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そうだ、どこか遠くに出かけよう!

書を片手に「本物」に出会う旅へ~ブックトークより

更新日 : 2018年03月13日 (火)

第3章 トラヴェルライティングあれこれ


未知なるものを探す旅



澁川雅俊: 未知になるものを探求し、人類の知の領域を広げようとした旅の記録「トラヴェルライティング」も世界中で楽しまれてきました。

『旅にとり憑かれたイギリス人~トラヴェルライティングを読む』〔窪田憲子ほか編著/ミネルヴァ書房〕は、生命の危険も顧みず、それまで誰も成し得なかった旅をした十数名の英国人の探検、冒険について論評しています。世界周航の記録をまとめたジェイムズ・クックの『航海誌』、リヴィングストンの『ナイル探険記』など、未知探求の衝動と行動の足跡から、英国の気位の高さを浮かび上がらせようとしています。

ダーウィンをはじめ18世紀の自然科学の先達も、未知を求めてしばしば旅に出ました。例えば、ペンギンの名前で有名なフンボルトもその一人。伝記『フンボルトの冒険』〔A・ウルフ/NHK出版〕は、副題に「自然という〈生命の網〉の発明」とあります。その足跡は、生命の秘密を解くカギを求めて世界中を旅した冒険譚であり、森羅万象への鋭い洞察に満ちた科学書であり、まさにトラヴェルライティングです。

現代のトラヴェルライティングでは、こんな所の真実を明かしています。『世界の果てのありえない場所』〔T・エルボラフ&A・ホースフィールド/日経ナショナルジオグラフィック社〕は、雑草に覆われた廃工場、朽ちかけた由緒ある邸宅、使われなくなった都市の地下道など、現代文明の成れの果てに焦点を当て、そうなってしまった背景を解説しています。「打ち捨てられ、長い間気付かれることもなく朽ち果ててしまったもの」の中に、現代の‘リアル’を探し求めた旅の記録です。

他方で、未知なるものを求めて旅をした結果、結局は何も見つけることができず、旅に対してニヒルな想いを抱いた作家もいます。

「旅への誘いが、次第に私の空想〔ロマン〕から消えて行った。昔はただそれへの表象、汽車や、汽船や、見知らぬ他国の町々やを、イメージするだけでも心が躍った。しかるに過去の経験は、旅が単なる『同一空間における同一事物の移動』にすぎないことを教えてくれた」

これは、日本近代詩の創始者と称される詩人の短編小説『猫町』〔萩原朔太郎著、しきみ絵/リットーミュージック〕の冒頭の一文です。‘ふつう’の旅に失望した彼は、幻想と現実の狭間にトリップしたような、瞬間的異次元移動による旅を綴っています。荘子の「胡蝶の夢」にも通じるこの物語に、『刀剣乱舞』などのキャラクターデザインで人気のイラストレーターが挿絵を付けています。


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アペリティフ・ブックトーク 第43回 そうだ、どこか遠くに出かけよう!
アペリティフ・ブックトーク 第43回 そうだ、どこか遠くに出かけよう!

ライブラリーフェロー・澁川雅俊が、さまざまな本を取り上げ、世界を読み解く「アペリティフ・ブックトーク」。
今回は、さまざまな“旅”にまつわる本をテーマに、いまだ訪れたことのない遠い場所へとご案内。厳選した「旅本」を語り尽くします。


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