記事・レポート

今考えるべきこと「明日への提案 - 逆境を越える」

システム的思考を、日々の判断に組み込む

更新日 : 2020年04月21日 (火)

第3章 横山禎徳さん(社会システムズ・アーキテクト)

アカデミーヒルズがお届けする本企画では、様々な立場の識者から明日への提案を頂きます。
今を洞察し、未来をデザインする。多様な発想で彩られるオピニオンをお届けします。





今年の初めには誰も思いもしなかった事態が世界中で進行中だが、個人的にはスケジュールが大半中止かオンラインになったこと以外、身の回りの生活に特に変わったことは起きていない。これまでと違うことは、外出するときは気を付けて人を避け、帰宅すると必ずゆっくりと丁寧に石鹸で手を洗うことだ。そして、これからは、この新型コロナウィルスと共に生活することになるだろう。「ソーシャル・ディスタンス」を取り続ける生活は結局、終わらないかもしれないと思い始めている。
 
私たちはこれまで、仕事中も仕事の後の楽しみも閉じた空間で密に過ごしていたのが、その逆になるような生活習慣を身につけることになるのだろうか。時代がそういうことを予期して準備していたかの如く、ISDT (Internet, Sensor & Digital Technology)が21世紀になって急速に発達し、「早い、安い、近い」ものになり、それを使ってお互い距離を取りながら新しい生活を組み立てる時代が来たのだろうか。このように、物事は「あれかこれか」であり、「あれからこれへ」、あるいは「これまでとこれから」というように変わっていくのだろうか。いや、そう単純ではないだろう。
 
感情面では人間は昔も今も何も変わらない。そして今後も変わらないにちがいない。どんな時代でも同じように喜び、悲しみ、野心を燃やし、競争をし、嫉妬をし、やっかみ、落ち込み、そして、時々、ほっとしたり、反省したりする。歴史を振り返って見てもそれは確信できる。
 
多分、今後、実際に起こることは、「あれがあるからこれがある」ことになる。すなわち、変わる部分と変わらない部分が際立ちながら共存するのではないだろうか。そして、その二つの関係がダイナミックに変化していくだろう。その中で私たちは戸惑い、迷い、翻弄されることだろう。そういう状況を読み込んだうえで人々が生活に満足を感じる「社会システム」が必要だ。
今、盛んに議論されている「医療システム」は「社会システム」のひとつであり、お役人の誰かが半世紀以上前にデザインしたのである。当然、今のような緊急事態だけでなく、高齢化も、グローバリゼーションも想定していないシステムである。医療システムだけでなく、新しい「社会システム」、例えば、信用、セキュリティに関わるシステム、多様な雇用形態を支えるシステム、緊急事態に迅速対応するシステム、「コンパクトシティ」ではなく公共サービスを提供するシステム等々、新しい発想の「社会システム」を数多くデザインしないといけない。それを誰がやるかが問題だ。
 
通常は今まで通り、お役人がやるのだろうが、法律作りの訓練はされていても、「社会システム」をデザインする訓練はされていない。昔とちがい、法律を作るだけではシステムはできないことを今回の経験が色々示してくれている。これらの「社会システム」をデザインすることのできるお役人を訓練しないといけない。数年はかかるが、今後の長い「闘い」を考えれば、短いともいえる。焦って方向を決めるより、構想をもってデザインできる人材を多数訓練することが重要だ。
 
一般市民はどうすべきか。今回の経験でよく分かったように、世の中は「社会システム」で構成され、その効率と効果はデザインの質によることを十分理解する。すなわち、システム的思考を日々の判断に組み込むことだ。それはどういうことか。海外で事件が起こったときに速やかに日本人被害者の有無と氏名を発表するのは何故か、軽減税制はほかの選択肢と比べて優れていないのは何故かを考えてみるとよい。ヒントは「システム的に考える」ということである。
 
 
 
《筆者紹介》
横山禎徳(社会システムズ・アーキテクト)
 
前川國男建築設計事務所、デイビス・ブロディ・アソシエーツ等で設計に従事後、1975年マッキンゼー・アンド・カンパニー入社。87年ディレクター、89年から94年まで東京支社長。2002年退職。その後、イグレックSSDI 代表として「社会システム・デザイン」という分野の確立、発展に向けて活動する一方、東京大学総長室アドバイザー、県立広島大学 経営専門職大学院(HBMS)経営管理研究科長、株式会社エアウィーヴ社外取締役なども兼務している。2008年から2018年まで企画推進責任者として東大EMPを立ち上げ、基盤確立に努力。
主な著書に『社会システム・デザイン-組み立て思考のアプローチ-「原発システム」の検証から考える』、『東大エグゼクティブ・マネジメント デザインする思考力』、『東大エグゼクティブ・マネジメント 課題設定の思考力』(2冊とも共著、東京大学出版会)などがある。
 

著書紹介

「組織改革とか組織改組などと言うが、その目的は「組織を変える」ことではない。
「人々の行動を変える」ことが目的である。
マッキンゼー東京支社長として多岐にわたる組織に関わった横山偵徳さんの豊富な経験に裏打ちされた組織デザイン論の集大成。

組織 - 「組織という有機体」のデザイン 28のボキャブラリ

横山禎徳
ダイヤモンド社

どんなに大々的な組織改革を行っても、人々が行動を変えず、昔どおりの馴れ親しんだ価値観と行動をしているのであれば、その改革は失敗である。
「人の行動を変える」という目的にとことん執着することを忘れてはいけない。


社会システム・デザイン組み立て思考のアプローチ—「原発システム」の検証から考える

横山禎徳
東京大学出版会



新型コロナウイルスによる行動制限で、私たちの日常はどう変わるのか?
皆さまのご回答・感想をお寄せください!

ご回答・感想はこちらへ