記事・レポート

「くまモン」『聞く力』にみる、魅力の引き出し方

阿川佐和子×水野学 対談

更新日 : 2014年07月04日 (金)

第6章 似合わない服は着させない

写真左:阿川佐和子(作家・エッセイスト)

 
“らしさ”を感じるデザインとは?

水野学: 機能デザインと装飾デザイン、双方において最も優れたものが広く普及する。本においても同じだと思います。面白いストーリーを思いつく人は多いかもしれません。しかし、感情を揺さぶる文章、深く心に染みこむ文章として表現できる人は少ないのではないでしょうか。さらに作品を取り巻くもの〜紙面の体裁や紙質、装丁など〜、細かいディテールまで追求した作品はもっと少ない。多くの人の共感を呼ぶ作品は、あらゆる点が優れていると思います。

阿川佐和子: 確かにそう思います。私が本を出す場合「表紙はどんな感じ?」「タイトルは何にする?」などと、編集者と何度も検討を重ね進めていきます。売れるかどうかという意味では、著者と本のイメージが合致することも大きく関係してくると思います。たとえば、私の本について言えば、単行本は思うほど売れませんが、文庫版になると結構売れます。価格もあると思いますが、それ以上に「私のイメージに近い」からだと思っています。見た目が小さいし、中身が軽いから(笑)。

水野学: いや、そうではないと思いますよ。

阿川佐和子: どうも、デザインは中身と強くリンケージ(linkage)しているように感じています。

水野学: そこは、まさしくその通りです。僕のデザインにおけるポリシーは「似合わない服は着させない」です。お客様から「なんだこれは!」と怒られることはなく、「こうしたデザインがあったのか! 何でいままで思いつかなかったのだろう……」といった感想をいただくことが非常に多い。


阿川佐和子: いままで光が当たっていなかった方向から、“らしさ”を引き出すわけですね。

水野学: どれほど斬新な商品やロゴでも、必ずどこかに“らしさ”が感じられるものを作ろうとしています。1つの対象から本質的な“らしさ”を見つけ、磨いていくようなイメージです。

阿川佐和子: まったく無の状態から「我、天啓を得たり!」といったことはないのでしょうか?

水野学: 残念ながら、まったくありません(笑)。最近はイノベーションという言葉がさかんに使われていますが、日本ではゼロから1や100を生み出すイメージで捉えている方が多いと思います。しかし、欧米の方々は足し算やかけ算のように、従来からあるもの同士を掛け合わせることで新しいものを生み出すこと、と捉えています。僕も後者が正解だと思います。

画期的な発明と呼ばれるものを調べてみると、多くはある現象とある現象、あるいは、別々の機能をもつもの同士を組み合わせることで生まれています。つまり、画期的な発明とは、ありそうでなかった組み合わせを誰よりも上手に結合できたもの、と言えるでしょう。