記事・レポート

グローバル・アジェンダ・シリーズ2017
第2のシリコンバレー:イスラエル流・起業家マインドの鍛え方

日本を飛び出したサムライが見たものとは?

更新日 : 2017年08月08日 (火)

第3章 イスラエルと日本のスタートアップの違い

イスラエルの文化の特徴


榊原健太郎: イスラエルのブランチにやってくる投資希望者の9割は、複数回の起業経験者、シリアルアントレプレナーです。また、日本で行われるスタートアップのピッチコンテストでは、特許に関する資料が出てくることはまれですが、イスラエルでは必ずプレゼン資料に付いてきます。

元々、義務教育段階からプログラミングを学び始め、誰もがテクノロジーに明るく、理系と文系の境界も薄いことが影響しています。国としてもサイバーセキュリティの分野が非常に強いため、人や物の動きを検知・分析し、AIなどを使ってアウトプットを出すようなシステムが得意です。なお、高校までに第3外国語まで習うため、語学堪能な人も非常に多いです。

環境という点では、周辺国と緊張関係にあるため、日常はプロブレムにあふれています。そのため、イスラエルの方々は一日を一生として捉えています。日本人の場合、家族サービスは土日にと考えがちですが、彼らは仕事もプライベートも常に一所懸命。起業家でも夕方には帰宅し、家族との時間を大切に過ごします。女性と男性も平等で、むしろ男性のほうが育児と家事をしているぐらい。

また、道端の壁にはよく“Enjoy your problems, It’s life.”などと書かれており、問題がある状況を楽しむ、それを解決するアイデアを発見するのが大好き、という感覚があります。さらに、一日は一生なので、何事も「いま、すぐ」が基本。課題や問題もその日のうちに解決したいため、常に本音全開で議論します。日本人の場合、会議で議論した相手が嫌いになるなど、仕事と個人を混同しがちですが、イスラエルの方はドライに線引きして徹底的に議論し、あとくされもありません。

面白いのは、失敗に対する感覚です。日本では失敗が許されない空気がありますが、現地のエンジェル投資家にたずねたところ、「12回目までは許す。13回目は本当の失敗」ということでした(笑)。僕もそう思うようにしていますし、日本もそのぐらいになればいいなと思っています。

「ありがとう」の意味



榊原健太郎: 日本で起業し、その次にイスラエルに行き、その次は……検討中です。面白そうなのは、ボストンです。ここにもユダヤ人コミュニティがあり、amazonの物流システムを加速させた企業、ソフトバンクの孫正義さんが買収した企業もあります。ボストンのスタートアップと接点を持つ日本企業は少ないため、そこで何か貢献できると考えています。もう1つは、ロシアのスコルコボ。モスクワ郊外にある国家主導でつくられた「ロシア版シリコンバレー」で、100社以上のR&Dセンターがあり、いま非常に伸びている地域です。

「ビジネスを通じて、全ての人が平和に、穏やかに暮らせる世界をつくる」ということでは、パレスチナも視野に入れています。パレスチナにも非常に優秀な方が多く、僕らが投資したユダヤ人の企業でも、パレスチナ出身の方がCTOを務めています。ユダヤ、パレスチナの方々が一緒に働き、うまくいっているケースもあるため、僕たちはビジネスを通じて様々な支援を行っています。

さらに、先日訪れたアフリカのルワンダも注目しています。長きにわたる民族紛争があり、1994年には大虐殺も起こりましたが、新大統領が就任した2000年以降は大改革に取り組んでいます。その一環としてIT立国を目指しており、イスラエルが支援しています。今後は欧州も含め、世界の様々な場所に行きながら、日本企業に「リアルなオープンイノベーション」を提供したいと考えています。

今回、イスラエルに渡り、僕は色々と考えました。1つ思ったのは、日本人として最も嬉しい言葉は「ありがとう」だということ。漢字で書けば、有り難う。「難」を解決し、有り難い状況をつくり出してくれた人に対して、感謝の気持ちを伝えるわけです。そもそも、僕たちは数多くの「難」の上で生きています。それを解決するのが、起業家や新たな事業をつくる人の役割だと思います。

僕がよく起業家に質問するのは、「難がある人生と、難がない人生、どちらを選びますか?」。言い方を変えれば、「有り難い人生」と「無難な人生」。どちらを選ぶかといえば、有り難い人生のほうが良いですよね。それは「難」、リスクを受け入れること。皆さんもぜひ、難がある時こそ、生きていることを実感してください。そして、リスクをどんどん受け入れ、全力で人生を楽しみましょう。

最後に、現在の日本において、どうすれば起業マインドを醸成できるのか? 僕が常に考えているのは70年前のこと。後に日本を牽引するような企業を生み出した方々は何を考え、どう動いたのか? 彼らと比べ、僕たちはどれほど「事を興すのが容易な環境」にいるのか? ここにモチベーションの起点を置いています。

僕の祖父は戦時中、インパールの戦いで戦死しました。当時、祖母のお腹には僕の父親がいて、祖母は戦後、ひとりで育てたそうです。そうしたことを考えると、僕が感じている苦しさなど余裕だなと思い、「もっと多くの『ありがとう』がもらえるように、ちゃんと生きよう」と思います。

もう1つ、僕たちが投資した起業家で成功しているのは、親御さんが企業の新規事業担当だったり、自営業や起業家だったりと、ストレスフルな仕事をされている方のお子さんが多いと感じます。そうした環境が身近にあるため、ハートが強くなるのだと思います。例えば、皆さんが何かに挑戦することで、将来、自分の子どもが強く育つと思えば、頑張れますよね。子どもに見せたいのは、挑戦せずに後悔し言い訳をする親の姿か、挑戦して失敗しても笑いながら前に進む親の姿なのか。

僕は世界を飛び回っていますが、日本にいる奥さんとはいつでもSkypeやLINEで会話できます。海外で英語が通じなくても、Googleのアプリが代わりに話してくれます。現在は本当に海外展開が容易にできる時代です。だからこそ、後悔せず、言い訳をしないために、皆さんもチャレンジする気持ちを忘れないでほしいと思います。


該当講座


第2のシリコンバレー:イスラエル流・起業家マインドの鍛え方
第2のシリコンバレー:イスラエル流・起業家マインドの鍛え方

2008年にサムライインキュベートを設立し、ベンチャー支援を行う榊原健太郎氏。2014年には日本初のインキュベーターとしてイスラエルに支社を開設し、現地のスタートアップ約30社に出資するまでにビジネスを拡大しています。本セミナーでは、榊原氏に日本とイスラエルでの経験をもとに「起業家に必要なこと」や「組織にいながら起業家マインドを鍛える方法」など、石倉洋子氏のモデレートのもとお話いただきます。


グローバル・アジェンダ・シリーズ2017
第2のシリコンバレー:イスラエル流・起業家マインドの鍛え方 インデックス