記事・レポート

VISIONARY INSTITUTE
「地球食」の未来を読み解く

地球と人類との“共進化”に向けて:竹村真一

BIZセミナー教養文化
更新日 : 2015年03月25日 (水)

第6章 日本食は未来の地球食のOSになる


 
身近な場所を「地球ミュージアム」に

竹村真一: 私たちはいま、食を取り巻くさまざまな問題に直面しています。それに対し、どんなソリューションがあり得るでしょうか?

水資源の枯渇に対し、一つの解決法は、点滴灌漑システムです。乾燥した地域の畑では、単純に水を撒いてもすぐに蒸発してしまうため、作物の根元にだけ少しずつ水を点滴するのです。貴重な水を有効活用できるシステムが、世界各地で導入され始めています。

海においても、乱獲や稚魚の捕獲などを抑止する国際的な制度づくりが進んでいます。また、海のエコラベルと言われるMSC、養殖版海のエコラベルであるASC(※編注1)といった認証制度を通じて、水産資源や海洋環境に配慮した持続可能な漁業の仕組みも普及しつつあります。

先日も、イオンモール幕張新都心店で「触れる地球」を使ったイベントを開催し、MSCやASCについて紹介しました。会場では、地球儀の横に「モノカタル台」という装置を置き、その上にお客様がサーモンなどの商品を乗せると、地球儀がぐるりと回転し、持続可能な漁業や流通方法など、商品が売り場に届けられるまでの物語を見ることができます。ショッピングセンターが、突如として地球の食を学ぶための「地球ミュージアム」になるわけです。

どのような食材を選び、どのような食べ方をすれば、地球とより良い関係を築けるのか。この地球儀が、食の未来や地球について考えるきっかけになれば、本当に嬉しく思います。



日本食がもつ魔法の力

竹村真一: 何よりも大切なのは、食べる側の意識改革、リテラシーの向上です。日本ではいま、有り余るほどの食材に囲まれているため、食に関心をもつ人が減っています。日本人が1年間に廃棄する食料は、2,000万トンにも及びます。食料供給量全体の3分の1に相当します。皆さんはこの数字を耳にして、何を感じられるでしょうか?

私たちはいま、宇宙船地球号の食のあり方、すなわち「地球食」の未来を真剣に考えねばならない時を迎えています。そのヒントとなるのが、世界無形文化遺産にも登録された日本食(和食)です。私は、これが未来の地球食のOperating System(OS)になると信じています。

米を中心とした一汁三菜の献立は、栄養学から見てもPFCバランス(※編注2)に優れた食事だと言われています。また、素材にかける発酵や天日干しの魔法によって、元の食材よりもビタミンやアミノ酸などの栄養素が10倍にもなるというデータもあります。旨味や出汁の文化は、少ない糖質や脂質で脳に満足感を与えるという研究結果もあり、結果的に過食を防ぎ、糖分や脂質、塩分の摂取を抑える効果があります。旬の食材を生かす調理法と美的なセンスは、世界的にも高く評価されています。日本食には、食材が秘めた力を引き出す魔法のような知恵、自然に寄り添った食生活につながるノウハウがふんだんに詰まっています。

日本人の素晴らしい食文化を、地球の公共財として広く共有し、未来の地球食のOSにしていきたい。その一歩として、このほど東京ミッドタウンの21_21 DESIGN SIGHTにおいて、グラフィックデザイナーの佐藤卓さんと一緒に「コメ展」を開催しました。

食の欧米化が進んだことで、日本人は米を中心とした日本食の価値を忘れつつあります。世界中で日本食がブームになる中で、皮肉なことに日本人はいま、先人から受け継いだ食文化のバトンを、未来の世代に渡し損ねるかもしれない危機を迎えています。いまこそ、バトンをしっかりと握り直さなければならない。「コメ展」は、こうした危機感から生まれたイベントです。



※編注1
MSC/ASC
責任ある漁業を推奨する国際的な非営利団体MSC(Marine Stewardship Council/海洋管理協議会)が、水産資源や海洋環境に配慮した持続可能な漁獲方法、流通・加工方法を経た天然の水産物を認証する仕組み。認証商品には、MSCラベルが付けられる。養殖の水産物では、ASC(Aquaculture Stewardship Council/水産養殖管理協議会)による同様の認証制度がある。


該当講座

2014年 第2回 未来の地球の「食」を読み解く
竹村真一 (京都造形芸術大学教授 / Earth Literacy Program代表)
薄羽美江 (株式会社エムシープランニング代表取締役 / 一般社団法人三世代生活文化研究所理事)

ゲスト講師:竹村真一(文化人類学者/京都造形芸術大学教授)。6月15日(日)まで東京ミッドタウン21_21 DESIGN SIGHT で開催されている『コメ』展を、グラフィックデザイナー・佐藤卓氏とともにディレクションされた文化人類学者・竹村真一氏(京都造形芸術大学教授)を迎え『触れる地球ミュージアム』に込める想い、そして地球の「食」の未来についてお話いただきます。


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