記事・レポート

時の彼方の空遠く~縄文人、私たちの祖先

私たちのアイデンティティに迫る本

更新日 : 2019年05月14日 (火)

第3回 縄文時代はいつ始まり、どのように発展したのか?

縄文時代の全体像をつかむ
澁川雅俊:『縄文時代~その枠組・文化・社会をどう捉えるか?』〔山田康弘、国立歴史民俗博物館/吉川弘文館〕はいわゆる学術論文集で、考古学はもとより、動植物学や人類学といった多様な観点からこの時代について考察しています。本書を読むと、縄文時代は1万3,000年ほど続き、その文化は疎密ながらも列島の北から南西まで広がり、緩やかに変化しつつ発展していったことがわかります。

縄文文化~入門から展望へ』〔今村啓爾/ニューサイエンス社〕は、これから縄文文化を学ぼうとする人に向けた入門書として編集されています。縄文時代の特徴、年代差と地域差、物質文化、生活のかたち、社会のかたち、縄文人の知恵など、縄文時代に関する基礎知識を解説しています。

その時代に生きた人々とその文化を知るための最大の手がかりは、遺跡と遺物です。それらを視覚的に手早く理解できるのが、『別冊太陽 縄文の力』〔小林達雄/平凡社〕です。副題に「自然との共生を一万年続けた縄文コスモロジーの英知」とあるこのグラフ誌では、有名な三内丸山遺跡をはじめ、小牧野遺跡(青森)、大湯環状列石(秋田)、天神原遺跡(福島)、浅田遺跡(群馬)、寺野東遺跡(栃木)、真脇遺跡(石川)などを紹介しており、土器や土偶の美しい写真も多数掲載されています。

文化庁の資料によると、縄文時代の遺跡は全国に9万件あるそうです。『信州の縄文時代が実はすごかったという本』〔藤森英二/信濃毎日新聞社〕は、八ヶ岳山麓に広がる盆地に縄文時代の集落が無数に存在していたこと、とりわけ、中期の集落は他の地域のそれに比して大いに栄えていたことを、豊富な写真と図版で解説しています。

縄文人の社会
澁川雅俊:いわゆる「ゆとり教育」が行われていた時期、教科書では縄文時代に関する記述が大幅に減り、興味・関心のきっかけを得ることが難しくなっていました。「縄文」にふれる機会が減っていけば、やがてはその時代の暮らしをイメージすることもできなくなってしまうでしょう。そのことを憂いてか、大人や子どもの興味を喚起するべく、様々な工夫を凝らした「縄文本」が登場しています。

知られざる縄文ライフ』〔譽田亜紀子、武藤康弘、スソアキコ/誠文堂新光社〕は、最新の研究からわかった縄文時代の基礎知識を、親しみやすい文章とゆるいイラストで解説しています。「縄文人の姿と暮らし」「縄文人と食」「縄文の祈り」「縄文人の日々の暮らし」などの項目を取りあげており、初心者が抱くであろう素朴な疑問にQ&A形式で答えてくれています。

縄文の生活誌-改訂版』〔岡村道雄/講談社〕は十数年前に発刊された本ですが、発掘された出土品からわかったことを素材として、縄文人の生活を物語風に再現しています。「十三万年前のキャンプ生活」「氷河期、男三人の偵察行」は、縄文時代以前(旧石器時代)の日本列島原人の物語。さらに、縄文草創期の「定住生活」物語、最盛期であった中期の「ムラの祭り」物語、気候変動で寒冷期に停滞した「集落再興」物語などがあり、文面から縄文人の暮らしぶりが浮かび上がってきます。

縄文の人々』〔池田幸雄/講談社エディトリアル〕は、序文で「日本文化のルーツである縄文文化の基本はヒューマニズムであり、極めてシンプルであったために、法律がなかったにもかかわらず、平和で安全な社会が長続きした」と論評しています。本書は、岩石学(隕石学や地質学)の研究者が膨大な文献を読み込み、縄文時代の社会・文化について論じているもので、前半は縄文時代の社会の有り様を考察し、後半は自然とともに暮らした縄文人の生活を物語風に描いています。