記事・レポート

書物の‘エスプリ’

本とは何か?~その答えを求めて

更新日 : 2020年03月17日 (火)

第4章 図書館は不可思議の目録


書物‘エスプリ’の集積場

澁川雅俊『図書館巡礼~「限りなき知の館」への招待』〔S・ケルズ著/早川書房〕は標題のとおり、ヴァチカン図書館、ニューヨークのピアポント・モルガン図書館など現存する図書館とともに、現存しない古代のアレクサンドリア図書館や空想上の図書館にも光を当てつつ、それぞれの輝かしい存在を讃えています。しかし、この本の趣意は、原書名の‘THE LIBRARY, A CATALOGUE OF WONDERS’が最も的確に伝えています。直訳すれば「図書館、不可思議の目録」ですが、要点は不可思議(WONDER)にあり、著者はその理由を次のように敷衍(ふえん)しています。

「何にもまして痛感したことは、図書館は物語にあふれているという事実だ。生と死の、渇望と喪失の、信念を貫く、あるいは枉(ま/曲)げる物語。考えうるありとあらゆる人間ドラマの物語だ。そして複雑なフラクタル(自己相似的)な、世代を超えた道筋を介して、すべての物語は相互に繋がっているのだ。」

つまり、個々の本はそれが自然物であれ、人工物であれ、大きな眼で眺めれば、皆一つのまとまりの内にあり、そういう本が集積され、有機的に結ばれているのが図書館である、と主張しているのです。例えるなら、図書館は「人類知の集積を端的に書き並べているリスト」であり、書物‘エスプリ’の集積場です。


なお、同種の本として、建築写真家が空間や意匠の美に迫った『世界図書館遺産~壮麗なるクラシックライブラリー23選』〔ド・ロビエ写真、J・ボセ著/創元社〕もあります。


『夢見る帝国図書館』〔中島京子著/文藝春秋〕は、東京・上野の帝国図書館(現・国際こども図書館)を主人公にした小説で、昭和初期生まれの女性の眼から見たその歴史を、事実やエピソードに添って丁寧に描き出しています。帝国図書館は、福澤諭吉の『西洋事情 初編』(1866年)で紹介された‘ビブリオテーキ’をきっかけとして設置が決められました。諭吉は欧州諸国の視察中、大英博物館図書室、パリの国立図書館、帝政ロシアの帝国公共図書などに圧倒された経験から‘ビブリオテーキ’の必要性を痛感したようです。

帝国図書館は1872年、江戸幕府の学問所があった湯島聖堂に開設された「書籍(ショジャク)館」を前身とし、1885年に上野へ移転されたのち、1947年、新たに設置された国立国会図書館にその役割を引き継いでいます。物語は、戦前にかけての主たる利用者であった文学者(幸田露伴、夏目漱石、樋口一葉、徳富蘆花、島崎藤村、田山花袋、和辻哲郎、谷崎潤一郎、菊池寛、宮沢賢治、芥川龍之介、吉屋信子、宮本百合子、林芙美子、山本有三など)と、時代に翻弄されてきたこの図書館とのかかわりを中心に紡がれています。


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