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日本元気塾セミナー
既存の枠をぶち壊せ!

若きイノベーターの挑戦/杉江理×佐々木大輔×米倉誠一郎

更新日 : 2016年05月11日 (水)

第3章 シリコンバレーで本気のモノづくり


 
最初から世界を目指す

杉江理: その後、僕達は量産化を目指し、アメリカへ向かいました。なぜなら「150万vs10万」だったから。これは車いすユーザーの数で、前者がアメリカ、後者が日本です。アメリカの人口は3億2,000万人、日本は1億2,000万人でその差は約3倍ですが、車いすユーザーに限れば、その差は実に約15倍にもなります。

さらに、アメリカでは1990年に施行された「障がいを有するアメリカ人法」(ADA/Americans with Disabilities Act)により、建築やまちづくりの面でもユニバーサルデザインが浸透しており、日本に比べ、圧倒的に車いすユーザーに対するインフラが整備されています。

モノづくりをするのなら、ユーザーが多い場所で行うほうが有効なレスポンスがたくさん得られ、仮説検証のサイクルが素早く回せるようになり、より良い製品を素早く生み出すことができる。それがアメリカに渡った1つの理由です。

もう1つの理由は、「世界に出なければ、将来はない」と考えたからです。ユーザーの数を見ても、日本よりアメリカのほうが巨大な市場があり、資金調達などベンチャーに対する環境もまったく違います。さらに、高齢化の問題はいずれ世界中に広がるはずで、アメリカで認知されれば、世界への距離はより短くなります。元々、僕達は最初から世界を目指していたこともあり、ならば早い段階で行ってしまおうとシンプルに考え、2013年、シリコンバレーに拠点を置いて活動を始めました。


アメリカで行った4つのこと

杉江理: アメリカに渡り、英語もままならない状況の中、僕達は4つのことを行いました。

1つ目は、「現地の車いすユーザー300人へのヒアリング」。連日のようにショッピングセンターなどを訪れ、車いすユーザーが通るたびに声をかけて話を聞きました。時には自宅まで押しかけ、1日の行動などを徹底的に調べました。当時はメンバーが5人に増えていましたが、ユーザーの話を聞く際は必ずメンバー全員で聞き、意思統一を図っていました。

2つ目は、「自分で乗って生活」。電動車いすを購入し、それに乗って2カ月間生活しました。道に小さな段差があると回り道をしたり引き返したり、とても大変です。実際に朝から晩まで乗り続けたことで、現状の電動車いすが抱える様々な課題を体感することができました。

3つ目は「本気で売る」。僕達はプロトタイプに値段をつけて販売しました。僕はそもそも、プロトタイプという言葉が好きではありません。「これはプロトタイプです」と言った瞬間、何に対しても言い訳ができてしまうから。値段をつけて売ることで、ユーザーから厳しく評価してもらう。それに対して、僕達はきちんと責任を取る。この覚悟がなければ、本当に良いモノは作れないと考えました。

4つ目は「5人のユーザーの声のみ聞く」。300人にヒアリングし、多くの意見が集まりましたが、身体の特徴や障がいの内容はそれぞれ異なるため、全てに応えようとすると方向性がぶれていきます。そこで、最終的な仕様を決める段階では、プロトタイプを「150万円出してでも買いたい!」と言ってくれた5人のユーザーの意見だけに集中しました。

僕達を信じて契約書にサインしてくれた方ばかりですから、こちらの質問に対しても非常に熱心に答えてくれ、僕達からは生まれないようなアイデアもたくさん出してくれました。その意見を受けて、猛スピードで改良を重ねていきました。

こうした紆余曲折を経て完成したWHILLですが、現在多くのユーザーさんからうれしい声が届いています。例えば、この60代の女性は「WHILLに乗って最初に行きたい場所は?」と質問したところ、「私はずっと前から、お洒落をして美術館に行きたいと思っていた」と答えてくれました。


また、日本で最初にWHILLを買ってくださったこの男性は、東京モーターショーの様子をテレビで見て、WHILLに一目惚れしたそうです。当時はまだ量産化する前でしたが、「どうしても自分の結婚式で使いたい」と頼まれ、急いでお届けしたことを覚えています。


将来は、WHILLが提供する価値をさらに広げていきたいと考えています。販売だけでなく、企業や自治体などと連携しながら、試乗やリース事業、シェアリング事業を行い、公共施設、観光地などにも活用の場を広げていきます。

また、最新のソフトウェアを搭載するWHILLは、見方を変えれば「動き回るセンサー」とも言えます。街のどこに段差やスロープ、エレベーターがあるのかといったデータを収集し、活用できれば、さらに多くの方々の役に立つことができます。このように様々な方向に発想を広げながら、誰も想像しなかった未来を創り出していきたいと考えています。


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既存の枠をぶち壊せ! ~ 若きイノベーターの挑戦 ~ 杉江理(WHILL)×佐々木大輔(freee)×米倉誠一郎(日本元気塾塾長)

杉江理(WHILL,Inc. CEO)×佐々木大輔(freee株式会社 代表取締役)×米倉誠一郎(日本元気塾塾長/一橋大学イノベーション研究センター教授)
日本元気塾塾長である米倉誠一郎氏が、「車いす」のマーケットにイノベーションを巻き起こしているWHILL,Inc. CEOの杉江理氏と、クラウド会計ソフトとしてシェアNo.1を獲得する大躍進を遂げているFreee株式会社の佐々木大輔氏を迎えして、若きイノベーターの挑戦をお話いただきます。