記事・レポート
そうだ、どこか遠くに出かけよう!
書を片手に「本物」に出会う旅へ~ブックトークより
更新日 : 2018年03月13日
(火)
第4章 心を浄める旅、または巡礼
聖地を巡る人びとの心情
澁川雅俊: 巡礼とは、積み重ねられた人生の垢を取り除くべく、日常から一時的に離れ、宗教上の聖地・聖域に参詣し、聖なるものにより接近しようとする行動です。日本では「お伊勢参り」「富士講」「お遍路」などがそれにあたり、それぞれに巡礼の作法があります。
『お遍路は心の歩禅』〔坂上忠雄/梓書院〕は、一般的なガイドブックとは異なり、実践に役立つ四国巡礼のしきたりを詳細に記しています。とりわけ、全長1,400km、53日間にわたる「歩行」に関する解説は緻密で、徹底しています。それもそのはず、著者はノルディック・ウォークのインストラクターなのです。
西欧では、今も昔も巡礼が日常的に行われています。『免罪符の旅』〔加園旅人/幻冬舎〕は、ある日本人男性が20年かけて英・独・伊・西の聖地を巡る中で、西欧人が巡礼で得た免罪符とは何か、それによって本当に罪が許されるのかを考えています。ただし、この旅には10歳年下の女性が同行しており、巡礼とは言いながらもいささか艶やかです。そのせいか、「西洋衒学紀行」との副題が付けられています。
12世紀英国の聖職者トマス・ベケットがまつられたカンタベリー大聖堂は、中世半ばから英国庶民の巡礼の聖地となってきた場所です。そこから生まれた物語が、14世紀の詩人、ジェフリー・チョーサーの『完訳 カンタベリー物語〈上・中・下〉』〔岩波文庫〕です。大聖堂への巡礼のさなか、偶然に同宿した身分・職業の異なる巡礼者たちが、旅の一興として自分の知っている噺を語っていくというものです。騎士道物語、叙情詩、説教、寓話、笑話とさまざまですが、中には艶めいた話も。心を浄め、免罪を乞う旅の途上でも、人びとの想いは生身のままだったようです。
人生を振り返る、徒歩の旅
澁川雅俊: 『ハロルド・フライを待ちながら~クウィーニー・ヘネシーの愛の歌』〔R・ジョイス/講談社〕は、さながら「心の巡礼」とも言えるような物語です。本書は、世界的な名声を得た『ハロルド・フライの思いもよらない巡礼の旅』の完結編で、物語をより楽しむには前編を読んでおくことをおすすめします。そのあらすじを少しだけ紹介しましょう。
ハロルド・フライ、65歳。定年退職後半年。内向的で人づきあいが苦手。家庭でも良妻賢母と秀才の息子にはさまれ、身を縮めるように生きてきた。ある日のこと、20年前に突然、彼の前から姿を消した元同僚、クウィーニー・ヘネシーから手紙が届く。がんで余命いくばくもないという。彼女は職場のパートナーであり、彼が唯一心を開くことのできた女性だった。
大急ぎで見舞いの手紙をしたため、近くのポストに向かうが、どうしても投函できず、そのまま次のポスト、また次のポストへと歩き出す。そして、ある言葉をきっかけに「このまま歩いてクウィーニーのもとに行けば、彼女の命を救えるかもしれない」と……。かくして、イングランドの南端から最北端の町に向け、87日間、1,000キロに余る旅が始まる。
途中、彼の旅はメディアの知るところとなり、行く先々で出会う人びととの交流、美しい田園風景の描写を織り交ぜながら、物語は一歩ずつ進んでいく。そのうちに、彼が長い間直視できなかった自分と家族の過去が想起され、過酷で無謀な旅を続ける理由や、物語の核心が浮かび上がってくる。そして完結編では、ホスピスの病室でハロルドを待つクウィーニーの視点から、知られざる秘密が語られていく。さて、その秘密とは?
ハロルド・フライ、65歳。定年退職後半年。内向的で人づきあいが苦手。家庭でも良妻賢母と秀才の息子にはさまれ、身を縮めるように生きてきた。ある日のこと、20年前に突然、彼の前から姿を消した元同僚、クウィーニー・ヘネシーから手紙が届く。がんで余命いくばくもないという。彼女は職場のパートナーであり、彼が唯一心を開くことのできた女性だった。
大急ぎで見舞いの手紙をしたため、近くのポストに向かうが、どうしても投函できず、そのまま次のポスト、また次のポストへと歩き出す。そして、ある言葉をきっかけに「このまま歩いてクウィーニーのもとに行けば、彼女の命を救えるかもしれない」と……。かくして、イングランドの南端から最北端の町に向け、87日間、1,000キロに余る旅が始まる。
途中、彼の旅はメディアの知るところとなり、行く先々で出会う人びととの交流、美しい田園風景の描写を織り交ぜながら、物語は一歩ずつ進んでいく。そのうちに、彼が長い間直視できなかった自分と家族の過去が想起され、過酷で無謀な旅を続ける理由や、物語の核心が浮かび上がってくる。そして完結編では、ホスピスの病室でハロルドを待つクウィーニーの視点から、知られざる秘密が語られていく。さて、その秘密とは?
大いなる旅路
澁川雅俊: かつて、鉄道をテーマとした「大いなる旅路」という映画・ドラマが作られましたが、鉄道の旅といえば、『関口知宏の ヨーロッパ鉄道大紀行』〔徳間書店〕シリーズがあります。
俳優でもある著者は、2004年にNHKで放映された『列島縦断 鉄道12000キロの旅~最長片道切符でゆく42日』で鉄道旅人となり、その続編ではJR20,000km全線走破を達成。次いでドイツ鉄道旅行、イギリス鉄道旅行、中国の鉄道網の一筆書き旅行、さらに欧州の東西南北を鉄道で巡っています。著者はそれぞれの旅で出会った人びと、各地の歴史や交錯する情景を、ほのぼのとした絵日記にまとめています。
一方、船の旅では『ゆらりゆられて船の旅〈Ⅱ〉』〔水野博之/あけび書房〕があります。ピースボートで北半球の各国を巡り、そこで見聞きし、感じたことを軽妙な筆致でまとめた旅行記です。ちなみに、本書は『ゆらりゆられて船の旅~ピースボートであんちょこ南半球一周』の続編で、2冊合わせて読み進めれば、北半球・南半球を‘ゆるやか’に一周した気分になれるかもしれません。
俳優でもある著者は、2004年にNHKで放映された『列島縦断 鉄道12000キロの旅~最長片道切符でゆく42日』で鉄道旅人となり、その続編ではJR20,000km全線走破を達成。次いでドイツ鉄道旅行、イギリス鉄道旅行、中国の鉄道網の一筆書き旅行、さらに欧州の東西南北を鉄道で巡っています。著者はそれぞれの旅で出会った人びと、各地の歴史や交錯する情景を、ほのぼのとした絵日記にまとめています。
一方、船の旅では『ゆらりゆられて船の旅〈Ⅱ〉』〔水野博之/あけび書房〕があります。ピースボートで北半球の各国を巡り、そこで見聞きし、感じたことを軽妙な筆致でまとめた旅行記です。ちなみに、本書は『ゆらりゆられて船の旅~ピースボートであんちょこ南半球一周』の続編で、2冊合わせて読み進めれば、北半球・南半球を‘ゆるやか’に一周した気分になれるかもしれません。
該当講座
アペリティフ・ブックトーク 第43回 そうだ、どこか遠くに出かけよう!
ライブラリーフェロー・澁川雅俊が、さまざまな本を取り上げ、世界を読み解く「アペリティフ・ブックトーク」。
今回は、さまざまな“旅”にまつわる本をテーマに、いまだ訪れたことのない遠い場所へとご案内。厳選した「旅本」を語り尽くします。
そうだ、どこか遠くに出かけよう! インデックス
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第1章 旅心をくすぐる本
2018年03月13日 (火)
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第2章 世界のリアル、ユートピアを求める旅
2018年03月13日 (火)
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第3章 トラヴェルライティングあれこれ
2018年03月13日 (火)
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第4章 心を浄める旅、または巡礼
2018年03月13日 (火)
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第5章 こだわりを起点に、過去・現在を旅する
2018年03月13日 (火)
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