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VISIONARY INSTITUTE
「地球食」の未来を読み解く

地球と人類との“共進化”に向けて:竹村真一

BIZセミナー教養文化
更新日 : 2015年03月18日 (水)

第3章 私たちは地球を食べ、地球を飲んでいる


 
和風弁当の中身

竹村真一: 地球儀の上に現れた小さい丸は、100万都市です。中ぐらいの丸は500万都市、大きな丸は1,000万都市です。1950年代、500万都市は東京とニューヨークだけでした。しかし、時代を進めていくごとに、大きな丸が世界中で増えていきます。世界人口が70億人を突破した現在は、その半数以上が都市で暮らしています。そのため、エネルギー消費量も、輸入の食料に依存する人口も急激に増加しています。

今度は、船舶の航路を映し出してみましょう。6,000隻の船の位置情報(GPSデータ)をほぼリアルタイムで表示しています。石油やLNG(液化天然ガス)、小麦や大豆、トウモロコシなど、さまざまな物資を乗せた船が、ホルムズ海峡やスエズ運河、マラッカ海峡などを通り、日本全国の港に集まっています。

最近は「地産地消」という言葉をよく耳にしますが、実際の日本人の食生活は、地産地消からほど遠い状況です。コンビニなどで和風弁当を買っても、米以外の食材は海外からやってきたものばかり。サケはチリやノルウェー、唐揚げに使われている鶏肉は、主にブラジルやタイから運ばれています。国産の鶏であっても、飼料は9割以上が米国など海外産です。日本食の代表格である味噌や醤油も、原料の大豆は国産のほうが珍しくなっています。




バーチャルウォーターと食の関係

竹村真一: 梅雨時の典型的な雲の流れを見ると、中国南部から日本列島、そして太平洋まで、龍のような帯状の雲が横たわっています。日本に梅雨をもたらすこの雲は、遠くインド洋からやって来ます。海面から生じた水蒸気が雲となり、北上してヒマラヤ山脈に当たり、乗り越えられずに東に迂回してきます。そして中国南部や東南アジアを経て、日本付近にやってくる。ここで低気圧と高気圧に挟まれ、梅雨前線が発達・停滞し、長雨をもたらすことになります。

日本が豊かな水と緑に恵まれているのは、ヒマラヤ山脈のおかげです。この地球儀で雲の動きを見れば、梅雨は日本のローカルな現象ではなく、グローバルな水循環の一部であることがよくわかります。日本付近の天気図を見ているだけでは、絶対にわからないことです。

しかし、地球大の水循環という意味ではもう一つ、「見えない水消費」も考慮せねばなりません。近年は世界中で水資源の奪い合いが起こっていますが、日本は水の豊かな国ですから、皆さんはそれほど危機感を覚えていないかもしれません。たとえば、日本人が口から摂取する水は、1日当たり2〜3リットルです。1日に使う生活用水は300リットル。炊事や洗濯、お風呂やトイレなどを通じて、体に取り入れる量の100倍もの水を使っています。

しかし、さらに私たちの食生活を支える水という視点で考えると、もう1つゼロを足す必要が生じます。つまり、日本人は1日当たり3,000リットルもの水を消費しているのです。なぜか?

「バーチャルウォーター」という言葉をご存じでしょうか? たとえば、1kgの小麦を生産するために必要な水は、1,000〜2,000リットルと言われています。食材を輸入することは、間接的に大量の水を輸入しているのと同じです。水に恵まれた日本はいま、枯渇しつつある外国の水資源を使うことで、毎日の食料を生産・調達しています。

現代を生きる日本人は、毎日のように“地球を食べ、地球を飲んでいる”のです。




該当講座

2014年 第2回 未来の地球の「食」を読み解く
竹村真一 (京都造形芸術大学教授 / Earth Literacy Program代表)
薄羽美江 (株式会社エムシープランニング代表取締役 / 一般社団法人三世代生活文化研究所理事)

ゲスト講師:竹村真一(文化人類学者/京都造形芸術大学教授)。6月15日(日)まで東京ミッドタウン21_21 DESIGN SIGHT で開催されている『コメ』展を、グラフィックデザイナー・佐藤卓氏とともにディレクションされた文化人類学者・竹村真一氏(京都造形芸術大学教授)を迎え『触れる地球ミュージアム』に込める想い、そして地球の「食」の未来についてお話いただきます。


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