記事・レポート
天上の舞 飛天の美
世界遺産・平等院鳳凰堂に秘められた美と感性
神居文彰住職が語る千年のストーリー
教養文化キャリア・人
更新日 : 2014年05月26日
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第3章 世界文化遺産、登録の基準
文化財の背景にまで目を向ける
神居文彰: 平等院は1994年12月、京都の歴史ある寺社仏閣とともにユネスコ(UNESCO/国際連合教育科学文化機関)の世界文化遺産に登録されました。世界文化遺産は、各国が暫定リストに載せた案件から推薦するものについて、ユネスコの関係機関であるイコモス(ICOMOS/国際記念物遺跡会議)が調査を行い、その結果をもとにした最終的な審議を経て、正式登録となります。
世界文化遺産の登録では、「顕著な普遍的価値」(Outstanding Universal Value/※編注1)が重要になります。「顕著な普遍的価値」とは、主として真正性(authenticity)と完全性(integrity)、この2つの条件が満たされていること(※編注2)。特に真正性では、その文化財が完成した当時と「同じ状態のまま、部材、構造」であるかどうかが重視されます。
当初、海外から来られたイコモスの方々には、私たちが大切に受け継いできた「木の文化」について、なかなか理解していただけませんでした。たとえば、世界最古の木造建築と言われる法隆寺は、1,400年の歴史のなかで幾度も修理が行われています。真正性に照らせば、「この木材は江戸時代に継ぎ足したもの。こちらは明治のものではないのですか?」と言われてしまいます。しかし、木は石に比べると損なわれやすく、元の材のまま残すことが非常に難しい。さらに、時代の移り変わりにより、修理に必要な材すら失われてしまうこともあります。
文化財の修理・保存とは、その国の文化を守ることでもあります。そして、世界の文化は実に多様であり、それぞれに最適な修理・保存の形があります。世界文化遺産の登録に先立つ1994年11月、古都・奈良にユネスコやイコモスの専門家が集まり、真正性について会議を行い、「オーセンティシティに関する奈良ドキュメント」がまとめられました。そのなかに次のような一文があります。「すべての文化と社会は、それぞれの遺産を構成する有形また無形の表現の固有の形式と手法に根ざしており、それらは尊重されなければならない」。この会議を通じて、日本の寺社仏閣の背景にある木の文化とともに、木の文化ならではの「真正性」が世界に認められたのです。
2013年6月、富士山が世界文化遺産に登録されました。私は、自然遺産ではなかったことに大きな意義があると考えています。自然として見た富士山という存在は、それだけでも普遍的な価値があります。しかし、日本人にとり、富士山の価値とはそれだけでしょうか? ある人は「自らの誇りを象徴するもの」と語り、ある人は思想や信仰の対象だと語ります。また、芸術の対象として捉え、歌を詠み、その姿を美しい絵に表した人も数多い。富士山には、日本の文化のなかで育まれてきた多様な価値があり、そうした背景まで含めて評価されたのだと、私は考えています。
文化が文化たり得るためには、その支えとなる背景が必要です。背景とは、土地の気候や風土、そこから派生して生まれた技術、芸術、素材、人の想い。歴史のなかで育まれ、受け継がれてきた背景までも大切にしていかなければ、文化はやがて途絶えてしまうのです。
※編注1
顕著な普遍的価値
文化庁の「世界遺産条約履行のための作業指針」では、「国家間の境界を超越し、人類全体にとって現代及び将来世代に共通した重要性をもつような、傑出した文化的な意義及び/又は自然的な価値を意味する」としている。
※編注2
真正性(文化庁HPより)
自然遺産及び/又は文化遺産とそれらの特質のすべてが無傷で包含されている度合いを測るためのものさしである。従って、完全性の条件を調べるためには、当該資産が以下の条件をどの程度満たしているかを評価する必要がある。
a)顕著な普遍的価値が発揮されるのに必要な要素がすべて含まれているか。
b)当該資産の重要性を示す特徴を不足なく代表するために適切な大きさが確保されているか。
c)開発及び/又は管理放棄による負の影響を受けているか。
完全性(文化庁HPより)
文化遺産の種類、その文化的文脈によって一様ではないが、資産の文化的価値(登録推薦の根拠として提示される価値基準)が、下に示すような多様な属性における表現において真実かつ信用性を有する場合に、真正性の条件を満たしていると考えられ得る。
形状、意匠/材料、材質/用途、機能/伝統、技能、管理体制/位置、セッティング/言語その他の無形遺産/精神、感性/その他の内部要素、外部要素
天上の舞 飛天の美
世界遺産・平等院鳳凰堂に秘められた美と感性
インデックス
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第1章 後世に受け継ぐ文化財
2014年05月14日 (水)
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第2章 鳳凰堂は何を表現しているのか?
2014年05月21日 (水)
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第3章 世界文化遺産、登録の基準
2014年05月26日 (月)
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第4章 刻一刻と変化する、菩薩の表情
2014年05月30日 (金)
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第5章 美しい日本の四季に囲まれた仏の姿
2014年06月02日 (月)
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第6章 「仏後壁」に描かれた平安の息づかい
2014年06月06日 (金)
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第7章 文化財は未来へお返しするものである
2014年06月13日 (金)
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