記事・レポート

流行作家・楡周平のまなざし

小説家は「日常」を明視する~ブックトークより

更新日 : 2017年02月13日 (月)

第4章 「地方創生」から次代の日本を考える


社会的課題への一提言

澁川雅俊: 一極集中、過疎、地方消滅。これらの解決策として盛んに行われた「企業(工場)誘致」は、いまや古典的政策となっています。『プラチナタウン』(2008年)は、前述の社会的課題に対し、高齢化の要素も絡めつつ、新たなモデルを提言しています。

物語の舞台は、財政再建団体に陥ろうとしている東北のある田舎町。新たに町長に選出された元商社マンは、故郷でもあるこの町に、工場ではなく、高齢者が余生を愉しむ巨大な「プラチナタウン」を創出し、多くの居住者によって再び活性化させ、財政破綻を回避します。

とはいえ、田舎町も、プロジェクトに参画した商社も、移住する高齢者も、すんなりとwin-winの関係になったわけではありません。当然、さまざまな問題が起こりますが、商社マンとしての経験と、その間に培った人間関係によって、主人公はそれらを軽快に解決していきます。標題もまた、実に巧妙です。プラチナは金より高価ですが、ダイヤモンドの輝きはありません。しかし、そのいぶし銀のような色合いが真骨頂です。

その続編となる『和僑』(2015年)では、元商社マン町長が「疲弊する地域経済」という新たな課題を背負うことになります。財政破綻はまぬがれたものの、人口減少の解決はその端緒にも至らない。加えて、TPP問題が不透明感を増す中、周辺の地場産業といえば、後継者不足などの問題を抱える農業と畜産が中心。何かを変えなければ、この町に未来はない……。

そこにやって来たのが、かつてこの町に生まれ、55年前にひと稼ぎしようと米国に渡った男。彼はニューヨークを中心に、20店舗超の和食レストランを展開するまでに成功。そして、新店舗の開店に当たり、日本の‘ソウルフード’を通じて他の日本料理店との差別化を図らんとします。

その男とともに、和食レストラン経営に熱意を燃やす彼の娘、元商社マン町長、肉加工食品会社の経営者や畜産従事者が混ざり合い、‘化学反応’が起こります。触媒となったのは、私たちになじみ深いコロッケやメンチカツ。はたして、田舎町から「世界」を目指す彼らの目論みは成功するのか?

一方、『ミッション建国』(2014年)では、日本国再建に向けた政策提言を進めています。同書の帯には、「日本を滅ぼすのは、外圧でも、戦争でもない。人口減少こそ最大の国難だ! 移民受け入れでは問題は解決しない。若き青年局長が少子化対策に挑む異色の政策提言小説」とあります。

2016年7月、参議院選挙、東京都知事選挙が行われましたが、どの政党、どの候補者からも、近未来に対する具体的かつ明確な政策提言はありませんでした。翻って、この作品では、政権与党の若き青年局長が、政治家や官僚、東京都知事まで巻き込みつつ、次代に向けた政策を形にしていきます。政官の政策推進過程や、新機軸政策に対する圧力などの挿話がふんだんに盛り込まれており、登場人物のモデルや日本を取り巻く課題を絡めつつ読めば、頁を捲る速度も早まるような作品です。


該当講座


アペリティフ・ブックトーク 第40回 ある流行作家のまなざし~小説家は日常を明視する
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今回は『Cの福音』から『ドッグファイト』まで、三十点以上の作品で小説読者を魅了し続けている、ある流行作家の全作品を取り上げます。