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そうだ、どこか遠くに出かけよう!

書を片手に「本物」に出会う旅へ~ブックトークより

更新日 : 2018年03月13日 (火)

第5章 こだわりを起点に、過去・現在を旅する


建物・広場から見えるものとは?


澁川雅俊: 最近は、旅先で思いがけず出合う‘何か’にこだわり、まとめられた本も増えています。『見に行ける 西洋建築歴史さんぽ』〔玉手義朗・文、増田彰久・写真/世界文化社〕もその1つでしょう。官公庁、学校、オフィスビル、ホテル、邸宅など日本各地の45館を紹介しており、ページをめくるたびに「こんな所にこんな古い建物が!」と思わず漏れてしまいます。過ぎ去った時間、その建物とともに生きた人びとに思いを馳せるのも一興でしょう。

『下町の名建築さんぽ』〔大島建二文・絵/エクスナレッジ〕は、和風建築の古い商家や住宅をスケッチし、それぞれに随想を寄せた1冊です。木造建造物は寿命が短く、見つけ出すのも困難であり、それだけに愛おしさを感じさせてくれます。

『郷愁 日本の民家~向井潤吉小画集』〔講談社〕は、かつて「民家の向井」と呼ばれた洋画家の作品集です。画家は戦後40年以上にわたり、北海道から鹿児島までを旅しながら、経済成長の陰で失われていく茅葺きの古民家、日本の‘ふるさと’の姿を描き続けました。


洋式建造物でも、時代とともに姿を消すもの、往時の様相をとどめないほど形を変えてしまうものがあります。フランス文学者であり、西欧の銅版画・挿絵・地図のコレクターでもある鹿島茂は、所有する図像をもとに『失われたパリの復元:バルザックの時代の街を歩く』〔新潮社〕を編んでいます。本書では、19世紀半ばの「パリ大改造」前後に描かれた作品を通して、入りくんだ街路、市場、劇場街、カフェや高級レストランなどを紙上で再現し、往時の‘花の都’を浮かび上がらせています。

街があれば、人びとの集まる場所が生まれます。『世界の広場への旅』〔芦川智ほか著/彰国社〕は、生活環境デザインの研究者たちが、世界中の広場を徹底調査し、その概念と様式を明らかにしようとした1冊です。ミラノやフィレンツェのドゥオーモ、ヴェネツィアのサン・マルコ広場ほか、世界の70余の広場が、歴史背景とスケッチ風の鳥瞰図などで紹介されており、広場論の研究書としてだけでなく、旅の本として楽しむこともできます。

なお、本書では門前広場として金比羅宮参道や浅草寺境内(仲見世を含む)を、階段街広場として尾道の階段街と伊香保の石段街を、商店街広場として谷中ぎんざ、お祭り広場として山あげ祭りの那須烏山、三社祭の浅草などを取り上げ、日本的広場の典型と指摘しています。

人が集う場所は、文化や歴史、感情、過去、現在など、さまざまなものが交錯する場所と言えるでしょう。「どこか遠くへ行きたい」と思ったとき、そうした場所を訪れてみると、新たな出会いや発見があるかもしれません。(了)


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アペリティフ・ブックトーク 第43回 そうだ、どこか遠くに出かけよう!
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ライブラリーフェロー・澁川雅俊が、さまざまな本を取り上げ、世界を読み解く「アペリティフ・ブックトーク」。
今回は、さまざまな“旅”にまつわる本をテーマに、いまだ訪れたことのない遠い場所へとご案内。厳選した「旅本」を語り尽くします。


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