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「くまモン」『聞く力』にみる、魅力の引き出し方

阿川佐和子×水野学 対談

更新日 : 2014年07月09日 (水)

第7章 未来を作るデザイン、いまを作るデザイン

写真左:阿川佐和子(作家・エッセイスト)/写真右:水野学(クリエイティブディレクター/good design company 代表取締役/慶應義塾大学特別招聘准教授)

 
カッコ良い宇宙船を考える

水野学: ひとくちにデザインと言っても、僕は2つの時間軸に分けて考えています。「未来を作るデザイン」と「いまを作るデザイン」です。「未来を作るデザイン」とは、いまは作れないけれど、将来、そのアイデアをもとにして、誰かが別の形として実現し、普及していくものです。しかし、こうしたものをデザインできる人は限りなく少ないと思います。

阿川佐和子: どのようなデザインのことを指すのでしょう?

水野学: 山中俊治という、僕の尊敬するインダストリアル・デザイナーがいます。山中氏は非常にユニークな形をしたカッコ良い宇宙船をデザインしました。当然ながら機能デザインを満たしたうえで、装飾デザインを追求したものです。現在の技術では実現不可能ですが、50年、100年後には、山中氏のデザインをもとにしたカッコ良い宇宙船が造り出されるかもしれません。

現在、宇宙船を建造する際は、空気抵抗や推進力、宇宙空間における耐久力など機能性がシビアに求められます。また、技術的にもコスト的にも宇宙船を飛ばすことで精一杯であり、装飾まで考える余裕はありません。しかし、技術が向上し、宇宙船が大量生産されコストが下がるようになれば、「いつも同じようなデザインでは面白くない」と言い出す人たちが出てくるかもしれません。


阿川佐和子: 映画『トラック野郎』のように、ギンギラにデコレーションされた宇宙船が打ち上げられるかもしれない。

水野学: デコレーションされたロケット。デコトラならぬ、デコロケです(笑)。つまり、機能性が一定のレベルまで満たされると、装飾性にようやく目が向けられるようになる。デザインの歴史は、この繰り返しを経て発展してきた背景があります。

いっぽうの「いまを作るデザイン」は、ものを売るためのデザインです。経済活動のなかの1つの要素として存在するものですから、どれほど美しくても、売上の伴わないものは自己満足の域を出ることはなく、人々の生活を豊かにすることもできない。


阿川佐和子: 「いまを作るデザイン」は、経済と密接に関係しているわけですね。

水野学: 美しく、かつ売れるものとは、アウトプットの質により決まります。その質を高めていくためにも様々な人とのコミュニケーションは大切になりますし、特に「聞く力」は不可欠だと思います。