見た松坂メジャー革命:日米文化とビジネス戦略
BIZセミナーその他
更新日 : 2008年05月16日
(金)
第7章 日本野球の本質とされる「走り込み」は、もとはアメリカのものだった
アンドリュー・ゴードン: 日本的だと言われている「投げ込み」や「走り込み」は、英語でhard throwing, hard runningと表現してもピンときません。英語の言葉がないくらい、日本的に感じる練習方法です。
本を書くにあたり、古い文献を調べました。そうして見つけた本の中に、日米で活躍した野球選手へのヒアリング集がありました。『Remembering Japanese Baseball』(Robert Whiting (はしがき)、Robert K. Fitts (著)/Southern Illinois Univ Pr (T))というタイトルの英語で書かれた本で、著者はロバート・フィッツという日本野球が大好きな人です。本の中で彼は、昔の日本人選手でアメリカと関係を持った選手やアメリカ人で日本でプレーしたことのある選手50人ぐらいに、ヒアリングしています。
日米の文化論に関する話が出てくるのは、岩本尭(たかし)選手へのインタビューのところです。岩本氏は、1953年に巨人軍に入団した選手で、当時の様子を次のように語っています。
——昔はそれほど練習しなかった。当時の選手には軍隊経験者が多く、もともとスタミナがあった。1950年代のキャンプでは、いわゆる1,000本ノックという激しい練習はまったくなかった。後に日本野球の本質とされる猛練習もなかった。たいして走りもしなかった。
ところが日本のスター選手5人がアメリカに行って春のキャンプに参加して、向こうでの練習に驚いて帰ってきた。その選手の1人、当時トップ選手だった川上哲治は、帰国後に走りはじめた。「どうしたのか」と聞いたら、「これがアメリカのやり方だ」と川上は答えた。
これがすべてのはじまりだった。このときから、選手たちは走り込みをするようになった。今では日本の選手は、大リーガーよりずっと激しい練習をすると言われるようになったけれど。——
岩本氏の言葉は、見事に私の論理と一致する話なのですぐに飛びついたのですが、嘘ではないと思います。もちろんこの5人の選手がアメリカに渡って戻ってきたことだけが原因ではないと思います。これは代表的な例で、何人も行ったり来たりしたと思います。そうして徐々に、当時アメリカで行われていたやり方が日本の野球文化になり、今ではそれが日本の野球文化だとされているのです。
私が非常におもしろいと思ったのは、これは日米の労働関係と同じパターンだということです。私は鉄鋼産業の労働の歴史の研究をしていたのですが、岩本尭らがアメリカ人から新しい練習方法を学んだのと同じ頃、1950年前後に、日本の経営者はアメリカの経営者や技術者から新しい手法を学びました。それが品質管理システムです。これは後に日本が世界に発信するものになりますが、もともとは米国から導入して、自分のものにして再輸出したものです。
グローバルな交流の中で、野球文化も同じように変化するかもしれない——これが本のタイトル『日本人が知らない松坂メジャー革命』の「革命」の意味です。ただ、今は革命の前触れ程度の段階なので、本のタイトルはちょっと大げさです。
要するに、未だ起きていないけれど、起きるかもしれない革命について述べているわけです。松坂のような選手がアメリカに渡って成功すればするほど、日本人選手の練習方法が手本とされる可能性が出てきます。ただし、これはあくまでも松坂が成功すればの話です。
今、アメリカの何人かの評論家の間では、「日本の野球をもっと評価すべき、自分を変えなくてはいけない」という議論がはじまっています。これは、1980年代にアメリカの経営者が、日本がやっている生産方式から学ぶべきところがあるという議論を始めた頃と似ています。
本を書くにあたり、古い文献を調べました。そうして見つけた本の中に、日米で活躍した野球選手へのヒアリング集がありました。『Remembering Japanese Baseball』(Robert Whiting (はしがき)、Robert K. Fitts (著)/Southern Illinois Univ Pr (T))というタイトルの英語で書かれた本で、著者はロバート・フィッツという日本野球が大好きな人です。本の中で彼は、昔の日本人選手でアメリカと関係を持った選手やアメリカ人で日本でプレーしたことのある選手50人ぐらいに、ヒアリングしています。
日米の文化論に関する話が出てくるのは、岩本尭(たかし)選手へのインタビューのところです。岩本氏は、1953年に巨人軍に入団した選手で、当時の様子を次のように語っています。
——昔はそれほど練習しなかった。当時の選手には軍隊経験者が多く、もともとスタミナがあった。1950年代のキャンプでは、いわゆる1,000本ノックという激しい練習はまったくなかった。後に日本野球の本質とされる猛練習もなかった。たいして走りもしなかった。
ところが日本のスター選手5人がアメリカに行って春のキャンプに参加して、向こうでの練習に驚いて帰ってきた。その選手の1人、当時トップ選手だった川上哲治は、帰国後に走りはじめた。「どうしたのか」と聞いたら、「これがアメリカのやり方だ」と川上は答えた。
これがすべてのはじまりだった。このときから、選手たちは走り込みをするようになった。今では日本の選手は、大リーガーよりずっと激しい練習をすると言われるようになったけれど。——
岩本氏の言葉は、見事に私の論理と一致する話なのですぐに飛びついたのですが、嘘ではないと思います。もちろんこの5人の選手がアメリカに渡って戻ってきたことだけが原因ではないと思います。これは代表的な例で、何人も行ったり来たりしたと思います。そうして徐々に、当時アメリカで行われていたやり方が日本の野球文化になり、今ではそれが日本の野球文化だとされているのです。
私が非常におもしろいと思ったのは、これは日米の労働関係と同じパターンだということです。私は鉄鋼産業の労働の歴史の研究をしていたのですが、岩本尭らがアメリカ人から新しい練習方法を学んだのと同じ頃、1950年前後に、日本の経営者はアメリカの経営者や技術者から新しい手法を学びました。それが品質管理システムです。これは後に日本が世界に発信するものになりますが、もともとは米国から導入して、自分のものにして再輸出したものです。
グローバルな交流の中で、野球文化も同じように変化するかもしれない——これが本のタイトル『日本人が知らない松坂メジャー革命』の「革命」の意味です。ただ、今は革命の前触れ程度の段階なので、本のタイトルはちょっと大げさです。
要するに、未だ起きていないけれど、起きるかもしれない革命について述べているわけです。松坂のような選手がアメリカに渡って成功すればするほど、日本人選手の練習方法が手本とされる可能性が出てきます。ただし、これはあくまでも松坂が成功すればの話です。
今、アメリカの何人かの評論家の間では、「日本の野球をもっと評価すべき、自分を変えなくてはいけない」という議論がはじまっています。これは、1980年代にアメリカの経営者が、日本がやっている生産方式から学ぶべきところがあるという議論を始めた頃と似ています。
関連書籍
Remembering Japanese Baseball : An Oral History of the Game (Writing Baseball)
Fitts, Robert K. Whiting, Robert (FRW)Southern Illinois Univ Pr
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