記事・レポート
メタバースは私たちの「学び」に何をもたらす?<イベントレポート>
更新日 : 2024年10月22日
(火)
【2章】「無言でも成り立つコミュニケーション」の重要性
開催日:2024年5月28日 (火) 19:00~20:30 イベント詳細
スピーカー:佐藤将大 (学校法人角川ドワンゴ学園 普通科推進室 室長)
バーチャル美少女ねむ(VTuber / 作家 / メタバース文化エバンジェリスト)
モデレーター:塩瀬隆之 (京都大学総合博物館 准教授)
スピーカー:佐藤将大 (学校法人角川ドワンゴ学園 普通科推進室 室長)
バーチャル美少女ねむ(VTuber / 作家 / メタバース文化エバンジェリスト)
モデレーター:塩瀬隆之 (京都大学総合博物館 准教授)
メタバースには「無言でも成り立つコミュニケーション」がある
塩瀬:早速、3人でお話をしていきたいと思います。佐藤さんはさきほどのねむさんのお話を受けて、いかがでしょうか。
佐藤:そうですね。今回は、メタバースの仕組みや技術的なことより、メタバースという抽象的な概念のほうに興味のある参加者が多いのではないかと思っています。僕らはメタバース、VR空間が、既存のオンライン教育を拡張するための一つのツールになるのではないかと考えて導入しています。まさに「コミュニケーション」に関わるところです。今、我々はこの現実空間にいて、会場の画面に投影する形でメタバース上のねむさんとお話をしていますけれども、こういった映像表現になっても、リアルタイムに表情豊かだったり、空間を変えていただいたりして、ねむさんの人となりが伝わってきます。
N高・S高でも、もう少し簡易的なものですけれども、こういった空間に入ってコミュニケーションができるようになっています。Zoomのようなオンラインコミュニケーションツールと違う部分は、「無言でも成り立つコミュニケーション」というのがあると思います。一緒の空間にいることそのものが、実はコミュニケーションであって、一つの信頼関係を築いていくような構造になっていると感じます。これは現実世界での学校の中でも同じで、例えば、Zoomでカメラをオフにして喋らない人の存在感は薄くなってしまうと思いますが、例えば現実の教室の中では、話さなくても、あそこに座って絵を描いている生徒がいるな、という記憶、印象が残ると思うんです。メタバース空間でもそれと同じことがあって、いつもあの生徒いるな、あんまり喋らないけどジェスチャーで「◯」を出したりする生徒だな、みたいな認識をしているんです。そういう生徒が、ある日いきなり何か役割を持ったときに喋り出してくれることがあったりします。最初は喋るのが難しいと思っていた生徒が、ここまで慣れてきたら喋ってもいいかなという気持ちの変化を起こしたりする。そういったコミュニケーションのステップを踏める部分は、メタバースの特徴的な要素のひとつではないかと思います。
塩瀬:ありがとうございます。今、ねむさんのメタバース空間に、登場人物が増えましたね。
(左:塩瀬さん、中央:ねむさん、右:佐藤さん)
ねむ:私だけだとわかりづらいと思って、普段使っている別のアバターを出してみました。今出したアバターは魂が入っていないのでお人形ですが、佐藤さんがおっしゃったように、言葉がなくてもこの空間に「いる」という存在感が、アバターの体があるとすごく伝わるんですよね。今日はこの空間に私以外が入れないように設定していますが、通常は誰でも入って来られるので、このようなアバターの体を介したコミュニケーションができるようになっています。これは、Zoomのような画面越しのツールと、メタバースでのコミュニケーションとの一番大きい違いのひとつだと思います。
塩瀬:教育現場でメタバースを導入しようか悩んでいる方の多くは、ご自身がどちらかというとオンラインが得意ではなく、オンラインに入って寂しい思い(あまり喋れない、近づけない等)を経験したことがあるような気もしますね。
では、メタバースでのコミュニケーションについて、人によって得意不得意というのはあるでしょうか?熟達するとメタバースの中での距離感も近くなるのか、それともメタバース自体が存在感をありありと感じられる仕組みになっているのか。佐藤さんは、現場で実際見ていて、どう思われますか?
佐藤:メタバースそのものが存在感を出せる仕組みかどうかでいうと、まだプラットフォームも発展途上ではあるので、難しい部分はあると思います。ただ、うちの学校の生徒は模索しながら、お互いに近づいていっているなとは思います。ポケベルが出てきた時代も、最初は数字だけしか送れなかったと思いますが、その中でできるコミュニケーションをしていたと思うんです。今、メタバースは臨場感がある中でも、まだ現実と一緒ではありません。でも、ポケベル時代と同じく、制限がある中で工夫して、だんだんと表現力が広がっていって、開拓した中で新しいコミュニケーションが生まれていくのだと思います。そういった意味で、今の若い世代、デジタルネイティブの子どもたちにとっては、次のコミュニケーション手段になり得るのではないかと思います。
佐藤:そうですね。今回は、メタバースの仕組みや技術的なことより、メタバースという抽象的な概念のほうに興味のある参加者が多いのではないかと思っています。僕らはメタバース、VR空間が、既存のオンライン教育を拡張するための一つのツールになるのではないかと考えて導入しています。まさに「コミュニケーション」に関わるところです。今、我々はこの現実空間にいて、会場の画面に投影する形でメタバース上のねむさんとお話をしていますけれども、こういった映像表現になっても、リアルタイムに表情豊かだったり、空間を変えていただいたりして、ねむさんの人となりが伝わってきます。
N高・S高でも、もう少し簡易的なものですけれども、こういった空間に入ってコミュニケーションができるようになっています。Zoomのようなオンラインコミュニケーションツールと違う部分は、「無言でも成り立つコミュニケーション」というのがあると思います。一緒の空間にいることそのものが、実はコミュニケーションであって、一つの信頼関係を築いていくような構造になっていると感じます。これは現実世界での学校の中でも同じで、例えば、Zoomでカメラをオフにして喋らない人の存在感は薄くなってしまうと思いますが、例えば現実の教室の中では、話さなくても、あそこに座って絵を描いている生徒がいるな、という記憶、印象が残ると思うんです。メタバース空間でもそれと同じことがあって、いつもあの生徒いるな、あんまり喋らないけどジェスチャーで「◯」を出したりする生徒だな、みたいな認識をしているんです。そういう生徒が、ある日いきなり何か役割を持ったときに喋り出してくれることがあったりします。最初は喋るのが難しいと思っていた生徒が、ここまで慣れてきたら喋ってもいいかなという気持ちの変化を起こしたりする。そういったコミュニケーションのステップを踏める部分は、メタバースの特徴的な要素のひとつではないかと思います。
塩瀬:ありがとうございます。今、ねむさんのメタバース空間に、登場人物が増えましたね。
(左:塩瀬さん、中央:ねむさん、右:佐藤さん)
塩瀬:教育現場でメタバースを導入しようか悩んでいる方の多くは、ご自身がどちらかというとオンラインが得意ではなく、オンラインに入って寂しい思い(あまり喋れない、近づけない等)を経験したことがあるような気もしますね。
では、メタバースでのコミュニケーションについて、人によって得意不得意というのはあるでしょうか?熟達するとメタバースの中での距離感も近くなるのか、それともメタバース自体が存在感をありありと感じられる仕組みになっているのか。佐藤さんは、現場で実際見ていて、どう思われますか?
佐藤:メタバースそのものが存在感を出せる仕組みかどうかでいうと、まだプラットフォームも発展途上ではあるので、難しい部分はあると思います。ただ、うちの学校の生徒は模索しながら、お互いに近づいていっているなとは思います。ポケベルが出てきた時代も、最初は数字だけしか送れなかったと思いますが、その中でできるコミュニケーションをしていたと思うんです。今、メタバースは臨場感がある中でも、まだ現実と一緒ではありません。でも、ポケベル時代と同じく、制限がある中で工夫して、だんだんと表現力が広がっていって、開拓した中で新しいコミュニケーションが生まれていくのだと思います。そういった意味で、今の若い世代、デジタルネイティブの子どもたちにとっては、次のコミュニケーション手段になり得るのではないかと思います。
その世界の人々が何を望むかということに応じて、メタバースの世界も変わっていく
塩瀬:ねむさんの世界で、アバターの身長はどれぐらいの大きさですか?
ねむ:これは、自由にいじることができてしまうんです。ちょっとやってみましょうか。(画面上で、ねむさんが大きくなっていく)
塩瀬:わ、大きくなった!
ねむ:今、全長50mくらいですかね(笑)。こんな巨大ロボットのように生活している人もいれば、逆に小さなフェアリーのような感じで生活している人もいます。最初の大きさに戻しますと、これが140〜150センチくらいですね。面白いことに、アバターの身長にはトレンドがあります。まず、小さい方が撫でてもらったり可愛がってもらいやすいということで、一時期、みんな低めの身長に設定していることがありました。でも、極端に身長差があるとコミュニケーションが取りづらくなってしまって、今は145センチくらいで落ち着いているかなという気がします。自由になんでもできる世界でも、結局その世界にいる人々が何を望むかということに応じて変わっていくので、身長で言えば、大きくなったり小さくなったりした結果、このくらいに収束しているということだと思います。
塩瀬:なるほど。佐藤さん、N高のメタバースではアバターの身長はどれぐらいに設定されているのですか?
佐藤:ねむさんがいらっしゃるVRChatなどは、すごく自由度が高く、作り込める感じですが、入学してすぐの高校生に「自分でアバターを用意してください」というのはさすがに難しいので、僕らの場合はスマホのアプリで簡単に作れるものを提供しています。アプリで調整できる範囲が、おそらく130〜190センチぐらいで、おおよそ人間の身長差ぐらいの中に収まっているので、現実世界と同じ程度のサイズで使っていると思います。もちろん、自分でアレンジしている生徒もいます。
塩瀬:アバターになるとき、なりたい自分になろうとか、自分の理想を求めるとか、現実世界の自分とはわざわざ変える人もいらっしゃるのかなと思うんですけど、学校の場合はどう設定されていますか?
佐藤:どんな姿になるかは、個人的な感覚で、ある種のお洒落、ファッションですよね、そういったところに学校から介入することはないです。だからみんな基本的に好きな姿ですね。ただ、例えばちょっとグロテスクな、リアルなゾンビみたいな姿があったとして、他の子が怖がるようなものはNGだし、現実に置き換えたとき普通に外に出るときのファッションとして周りの人が不快になるようなものは人がいる場ではやめようね、というのはあります。
塩瀬:メタバース学校の教室がゾンビだらけになったら大変ですもんね(笑)。
佐藤:そうなんです(笑)。でも、逆にそういうコスプレが趣味の人同士が集まったり、何かのイベントの時にはやってもいいだろうし、そういったTPOに応じた考え方も、社会に出るための学びになっていくのかなと思います。
塩瀬:ねむさんが、打ち合わせのときに、「アバターだとジェンダーギャップやジェネレーションギャップがなくなる」というお話されていましたが、性別や年齢はアバターになるときに自己設定に傾向があったりしますか。
ねむ:それは、ものすご〜く極端な傾向があります。では、ここで昨年実施したアンケート「ソーシャルVRライフスタイル調査2023 (Nem x Mila)」についてご紹介したいと思います。2000人くらいの世界中のVRユーザーが回答してくれたものです。まず、性別の傾向を見てみましょう。 ユーザー、いわゆる「中の人」の性別は男性が多いです(グラフ左)。そして、その男性ユーザーのうち8割近くが女性のアバターを使っていることがわかります(グラフ中)。逆に「中の人」が女性の場合は、男性アバターを選ぶことが多いかというと、そんなことはなく、やはり女性アバターが人気(グラフ右)なので、全体でみても圧倒的に女性アバターを使っている人が多いということになります。「中の人」の属性に合わせたアバターを使おうという感覚はないと思いますね。アバターが自分のなりたい姿かどうかは分からないのですが、必ずしも現実の性別、年齢、見た目、特性、肩書き、人種、そういったものにとらわれないアバターの使い方が広まっているということは確実に言えるのかなと思います。
会場質問:アバターになると「女性」が多いのは、どうしてなのでしょうか。
ねむ:アンケート調査でいろいろ聞いているので、公開している結果もぜひ見ていただきたいのですが、簡単にまとめると、コミュニケーションがしやすい、距離が縮まりやすい、ということです。日本だと男性が感情を表に出すことが良しとされない文化だったりするので、女性型のほうが自己表現がしやすい、というのもあります。もちろんトランスジェンダーの方もいらっしゃいますが、あまり割合としては多くはなくて、割とカジュアルな理由で、現実世界の性別とは違うアバターを使っている人が多いと思います。
塩瀬:シニア世代のコミュニティスペースで、女性の方は割とすぐその場に参加できるけれど、男性の方は名刺・肩書きをなくした瞬間に他の人と喋れなくなってしまい、うまくコミュニティに入れない人が多いという話を聞いたことがあります。やはり女性(女性の見た目)のほうがコミュニケーションも得意になるというか、うまくいきやすいのかもしれません。でも、サイバースペースでトレーニングを重ねると実際のコミュニケーショもうまくとれるようになるかもしれませんね。
どこの国の人かということも、アバターからはわからないですか?
ねむ:うーん、そもそもメタバースの世界では人間の姿にとらわれる必要はないので、国籍などもわからないですね。では、ここで質問です!昨年の調査で、「人間タイプ」「亜人間タイプ」「動物タイプ」の中で、どのアバターが一番人気だと思いますか?現実世界では人間タイプが100%シェアですけど(笑)。
塩瀬:僕は「亜人間(人間に近い姿形ながら、異なった要素を持つ人間とは異なる生物・種族)」かなと思いました。
ねむ:なるほど〜。その心は?
塩瀬:人間だと現実世界と一緒になるので、違う自分を探そうとすると、「亜人間」が一番選ばれるかな、と。動物の姿になったら、僕はどういうキャラで話したらいいか悩むと思います(笑)。佐藤さんはどれだと思いますか?
佐藤:そうですね。「人間」か、「亜人間」が人気だと思いますが、初心者は「動物」を使う人も多いのかなと思います。一気に見た目を変えるとか、個性を出すところまで行きつかない人だと、動物だけでなく、ゆるキャラ的なものから、スタートする人も多いなと思いますね。いろいろなアバターがあるので、僕は以前タイヤになったことがあります(笑)。
塩瀬:タイヤは面白いですね(笑)。ねむさん、実際の調査結果はどうだったのでしょうか?
ねむ:結果は・・・「亜人間タイプ」がトップでした〜!次が「人間タイプ」です。「動物タイプ」は3%くらいで、あまり多くはなかったですね。やっぱり自分を覚えてほしい、自分を表現したいというのがあると思うので、人間である必要はないけれど、あまり人間型からかけ離れてしまうとコミュニケーションが取りづらくなっちゃいますよね。そういうニーズを合わせた結果かな、というのが私の予想です。
塩瀬:コミュニケーションのしやすさは、メタバース空間でも必要な条件ということですね。自由にひとりで走り回るだけだったら、どんな形やサイズでも良さそうな感じがします。
ねむ:そうですね。インターネットを通じて、相手の存在感を感じることができ、コミュニケーションができるのが、メタバースのいいところだと思うので、やっぱりコミュニケーションしやすい形に収束していくのかなというふうに考えています。
塩瀬:コミュニケーションという視点でみると、人数の多さはどうでしょうか。空間をどんどん大きくしていけば、メタバースならたくさん入れそうな気がしますが、存在感やコミュニケーションが大事ということは、あまりたくさんの人数が入り過ぎるのは困ってしまったりするでしょうか。ウェビナーだと500人規模の講演会とかもあると思いますが。
ねむ:それはケースバイケースかなという気がします。技術的な限界値もあると思いますが、設定の仕方によっては、大人数とコミュニケーションする空間も作れます。例えば日本でcluster(クラスター)さんなどで音楽ライブをすると、ステージに立っているVTuberはすごく綺麗なアバターで表示するけれど、お客さんは大ぶりなアバターにして500人ぐらい同じ世界に入れるようにしたりしています。現実では一対一のコミュニケーションになると、ディープなコミュニケーションになりますし、アイドルの握手会だったらSPがずらっといて、会場を借りるお金も大変ですよね。でも、私がメタバースでサイン会をやるときは、一人で対応したこともあるんです。なので、メタバースは少人数のコミュニケーションだけに向いている、ということではないと思います。
塩瀬:なるほど。佐藤さんにお聞きしますが、N高は在籍生徒数が2万人位というお話でしたが、メタバースの授業を大人数ですることはあるんでしょうか。
佐藤:僕らが生徒に提供しているVRゴーグルMeta Questは、スタンドアローンと呼ばれるもので、性能的にはスマホぐらいの計算の速さなので、何十人も同時に表示するというのは技術的に難しいです。また、多人数に対しての情報発信であれば映像を見せればいいので、そのスタイルの授業はメタバースでなくても良いと感じています。現在はコミュニケーションの場としては、マックス16人の部屋でやっています。
ねむ:これは、自由にいじることができてしまうんです。ちょっとやってみましょうか。(画面上で、ねむさんが大きくなっていく)
塩瀬:わ、大きくなった!
ねむ:今、全長50mくらいですかね(笑)。こんな巨大ロボットのように生活している人もいれば、逆に小さなフェアリーのような感じで生活している人もいます。最初の大きさに戻しますと、これが140〜150センチくらいですね。面白いことに、アバターの身長にはトレンドがあります。まず、小さい方が撫でてもらったり可愛がってもらいやすいということで、一時期、みんな低めの身長に設定していることがありました。でも、極端に身長差があるとコミュニケーションが取りづらくなってしまって、今は145センチくらいで落ち着いているかなという気がします。自由になんでもできる世界でも、結局その世界にいる人々が何を望むかということに応じて変わっていくので、身長で言えば、大きくなったり小さくなったりした結果、このくらいに収束しているということだと思います。
塩瀬:なるほど。佐藤さん、N高のメタバースではアバターの身長はどれぐらいに設定されているのですか?
佐藤:ねむさんがいらっしゃるVRChatなどは、すごく自由度が高く、作り込める感じですが、入学してすぐの高校生に「自分でアバターを用意してください」というのはさすがに難しいので、僕らの場合はスマホのアプリで簡単に作れるものを提供しています。アプリで調整できる範囲が、おそらく130〜190センチぐらいで、おおよそ人間の身長差ぐらいの中に収まっているので、現実世界と同じ程度のサイズで使っていると思います。もちろん、自分でアレンジしている生徒もいます。
塩瀬:アバターになるとき、なりたい自分になろうとか、自分の理想を求めるとか、現実世界の自分とはわざわざ変える人もいらっしゃるのかなと思うんですけど、学校の場合はどう設定されていますか?
佐藤:どんな姿になるかは、個人的な感覚で、ある種のお洒落、ファッションですよね、そういったところに学校から介入することはないです。だからみんな基本的に好きな姿ですね。ただ、例えばちょっとグロテスクな、リアルなゾンビみたいな姿があったとして、他の子が怖がるようなものはNGだし、現実に置き換えたとき普通に外に出るときのファッションとして周りの人が不快になるようなものは人がいる場ではやめようね、というのはあります。
塩瀬:メタバース学校の教室がゾンビだらけになったら大変ですもんね(笑)。
佐藤:そうなんです(笑)。でも、逆にそういうコスプレが趣味の人同士が集まったり、何かのイベントの時にはやってもいいだろうし、そういったTPOに応じた考え方も、社会に出るための学びになっていくのかなと思います。
塩瀬:ねむさんが、打ち合わせのときに、「アバターだとジェンダーギャップやジェネレーションギャップがなくなる」というお話されていましたが、性別や年齢はアバターになるときに自己設定に傾向があったりしますか。
ねむ:それは、ものすご〜く極端な傾向があります。では、ここで昨年実施したアンケート「ソーシャルVRライフスタイル調査2023 (Nem x Mila)」についてご紹介したいと思います。2000人くらいの世界中のVRユーザーが回答してくれたものです。まず、性別の傾向を見てみましょう。 ユーザー、いわゆる「中の人」の性別は男性が多いです(グラフ左)。そして、その男性ユーザーのうち8割近くが女性のアバターを使っていることがわかります(グラフ中)。逆に「中の人」が女性の場合は、男性アバターを選ぶことが多いかというと、そんなことはなく、やはり女性アバターが人気(グラフ右)なので、全体でみても圧倒的に女性アバターを使っている人が多いということになります。「中の人」の属性に合わせたアバターを使おうという感覚はないと思いますね。アバターが自分のなりたい姿かどうかは分からないのですが、必ずしも現実の性別、年齢、見た目、特性、肩書き、人種、そういったものにとらわれないアバターの使い方が広まっているということは確実に言えるのかなと思います。
会場質問:アバターになると「女性」が多いのは、どうしてなのでしょうか。
ねむ:アンケート調査でいろいろ聞いているので、公開している結果もぜひ見ていただきたいのですが、簡単にまとめると、コミュニケーションがしやすい、距離が縮まりやすい、ということです。日本だと男性が感情を表に出すことが良しとされない文化だったりするので、女性型のほうが自己表現がしやすい、というのもあります。もちろんトランスジェンダーの方もいらっしゃいますが、あまり割合としては多くはなくて、割とカジュアルな理由で、現実世界の性別とは違うアバターを使っている人が多いと思います。
塩瀬:シニア世代のコミュニティスペースで、女性の方は割とすぐその場に参加できるけれど、男性の方は名刺・肩書きをなくした瞬間に他の人と喋れなくなってしまい、うまくコミュニティに入れない人が多いという話を聞いたことがあります。やはり女性(女性の見た目)のほうがコミュニケーションも得意になるというか、うまくいきやすいのかもしれません。でも、サイバースペースでトレーニングを重ねると実際のコミュニケーショもうまくとれるようになるかもしれませんね。
どこの国の人かということも、アバターからはわからないですか?
ねむ:うーん、そもそもメタバースの世界では人間の姿にとらわれる必要はないので、国籍などもわからないですね。では、ここで質問です!昨年の調査で、「人間タイプ」「亜人間タイプ」「動物タイプ」の中で、どのアバターが一番人気だと思いますか?現実世界では人間タイプが100%シェアですけど(笑)。
塩瀬:僕は「亜人間(人間に近い姿形ながら、異なった要素を持つ人間とは異なる生物・種族)」かなと思いました。
ねむ:なるほど〜。その心は?
塩瀬:人間だと現実世界と一緒になるので、違う自分を探そうとすると、「亜人間」が一番選ばれるかな、と。動物の姿になったら、僕はどういうキャラで話したらいいか悩むと思います(笑)。佐藤さんはどれだと思いますか?
佐藤:そうですね。「人間」か、「亜人間」が人気だと思いますが、初心者は「動物」を使う人も多いのかなと思います。一気に見た目を変えるとか、個性を出すところまで行きつかない人だと、動物だけでなく、ゆるキャラ的なものから、スタートする人も多いなと思いますね。いろいろなアバターがあるので、僕は以前タイヤになったことがあります(笑)。
塩瀬:タイヤは面白いですね(笑)。ねむさん、実際の調査結果はどうだったのでしょうか?
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塩瀬:コミュニケーションのしやすさは、メタバース空間でも必要な条件ということですね。自由にひとりで走り回るだけだったら、どんな形やサイズでも良さそうな感じがします。
ねむ:そうですね。インターネットを通じて、相手の存在感を感じることができ、コミュニケーションができるのが、メタバースのいいところだと思うので、やっぱりコミュニケーションしやすい形に収束していくのかなというふうに考えています。
塩瀬:コミュニケーションという視点でみると、人数の多さはどうでしょうか。空間をどんどん大きくしていけば、メタバースならたくさん入れそうな気がしますが、存在感やコミュニケーションが大事ということは、あまりたくさんの人数が入り過ぎるのは困ってしまったりするでしょうか。ウェビナーだと500人規模の講演会とかもあると思いますが。
ねむ:それはケースバイケースかなという気がします。技術的な限界値もあると思いますが、設定の仕方によっては、大人数とコミュニケーションする空間も作れます。例えば日本でcluster(クラスター)さんなどで音楽ライブをすると、ステージに立っているVTuberはすごく綺麗なアバターで表示するけれど、お客さんは大ぶりなアバターにして500人ぐらい同じ世界に入れるようにしたりしています。現実では一対一のコミュニケーションになると、ディープなコミュニケーションになりますし、アイドルの握手会だったらSPがずらっといて、会場を借りるお金も大変ですよね。でも、私がメタバースでサイン会をやるときは、一人で対応したこともあるんです。なので、メタバースは少人数のコミュニケーションだけに向いている、ということではないと思います。
塩瀬:なるほど。佐藤さんにお聞きしますが、N高は在籍生徒数が2万人位というお話でしたが、メタバースの授業を大人数ですることはあるんでしょうか。
佐藤:僕らが生徒に提供しているVRゴーグルMeta Questは、スタンドアローンと呼ばれるもので、性能的にはスマホぐらいの計算の速さなので、何十人も同時に表示するというのは技術的に難しいです。また、多人数に対しての情報発信であれば映像を見せればいいので、そのスタイルの授業はメタバースでなくても良いと感じています。現在はコミュニケーションの場としては、マックス16人の部屋でやっています。
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