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天上の舞 飛天の美
世界遺産・平等院鳳凰堂に秘められた美と感性

神居文彰住職が語る千年のストーリー

教養文化キャリア・人
更新日 : 2014年06月13日 (金)

第7章 文化財は未来へお返しするものである

神居文彰(かみい・もんしょう/平等院 住職)

 
10円硬貨の鳳凰堂は本物か?

神居文彰: 鳳凰堂を一度も訪れたことがない、という方はいらっしゃいますか? 少しいらっしゃいますね。ご安心ください。鳳凰堂はいつも皆さんのすぐそば、ポケットやお財布におります。よく、観光ガイドの方が鳳凰堂を案内する際に「これが10円硬貨と同じ建物です」と説明されていますが、正確には間違いです。実は、現在の鳳凰堂と10円硬貨のデザインには、異なる点があるのです。

鳳凰堂は明治以降だけでも、大規模な修理を2回行っています。1回目は明治35~40(1902~1907)年、2回目は昭和25~32(1950~1957)年です。平等院の描かれた10円硬貨の製造は昭和26年に始まりました。しかし、モチーフとなったのは、昭和の大修理を行う前のもの。つまり、現在の10円硬貨に描かれている鳳凰堂は1代前のものなのです。

異なる点の1つが、正面中央にある中堂の土台(基壇)です。昭和の大修理が行われるまでは、六角形の筒状の石を積み重ねた「亀甲積み」でした。しかし、修理に合わせて行われた発掘調査により、創建当時は長方形の石を縦横に組む「壇上組み」だったことが判明し、改められました。

さらに言えば、2014年春に落慶を迎える鳳凰堂は、皆さんよくご存じの渋みのある鳳凰堂とは異なります。日本には「わび・さび」の文化があり、ものが褪せていく姿に美しさを感じる方も多いと思います。しかし、今回の修理では、様々な調査から判明した創建当時の彩色豊かな姿を、できる限り伝統的な技術と材を使いながら再現しています。



和様・国風の完成型から、「私」を見つめ直す

神居文彰: いま、私たちが見ている平等院鳳凰堂は、千年前から続くものです。そして、未来を生きる方々にも同じように見ていただくべきものだと思います。文化財の保存においては、よく「未来へ受け継ぐ」と言われますが、私は「未来へお返しする」という表現が的確だと考えています。文化財とは時間を超越した共有財であり、未来の人たちのものでもある。私たちはそれを一時的にお借りし、触れさせていただいているにすぎません。お借りしている以上、大切に守り、お返しする責任がある。借りたものは必ずお返ししなくてはなりません。未来を生きる方々へ、です。これが文化財に対するあるべき姿勢だと感じています。

最後に1つ。私たちは、言語も含め、日本の文化のなかで思考し、判断しています。つまり、何事においても、無意識に日本の文化というバイアスが働いています。そうしたなかで、皆さんが「私」を見つめ直そうとするときは、ぜひ「和様・国風の完成型」と言われる平等院を訪れ、様々なことを感じてみてください。「私」を知るためのヒントが、必ず見つかるはずです。そして、皆さんが感じた美意識と感性を、未来の方々にお返ししてほしいと思います。(了)


<気づきポイント>

●文化はその背景まで含め、常に人が目を向け、手を差し伸べていかなければ失われてしまう。
●あらゆるものが変化し続ける鳳凰堂は、究極の命の先が感じられる場所。
●文化財とは時間を超越した共有財。「受け継ぐ」ではなく、「お返し」するものである。

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