記事・レポート
今考えるべきこと「明日への提案 - 逆境を越える」
パンデミックは、リーダーと社会の成熟度を試している
更新日 : 2020年04月24日
(金)
第4章 出口治明さん(立命館アジア太平洋大学学長)
アカデミーヒルズがお届けする本企画では、様々な立場の識者から明日への提案を頂きます。
今を洞察し、未来をデザインする。多様な発想で彩られるオピニオンをお届けします。
新型コロナウイルスの感染拡大が、世界に甚大な被害をもたらしています。日本においても全国に緊急事態宣言が出され、戦後最大級の厳しい状況が続いています。事態は刻々と変化しており、収束がいつになるかは誰にも分かりません。
ただ僕は、パンデミックが収束した後の世界について中長期的には楽観しています。人類の歴史を振りかえると、どんなパンデミックもいつかは必ず終わります。そして新しい世界が開かれます。14世紀のペスト禍はルネサンスを生みました。現在、多くの市民がテレワークやオンライン授業にチャレンジしています。市民のITリテラシーは間違いなく格段に高まるでしょう。真の働き方改革が実現するのではないでしょうか。
ただ僕は、パンデミックが収束した後の世界について中長期的には楽観しています。人類の歴史を振りかえると、どんなパンデミックもいつかは必ず終わります。そして新しい世界が開かれます。14世紀のペスト禍はルネサンスを生みました。現在、多くの市民がテレワークやオンライン授業にチャレンジしています。市民のITリテラシーは間違いなく格段に高まるでしょう。真の働き方改革が実現するのではないでしょうか。
また、今回のパンデミックは、あらためて人々にリーダーの重要性を認識させたのではないかと思います。コロナウイルスに対する人類共通の課題は、次の3点です。
① 命を守るためのStay Home
② ①を支える医療従事者などキーワーカーへの感謝と支援
③ ①は収入減をもたらすので社会的弱者に対する「緊急の」再配分政策の設計
この3点について世界のリーダーが必死になって取り組んでいる、また、その姿がSNSによって世界中に拡散されているのです。
ドイツでは効率的な対策がなされているようです。わが国では東京都の対策が進んでいるように見えます。ドイツと東京に共通する点はどちらも財政がしっかりしていることです(ドイツは財政黒字国です)。お金が潤沢になければ、いざという時、思い切った政策が採れないこともよくわかります。この経験を通して、今後は人々がこれまでより真剣にリーダーを選ぶようになる。その結果、投票率が上昇し、民主主義が健全に機能するようになることを期待しています。現に韓国の総選挙では投票率が大幅に上昇しました。
① 命を守るためのStay Home
② ①を支える医療従事者などキーワーカーへの感謝と支援
③ ①は収入減をもたらすので社会的弱者に対する「緊急の」再配分政策の設計
この3点について世界のリーダーが必死になって取り組んでいる、また、その姿がSNSによって世界中に拡散されているのです。
ドイツでは効率的な対策がなされているようです。わが国では東京都の対策が進んでいるように見えます。ドイツと東京に共通する点はどちらも財政がしっかりしていることです(ドイツは財政黒字国です)。お金が潤沢になければ、いざという時、思い切った政策が採れないこともよくわかります。この経験を通して、今後は人々がこれまでより真剣にリーダーを選ぶようになる。その結果、投票率が上昇し、民主主義が健全に機能するようになることを期待しています。現に韓国の総選挙では投票率が大幅に上昇しました。
リーダーだけではありません。社会の成熟度も試されています。フランスでは、外出禁止令が出された3月18日の直後から医療従事者が帰宅する20時に住民がベランダに出て拍手で迎える動きがSNSで始まり、あっという間にイタリアやスペイン、アメリカやタイに広まりました。ロンドンの友人によると、医療支援ボランティアを募ったところ25万人の募集に対して3日で75万人が殺到したそうです。残念ながら日本では医療従事者への差別が起きましたが、今こそ最前線で奮闘している医療従事者を始めとするキーワーカーに社会全体がエールを贈るときだと思います。
知識は力です。買占めやキーワーカーへの差別は無知から生じます。コロナ後の世界は、働き方改革で浮いた時間を活用してリカレント教育を徹底し、職場と大学を自由に行き来できる社会を構築すべきです。そのための僕の提言はシンプルです。例えば企業が社員を内外の大学に派遣した場合、その費用全額を税額控除したらどうでしょう。
知識は力です。買占めやキーワーカーへの差別は無知から生じます。コロナ後の世界は、働き方改革で浮いた時間を活用してリカレント教育を徹底し、職場と大学を自由に行き来できる社会を構築すべきです。そのための僕の提言はシンプルです。例えば企業が社員を内外の大学に派遣した場合、その費用全額を税額控除したらどうでしょう。
当面は、人の移動を抑制しているわけですから、グローバリゼーションには一定の歯止めがかかります。でも、中長期的に見ればグローバリゼーションはより進展するでしょう。世界の連帯は実は強まっているのです。各国の中央銀行は緊密にかつすばやく連携して行動し金融市場の崩壊をある程度まで押し留めました。またG20は途上国の債務の返済を繰り延べました。EUでは感染者の多い国の医療崩壊を防ぐために重症患者を他国に運んで治療したり、感染の少ない国の人が感染の多い国へボランティアとして入ったりしています。
歴史上のこれまでのパンデミックは、例外なく、グローバリゼーションを加速させました。お互いが結びつくことで豊かになった世界が、歴史に逆行することはないと信じます。人類はウイルスに「グローバルな信頼と連帯」を試されているのです。
歴史上のこれまでのパンデミックは、例外なく、グローバリゼーションを加速させました。お互いが結びつくことで豊かになった世界が、歴史に逆行することはないと信じます。人類はウイルスに「グローバルな信頼と連帯」を試されているのです。
《筆者紹介》
出口治明(立命館アジア太平洋大学 (APU) 学長・学校法人立命館副総長・理事)
1948年、三重県生まれ。京都大学法学部卒業。72年、日本生命保険相互会社入社。
ロンドン現地法人社長、国際業務部長などを経て2006年に退職。08年4月、ライフネット生命保険相互会社を開業。
代表取締役社長、代表取締役会長を経て17年に退職。18年1月より現職。
代表取締役社長、代表取締役会長を経て17年に退職。18年1月より現職。
『生命保険入門 新版』(岩波書店)、『全世界史』Ⅰ・Ⅱ(新潮社)、
『知的生産術』(日本実業出版社)、『人類5000年史』 III (ちくま新書)ほか著書多数。
『人生を面白くする 本物の教養』(幻冬舎新書)は15万部を超えるベストセラー。
著書紹介
哲学と宗教全史
出口 治明ダイヤモンド社
「教える」ということ 日本を救う、[尖った人]を増やすには
出口 治明KADOKAWA
今考えるべきこと「明日への提案 - 逆境を越える」 インデックス
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第1章 朝比奈一郎さん(青山社中リーダー塾 塾頭)
2020年04月20日 (月)
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第2章 小林康夫さん(東京大学名誉教授)
2020年04月21日 (火)
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第3章 横山禎徳さん(社会システムズ・アーキテクト)
2020年04月21日 (火)
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第4章 出口治明さん(立命館アジア太平洋大学学長)
2020年04月24日 (金) -
第5章 渡部潤一さん(自然科学研究機構 国立天文台 副台長/教授)
2020年04月27日 (月) -
第6章 津田大介さん(ジャーナリスト)×竹中平蔵さん(アカデミーヒルズ理事長)
2020年05月01日 (金)
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