記事・レポート
流行作家・楡周平のまなざし
小説家は「日常」を明視する~ブックトークより
更新日 : 2017年02月10日
(金)
第2章 企業人を鼓舞する経済小説~その1
夢なきところにイノベーションは起らない
澁川雅俊: 楡周平は、経済小説家の顔をもっています。経済小説とは、企業、業界、経済現象、経済事件、それらに関わる人物を扱った小説の総称ですが、彼は現在、このジャンルを開拓した城山三郎を筆頭とする10余名の作家に数えられています。
『再生巨流』(2005年)、『ラストワンマイル』(2006年)は、いずれも出版後、多くのビジネスパーソンに示唆を与えた作品です。どのような商品であれ、ビジネスの表舞台は企画・開発・生産・販売でしょう。一方で「ものを運ぶ」業務は、不可欠であるにもかかわらず、常に影の存在。『再生巨流』はこうした縁の下の力持ち、「物流」に光を当てています。
ある大手物流会社の営業マンが新規事業開発部長に就任するも、部下はわずか3人。明らかな左遷人事に奮起した彼は、極小チームで新規事業を立ち上げる。それは、事務用品を核とした新たなタイプの通信販売事業で、最大の売りは「今日注文すれば、明日には納品」。モデルは、一介の事務用品製造・販売会社から大手通販に成長した実在の企業ですが、このサクセス・ストーリーが2011年にドラマ化され、「物流」は一躍、日の目を見ることになったのです。
『再生巨流』(2005年)、『ラストワンマイル』(2006年)は、いずれも出版後、多くのビジネスパーソンに示唆を与えた作品です。どのような商品であれ、ビジネスの表舞台は企画・開発・生産・販売でしょう。一方で「ものを運ぶ」業務は、不可欠であるにもかかわらず、常に影の存在。『再生巨流』はこうした縁の下の力持ち、「物流」に光を当てています。
ある大手物流会社の営業マンが新規事業開発部長に就任するも、部下はわずか3人。明らかな左遷人事に奮起した彼は、極小チームで新規事業を立ち上げる。それは、事務用品を核とした新たなタイプの通信販売事業で、最大の売りは「今日注文すれば、明日には納品」。モデルは、一介の事務用品製造・販売会社から大手通販に成長した実在の企業ですが、このサクセス・ストーリーが2011年にドラマ化され、「物流」は一躍、日の目を見ることになったのです。
‘last one mile’とは、電気通信分野において「最寄りの基地局からユーザーの建物までを結ぶ通信回線の最後の部分」を意味します。ただし、『ラストワンマイル』が意味するのは、ものの送り手から受け手に至る最後のプロセス、すなわち、宅急便の配達路のこと。
民営化された郵便局に、コンビニ宅配事業を奪われようとしている運輸会社の営業課長。新規契約獲得に奔走する最中、彼は市場を席巻するネット通販企業から法外な値引きを要求されてしまいます。はたして、彼はどのような決断を下すのか? まさに「艱難辛苦、汝を玉にす」物語ですが、こちらは私たちが普段よく目にするネコの会社がモデルとなっています。
また、作家の最新作『ドッグファイト』(2016年)は、世界的ネットスーパーを目指す大手外資系通販会社と、国内第1位の物流会社が、食うか食われるかの熾烈な戦いを繰り広げる物語です。いずれの作品でも、作家独特の視点から生まれたイノベーティブなビジネスモデルが披露されています。
民営化された郵便局に、コンビニ宅配事業を奪われようとしている運輸会社の営業課長。新規契約獲得に奔走する最中、彼は市場を席巻するネット通販企業から法外な値引きを要求されてしまいます。はたして、彼はどのような決断を下すのか? まさに「艱難辛苦、汝を玉にす」物語ですが、こちらは私たちが普段よく目にするネコの会社がモデルとなっています。
また、作家の最新作『ドッグファイト』(2016年)は、世界的ネットスーパーを目指す大手外資系通販会社と、国内第1位の物流会社が、食うか食われるかの熾烈な戦いを繰り広げる物語です。いずれの作品でも、作家独特の視点から生まれたイノベーティブなビジネスモデルが披露されています。
人類の未来にかかわる技術開発
澁川雅俊: 作家は、人類の未来にかかわる技術革新と産業界の役割にも眼を向けます。
たとえば、地球温暖化は自然環境のみならず、いまや社会状勢にも悪影響を及ぼしつつあります。それは1990年代から未来地球の戦略的課題となり、2006年の米国映画『不都合な真実』によって世界的に認知されるようになりました。
『ゼフィラム』(2009年)は、CO2排出ゼロの新型車開発をめぐる苦悩の物語です。zephirumは、アラビア数字の「0」のこと。転じて「基点」「起点」を意味します。ある日系自動車メーカーの社長が、アマゾン産サトウキビのバイオエタノールを動力源とする、革新的なハイブリッド車を着想し、その開発プロジェクトを立ち上げます。しかし、技術的な課題はもちろん、各国のエネルギー政策など国際政治上の問題まで複雑に絡み合い、ことは容易に運びません。さて、その結末はいかに?
『クレージー・ボーイズ』(2007年)も、エコカーの技術革新にかかわる作品ですが、こちらは水素自動車の燃料タンクの発明と、その特許の帰属をめぐる物語が軸となります。ある自動車メーカーの技術者が、画期的な水素燃料タンクを開発したものの、会社との間で特許の帰属を争うことになる。裁判が進む中で技術者は退社し、米国で大学教授のポストを得たものの、突如、その命を奪われてしまう。やがて、残された技術者の息子が真相を突き止め、復讐に……。何やら、青色発光ダイオードのエピソードを彷彿とさせる物語となっています。
ビジネスは、まさに‘盛者必衰’の世界です。たとえば2016年5月、日本を代表する電機メーカーが台湾企業に買収され、多くの人が自国産業の不振を痛感しましたが、作家は早くも10年前にそれを予見していたようです。
『異端の大義〈上・下〉』(2006年)では、業績不振によるリストラ策として、岩手の工場閉鎖の命を受けた有能な社員が、創立100年超の歴史に安穏とする同族経営社長とその取り巻きに潰され、外資系電機メーカーへの転職を余儀なくされます。しかし、その外資系会社が前職の企業を買収し、彼は一転、その人事担当役員として返り咲きます。一種の企業内リベンジが主筋ですが、外輪で地方における工場誘致の危うさ、地方住民の貧困化の背景を暴く作品として読むこともできます。
該当講座
アペリティフ・ブックトーク 第40回 ある流行作家のまなざし~小説家は日常を明視する
今回は『Cの福音』から『ドッグファイト』まで、三十点以上の作品で小説読者を魅了し続けている、ある流行作家の全作品を取り上げます。
流行作家・楡周平のまなざし インデックス
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第1章 激動の世界、その表裏を疾走する物語
2017年02月10日 (金)
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第2章 企業人を鼓舞する経済小説~その1
2017年02月10日 (金)
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第3章 企業人を鼓舞する経済小説~その2
2017年02月10日 (金)
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第4章 「地方創生」から次代の日本を考える
2017年02月13日 (月)
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第5章 社会の「深層」に眼を向ける
2017年02月13日 (月)
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第6章 煩悩、その深きに嵌まる所業
2017年02月14日 (火)
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第7章 流行作家ならではの多彩な視点
2017年02月14日 (火)
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