記事・レポート
メタバースは私たちの「学び」に何をもたらす?<イベントレポート>
更新日 : 2024年10月22日
(火)
【1章】メタバース最前線から「学び」を見つめる
いま注目されているメタバースでの学び。リアルの置き換えとしてではなく、メタバースだからこそ得られる創造的な学びとはどんなものでしょうか?
N高等学校・S高等学校を展開する角川ドワンゴ学園の佐藤将大さんと、『メタバース進化論』を出版されたバーチャル美少女ねむさんをお迎えし、メタバース最前線から「学び」を見つめたイベントのレポートをお届けします。モデレーターは、京都大学総合博物館 准教授の塩瀬隆之さんです。(全4章)
開催日:2024年5月28日 (火) 19:00~20:30 イベント詳細
スピーカー:佐藤将大 (学校法人角川ドワンゴ学園 普通科推進室 室長)
バーチャル美少女ねむ(VTuber / 作家 / メタバース文化エバンジェリスト)
モデレーター:塩瀬隆之 (京都大学総合博物館 准教授)
N高等学校・S高等学校を展開する角川ドワンゴ学園の佐藤将大さんと、『メタバース進化論』を出版されたバーチャル美少女ねむさんをお迎えし、メタバース最前線から「学び」を見つめたイベントのレポートをお届けします。モデレーターは、京都大学総合博物館 准教授の塩瀬隆之さんです。(全4章)
開催日:2024年5月28日 (火) 19:00~20:30 イベント詳細
スピーカー:佐藤将大 (学校法人角川ドワンゴ学園 普通科推進室 室長)
バーチャル美少女ねむ(VTuber / 作家 / メタバース文化エバンジェリスト)
モデレーター:塩瀬隆之 (京都大学総合博物館 准教授)
はじめに 〜メタバース最前線から「学び」を見つめる〜
塩瀬:今日の進行役を務めます、塩瀬隆之と申します。これまでに『問いのデザイン:創造的対話のファシリテーション』『インクルーシブデザイン』という本を書いてきたので(共著)、色々なところで「問いを作ってください」とよく言われます。今日も「メタバース」に関して、また、これからの「学び」がどうなるのかに関して、みなさんに代わってゲストのお二人に問いをぶつけていきます。参加者の皆さんの中に浮かんできた問いについては、後半の質疑応答で共有できたらと思っております。
まず、僕の関わっているプロジェクトの一部をご紹介します。日本科学未来館に昨年新しくオープンしたロボット常設展示の企画監修をさせていただき、「ロボットと私達の暮らしをシミュレーションする」というイメージで作らせていただきました。また、色々な理由で学校に行けないお子さんに向けて、バーチャル空間、メタバース空間に居場所を作ろうという動きが全国の自治体で動いておりますが、リアルな居場所づくりの一つとして岐阜市の不登校特例校「草潤中学校」のアドバイザーもしております。そのような「学び」の試みが何に気をつけていればうまくいくのか。その辺りも、教育とメタバース、ヴァーチャルリアリティ(VR)のスペシャリストのお二人にお話を伺えたらと思っております。
ちなみに、僕は大学の時(25〜30年ぐらい前)、下の写真のようなヘッドマウントディスプレイをかぶってVRの研究もしていました。まだ今のような綺麗なメタバースではなくて、線と丸しかないような空間でしたが、「これがVRだ!」と思って頑張ってVR空間を歩いていました(笑)。
(塩瀬さんスライドより)
その時に『フィクション論への誘い』という人文系のプロジェクトに参加し、僕は「VRがフィクションにどういう影響を与えるのか」という論考で手触りのある戯曲について書きました。このような観点からも、あとで皆さんとお話をしたいと思っています。そして、僕の研究していた時代から30年近く経った今、ものすごく高性能なメタバース、VR空間の最前線に立たれているお二人からお話を伺うことができることを嬉しく思います。まずは最近のメタバースやVR事情についてそれぞれからお話をいただき、その後クロストークをしたいと思います。では、佐藤さんから、よろしくお願いします。
まず、僕の関わっているプロジェクトの一部をご紹介します。日本科学未来館に昨年新しくオープンしたロボット常設展示の企画監修をさせていただき、「ロボットと私達の暮らしをシミュレーションする」というイメージで作らせていただきました。また、色々な理由で学校に行けないお子さんに向けて、バーチャル空間、メタバース空間に居場所を作ろうという動きが全国の自治体で動いておりますが、リアルな居場所づくりの一つとして岐阜市の不登校特例校「草潤中学校」のアドバイザーもしております。そのような「学び」の試みが何に気をつけていればうまくいくのか。その辺りも、教育とメタバース、ヴァーチャルリアリティ(VR)のスペシャリストのお二人にお話を伺えたらと思っております。
ちなみに、僕は大学の時(25〜30年ぐらい前)、下の写真のようなヘッドマウントディスプレイをかぶってVRの研究もしていました。まだ今のような綺麗なメタバースではなくて、線と丸しかないような空間でしたが、「これがVRだ!」と思って頑張ってVR空間を歩いていました(笑)。
(塩瀬さんスライドより)
自宅から学ぶことで「自由な時間が増える」
佐藤将大(学校法人KADOKAWA・ドワンゴ学園普通科推進室室長)
佐藤:佐藤将大と申します。まず、私達の学校のご紹介をします。N高等学校は2016年4月に開校した学校教育法第一条に定められた高等学校で、通信高校制度を活用した「ネットの高校」として始まっております。2021年4月に2万人の定員到達予測のため、S高等学校を開講し、N高グループとして運営を行っております。2024年3月現在、両校を合わせて生徒数は3万人を超えています。
最初に、ネットの高校、インターネットを使った通信教育をどのように行っているのか、その中でメタバースがどういった位置づけになっているのか、というお話からさせていただきます。 自宅から学ぶことで一番大きいことは「自由な時間が増える」ということです。コロナ禍でテレワークが普及した際に実感された方も多いと思いますが、通勤通学時間は1日のうち非常に大きい時間を占めております。ここがまず自由な時間になる。さらに高校卒業に必要な必修授業については効率的に学び、その上で課外授業を充実させることに注力をしているのがN高グループの特徴です。
大きく分けて、ネットコース、通学コース、オンライン通学コース、通学プログラミングコース、個別指導コースの5つあり、ネットコースがベーシックに自宅からのインターネットでの学びに特化したコースになっております。そして、キャンパスがあれば行きたいという生徒さんのスタイルに合わせて、提供しているのが通学コースです。通学コースではありますが、いわゆる英数国のような教科学習をやっているのではなく、メンターとともにプロジェクト学習や、課外授業を行っています。つまり、ネットコースでも、通学コースでも、先生と生徒が集まって英語や数学を学んでいるわけではないというところを最初にお伝えさせていただきます。そのため、高校卒業資格取得のための必修授業は、全生徒が動画授業を視聴して勉強し、課題に取り組んでいくというスタイルをとっています。そして、N高グループの特徴としてあげた「課外授業」は、大学受験対策はもちろん、プログラミングやウェブデザイン、動画制作、ファッション、料理、美容、全国各地で行う職業体験など様々なコンテンツを提供しており、映像授業やリアルでの体験等も含めてやっています。
佐藤さんの資料より
そして、2021年からメタバースを活用した普通科を開始し、2024年3月現在8,000名以上の生徒がMetaQuest2(2024年からMetaQuest3も選択可)を手に取り学んでおります。2022年9月からはメタ社とXR分野で提携を行っており、2022年10月イギリスの教育支援団体「T4Education」の「World’s Best School Prizes」(世界最高の学校賞)」イノベーション部門でトップ3に選出いただきました。いわゆるスマホメタバースやPCメタバースではなくて、VRゴーグルをかけた状態で体験するのが、N高のメタバース授業ということになっております。他にも「VR面接練習」や「VR×AI英会話」など実践的に身に付くようなアプリケーションや、VR受業+ガジェットという形で、様々なバリエーションの3D教材を提供しています。また、バーチャルツアーで実際に世界遺産を訪問したような体験ができたり、『学びの塔』というコミュニケーション用の空間は、実際に生徒が集まっておしゃべりしたり、友達の誕生日パーティーをしたりする交流空間になっています。
他にも、メタバース空間を利用した体育祭の「玉入れ」では、メタバース上で転がっている玉を取るには、現実世界でもVRゴーグルをかぶりながら実際に屈伸してちゃんと取る必要があるという、体を動かす仕組みを使って体育祭らしさを演出しています。VRの修学旅行では、やっぱり旅行といえば「まくら投げ」をしたいのではないかということで、メタバース空間で「まくら投げ」をするアクティビティを作ったりもしました。 また、広島の平和祈念館、原爆ドームの周辺で360度の映像を撮影し、現地のガイドの方のインタビュー動画を収録させていただいて現地学習にするという、実写ベースのコンテンツも提供しております。メタバースと現実の世界をセットにして、一つの体験として提供していくという形になっております。以上、我々が今、学校のメタバースでやっている学びのご紹介となります。
塩瀬:次にお話を進める前にひとつだけ気になったことを先に質問してもいいですか。メタバースの「まくら投げ」のときに、先生が急に入ってきて、一斉に寝る!といったアクティビティはやらなかったですか(笑)。
佐藤:それ入れたいですね!ただ、実際は先生たちも一緒に「まくら投げ」をやっちゃっているので、仲睦まじく(笑)。
塩瀬:なるほど、それもいいですね。ありがとうございました。では、次にバーチャル美少女ねむさんのお話をお伺いします。
最初に、ネットの高校、インターネットを使った通信教育をどのように行っているのか、その中でメタバースがどういった位置づけになっているのか、というお話からさせていただきます。 自宅から学ぶことで一番大きいことは「自由な時間が増える」ということです。コロナ禍でテレワークが普及した際に実感された方も多いと思いますが、通勤通学時間は1日のうち非常に大きい時間を占めております。ここがまず自由な時間になる。さらに高校卒業に必要な必修授業については効率的に学び、その上で課外授業を充実させることに注力をしているのがN高グループの特徴です。
大きく分けて、ネットコース、通学コース、オンライン通学コース、通学プログラミングコース、個別指導コースの5つあり、ネットコースがベーシックに自宅からのインターネットでの学びに特化したコースになっております。そして、キャンパスがあれば行きたいという生徒さんのスタイルに合わせて、提供しているのが通学コースです。通学コースではありますが、いわゆる英数国のような教科学習をやっているのではなく、メンターとともにプロジェクト学習や、課外授業を行っています。つまり、ネットコースでも、通学コースでも、先生と生徒が集まって英語や数学を学んでいるわけではないというところを最初にお伝えさせていただきます。そのため、高校卒業資格取得のための必修授業は、全生徒が動画授業を視聴して勉強し、課題に取り組んでいくというスタイルをとっています。そして、N高グループの特徴としてあげた「課外授業」は、大学受験対策はもちろん、プログラミングやウェブデザイン、動画制作、ファッション、料理、美容、全国各地で行う職業体験など様々なコンテンツを提供しており、映像授業やリアルでの体験等も含めてやっています。
佐藤さんの資料より
塩瀬:次にお話を進める前にひとつだけ気になったことを先に質問してもいいですか。メタバースの「まくら投げ」のときに、先生が急に入ってきて、一斉に寝る!といったアクティビティはやらなかったですか(笑)。
佐藤:それ入れたいですね!ただ、実際は先生たちも一緒に「まくら投げ」をやっちゃっているので、仲睦まじく(笑)。
塩瀬:なるほど、それもいいですね。ありがとうございました。では、次にバーチャル美少女ねむさんのお話をお伺いします。
アバターの身体が自分の肉体だと感じられるようになる
バーチャル美少女ねむ(VTuber / 作家 / メタバース文化エバンジェリスト)
ねむ:みなさん、こんにちは〜。バーチャル美少女ねむでーす。今日はよろしくお願いします。今私は、アバターのキャラクターの姿でお話させていただいてますけど、現実世界ではVRゴーグルをかぶって皆さんとお話しています。参加者のみなさんの中で、VRゴーグルをかぶったことがあるという方はどのくらいいらっしゃいますか?おお〜!半分以上、手があがっていますね。
塩瀬:結構いらっしゃいますね。このイベントに参加している時点でVRについても関心が高い方が多いですよね。
ねむ:では、ソーシャルVR、VRチャットなど、アバターでコミュニケーションができるようなことを実際にしている方は?これは、あまりいないですね。つまり、VRゴーグルを体験したことはあるけれど、自分で持っていて日常的には使ったりはしてないということですね。これは世間的にも同じような感じだと思います。実は、私も含めVR住人たちのほとんどは、日中は一般人として普通に仕事をして社会人として生活をしていて、お仕事が終わるとこのVRゴーグルをかぶって、別の姿になってVRの世界で生活をしています。VR自体は一般的になってきているものの、日常的にVRゴーグルをかぶって生活するとなると、やっぱり結構ハードルが高いですよね。
さて、私が今どんな空間にいるかというと、書斎があって、プレゼンの資料があって、説明資料とかも色々と置いてあります。テレビがあってみんなで見ることもできますし、私は自然が好きなので、大自然のなかでVR生活をしています。リアルの仕事が終わって寝るまでの間、毎日4-5時間はVRゴーグルをかぶって生活しているので、パラレルの世界で過ごした時間は、5000時間を軽く超えていると思います。このように、日常生活をメタバースで過ごすようになっている人たちは「メタバース原住民」と言われたりしています。メタバースの世界は発展途上の世界、現実では当たり前にできることができないことも多くあるのですが、逆に、発展途上のメタバースの世界でないと見られない景色もいっぱいあります。私は、メタバースは普段の世界が再現されていくのではなく、人間を超えた存在として暮らしていくようになっていくのではないかと思っています。そうしたメタバースのなかで新たに生まれていく文化や、メタバース住人の生態調査して発表したのが、2022年に出版した『メタバース進化論』です。
(メタバース上で、本を見せながら)余談ですが、こうやって、ちゃんとページをめくって読めるようになっています。実は、メタバースで本を読むのはスマホやタブレットで電子書籍を見るよりも、意外と目にいいんですよ。VRゴーグルでは目の前にディスプレイがあるので、遠くを見るような感じで読めますね。
ほかの機能もご紹介します。今、私の表情をリアルタイムでアバターに反映しています。
実際の私が顔を動かすと、リアルに反映されますし、手にもセンサーをつけているので指を一本一本自由に動かすことができます。さらに、お腹と左足と右足にセンサーをつけるフルトラッキングという技術を使っていて、現実の肉体の動きとまったく同じ動きでアバターを動かすことができるようになっています。今日だけ、この講演があるからつけているわけではなくて、普段からこのようにやっています。そして、私が特別ではなく、VRの世界では50%くらいの人がこのような全身センサーの技術をつけてやっていると言われています。なぜこういうことをやるかというと、よりアバターの身体が自分の肉体だと感じられるようになるからです。この世界の臨場感を感じ、現実と全く同じような体験がこの世界でできるということが大事なのかなと思っています。
塩瀬:うちの大学の学生でも、バイトでお金を貯めて、なんとかフルトラッキングを目指している子は結構いますよ。
ねむ:安くなってきてはいますけど、やっぱりフルで揃えるとそれなりにしますからね。部屋にも身体中にもセンサーがついていますし、だんだんステップアップして、私みたいになってしまう人が続出しているみたいですが、学生さんにもいるというのは、結構驚きです。
実は今、空を飛びたくなったのでこの空間の重力をオフ(ゼロ)にしてみました。このように自由に変えることができるのはやっぱり現実とは違うところですね。単に現実と同じ空間があって、そこに入るだけでは、ぶっちゃけて言えば、あまり面白くない。VRの世界では必要に応じて、物理法則を自由に書き換えることができるのも特徴です。さらに、この世界では、瞬間的にものづくりもできます。例えばここでパパッと物体をつくると、これがもう既に3Dモデルになっています。何が言いたいかというと、VR空間の中にいながらモデリングしたりプログラムをすることができるわけです。いちいちパソコンで作ってからこの空間に放り込むというのではなく、この空間に全身で入り込んで、その空間の中でものづくりもすべてできてしまう。今、みなさんが目にしているこの世界の背景、広がっていくこの空間も、クリエイターさんが絵を描いて作ってくれたものです。空間に絵を描いたり、無限の空間を使ってものづくりができるというのは、今日のテーマの「教育」においても、非常に重要だと思います。
あと、時間と場所を問わない、というのも大きなメリットかなと思います。冒頭に、お二人が「今日は雨がすごいですね」というお話をされていましたが、私は屋内にいてVRゴーグルをかぶってこの空間にパッっと移動してきているので、実は雨が降っていることに気づいていませんでした(笑)。この空間では、つながっている友達であればパッと呼ぶことができますし、移動という概念がもやは存在しません。会いたいと思ったら、次の瞬間に会うことができる。何か学びたい人で集まって、すぐに会話を楽しむことも当たり前のようにできます。そんな魔法のようなことができるようになった世界で、人はどういうふうに生活をしているのかというと、、、やたら飲み会をしたがる(笑)。現実世界だと飲んだあと家まで帰るのが大変だと思いますが、VR空間ではそれがないので、毎日のように飲み会が行われていたりしますね。そして、今日のテーマである「教育」「学び」に関係するイベントも、ものすごく多くなっています。魔法のようなことができるVR空間にいても、やっていることは現実世界の延長だったりしますが、そのなかでも、好きな姿になれたり、瞬間移動できたり、といった今まで人間ができなかったコミュニケーションが、メタバースの中で広がっているという切り口でお話をできたらと思います。よろしくお願いします!
塩瀬:結構いらっしゃいますね。このイベントに参加している時点でVRについても関心が高い方が多いですよね。
ねむ:では、ソーシャルVR、VRチャットなど、アバターでコミュニケーションができるようなことを実際にしている方は?これは、あまりいないですね。つまり、VRゴーグルを体験したことはあるけれど、自分で持っていて日常的には使ったりはしてないということですね。これは世間的にも同じような感じだと思います。実は、私も含めVR住人たちのほとんどは、日中は一般人として普通に仕事をして社会人として生活をしていて、お仕事が終わるとこのVRゴーグルをかぶって、別の姿になってVRの世界で生活をしています。VR自体は一般的になってきているものの、日常的にVRゴーグルをかぶって生活するとなると、やっぱり結構ハードルが高いですよね。
さて、私が今どんな空間にいるかというと、書斎があって、プレゼンの資料があって、説明資料とかも色々と置いてあります。テレビがあってみんなで見ることもできますし、私は自然が好きなので、大自然のなかでVR生活をしています。リアルの仕事が終わって寝るまでの間、毎日4-5時間はVRゴーグルをかぶって生活しているので、パラレルの世界で過ごした時間は、5000時間を軽く超えていると思います。このように、日常生活をメタバースで過ごすようになっている人たちは「メタバース原住民」と言われたりしています。メタバースの世界は発展途上の世界、現実では当たり前にできることができないことも多くあるのですが、逆に、発展途上のメタバースの世界でないと見られない景色もいっぱいあります。私は、メタバースは普段の世界が再現されていくのではなく、人間を超えた存在として暮らしていくようになっていくのではないかと思っています。そうしたメタバースのなかで新たに生まれていく文化や、メタバース住人の生態調査して発表したのが、2022年に出版した『メタバース進化論』です。
(メタバース上で、本を見せながら)余談ですが、こうやって、ちゃんとページをめくって読めるようになっています。実は、メタバースで本を読むのはスマホやタブレットで電子書籍を見るよりも、意外と目にいいんですよ。VRゴーグルでは目の前にディスプレイがあるので、遠くを見るような感じで読めますね。
ほかの機能もご紹介します。今、私の表情をリアルタイムでアバターに反映しています。
実際の私が顔を動かすと、リアルに反映されますし、手にもセンサーをつけているので指を一本一本自由に動かすことができます。さらに、お腹と左足と右足にセンサーをつけるフルトラッキングという技術を使っていて、現実の肉体の動きとまったく同じ動きでアバターを動かすことができるようになっています。今日だけ、この講演があるからつけているわけではなくて、普段からこのようにやっています。そして、私が特別ではなく、VRの世界では50%くらいの人がこのような全身センサーの技術をつけてやっていると言われています。なぜこういうことをやるかというと、よりアバターの身体が自分の肉体だと感じられるようになるからです。この世界の臨場感を感じ、現実と全く同じような体験がこの世界でできるということが大事なのかなと思っています。
塩瀬:うちの大学の学生でも、バイトでお金を貯めて、なんとかフルトラッキングを目指している子は結構いますよ。
ねむ:安くなってきてはいますけど、やっぱりフルで揃えるとそれなりにしますからね。部屋にも身体中にもセンサーがついていますし、だんだんステップアップして、私みたいになってしまう人が続出しているみたいですが、学生さんにもいるというのは、結構驚きです。
実は今、空を飛びたくなったのでこの空間の重力をオフ(ゼロ)にしてみました。このように自由に変えることができるのはやっぱり現実とは違うところですね。単に現実と同じ空間があって、そこに入るだけでは、ぶっちゃけて言えば、あまり面白くない。VRの世界では必要に応じて、物理法則を自由に書き換えることができるのも特徴です。さらに、この世界では、瞬間的にものづくりもできます。例えばここでパパッと物体をつくると、これがもう既に3Dモデルになっています。何が言いたいかというと、VR空間の中にいながらモデリングしたりプログラムをすることができるわけです。いちいちパソコンで作ってからこの空間に放り込むというのではなく、この空間に全身で入り込んで、その空間の中でものづくりもすべてできてしまう。今、みなさんが目にしているこの世界の背景、広がっていくこの空間も、クリエイターさんが絵を描いて作ってくれたものです。空間に絵を描いたり、無限の空間を使ってものづくりができるというのは、今日のテーマの「教育」においても、非常に重要だと思います。
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