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どうすれば日本人は、一流のインベスターになれるのか?

三田紀房、松本大が語る「投資の意義」

更新日 : 2014年05月02日 (金)

第8章 日本において投資教育は必要か?


 
会場からの質問(1): 『インベスターZ』はどのような経緯で生まれたのですか?

三田紀房: きっかけは、高校野球です。現在連載している野球漫画の取材で、私立の名門校を訪れました。取材後、学校の方々と食事をした際、「今年は数人ほど定員割れした。年々、学校経営が厳しくなっている」と嘆かれていました。誰もが知るほどの名門校でさえ、経営に四苦八苦していたのです。

帰りの新幹線のなかで「どうすれば、学校経営は安定するのか」と考え、「どうすれば学費がすべて無料の学校がつくれるのか?」と連想してみたのです。潤沢な資金を運用し、利回りを得て学校経営を安定させる。ならば、運用は誰が行うのか。校長や理事長では当たり前すぎる。子どものほうが断然面白い。その瞬間、「投資部」というキーワードが浮かびました。新幹線のなかで基本ストーリーが固まり、東京に戻り編集者に相談したところ、すぐに連載が決まったのです。

アイデアが具体化すれば、編集者に細かい素材を集めてもらい、漫画家は運を引き寄せるための味付けをしながら、料理していく。『インベスターZ 』はそのような形でスタートしました。



会場からの質問(2): 私は10年ほど株式投資を続け、最近ようやく損失をコントロールできるようになりました。もっと早い段階で投資教育を受けられれば良かったと感じています。今後、日本においてそうした教育が行われる可能性はあるのでしょうか?

松本大: 日本では2003年から「貯蓄から投資へ」というスローガンのもと、個人投資家を株式市場に呼び込むことを目的とした証券優遇税制(※編注)がスタートしました。

間接金融と呼ばれる銀行中心の金融システムは、どのようなセクターが日本経済を引っ張っていくのかが分かりやすい時代、たとえば製造業や建設業がけん引した戦後以降の日本では効果的でした。多額のお金が銀行に集まることで、集中的な投資を行いやすいからです。

けれども、2000年を過ぎた頃からITなどの発達により、どの分野がけん引するのかが分かりにくい時代になりました。国としても直接金融、つまり株式市場を通して様々な企業に直接お金が流れる仕組みのほうが良いと考え、証券優遇税制が導入されたのです。

このとき、個人向けの投資教育を行うことも閣議で決められました。しかし、カリキュラム化は一切なされませんでした。背景に「金儲けの教育などもってのほか」という圧力があったようです。さらに言えば、日本には実際の金融や投資に詳しい“先生”が存在しなかったことも大きな原因だと思います。

私としては、子どもたちに対して一律的に投資教育を行うことには反対です。好き嫌いもあるはずだからです。たとえば、音楽やスポーツの世界には、大人が敵わないほどの優れたテクニックを持つ子どもがたくさんいます。そのなかで「もっとうまくなりたい」という子どもには、留学や奨学金といった支援制度がたくさん用意されています。

投資においても、まずはきっかけだけを与えて、そのなかから「学びたい、うまくなりたい」と言う子どもが出てくれば、正しい知識や考え方を提供したり、能力を伸ばしていったりする仕組みを用意したほうが良いと思うのです。私もその実現に向けて、現在は各所に働きかけています。

佐渡島庸平: 松本さんと同じく、私も三田さんも『インベスターZ』を通じて、日本人の投資に対するイメージを変えることができればと考えています。本日は貴重なお話をありがとうございました。(了)

(※編注)
証券優遇税制
上場株式等の配当や譲渡益に対する税率を、従来の20%から10%に軽減する優遇制度。2014年1月からのNISA(少額投資非課税制度/年間100万円までの投資で発生した配当・譲渡益は非課税)導入に合わせ、2013年末に廃止された。

<気づきポイント>

●投資においては自分なりの理屈がなければ、間違った方向に進んでも気づくことができない。
●運をつかむコツは、運があると思われる方向を見極め、自分からアクションを起こしていくこと。
●一流の投資家とは、自らの限界を知り、自身の投資に対して常に客観的な判断が下せる人。

関連書籍


インベスターZ(1)

三田紀房
講談社