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どうすれば日本人は、一流のインベスターになれるのか?

三田紀房、松本大が語る「投資の意義」

更新日 : 2014年04月14日 (月)

第3章 ノーベル賞受賞者も魅了される特殊な世界


 
容易に解けないから吸い寄せられる

佐渡島庸平: 松本さんはトレーディング好きを自認されていますが、魅了され始めたのはいつ頃からでしょう?

松本大: ソロモン・ブラザーズに3年務め、ゴールドマン・サックスに移った1990年頃。自分一人で理屈やアイデアを考えるようになってからです。トレーディングでは、うまくいくこともあれば、失敗することもあります。失敗したときに「今度こそ!」と思い、失敗した理由を必死に考えます。そこから別のアイデアを生み出し、再びマーケットで試す。深く入り込むほど知的欲求が刺激され、魅了されていったように思います。

1つ面白い話があります。ソロモンで2年目を迎えた頃、どういうわけか、中学時代の数学教師が就職してきたのです。数学の問題は、よほど難しいものでなければ解くことができます。いっぽう、マーケットでは、たえず容易に解き明かせない問題が提示される。解き明かしたつもりでも、真逆に動くことさえある。数学者としては“解きたい”という欲求に駆られるのだと思います。その数学教師もマーケットで試してみたくなったようです。

米国のマーケットには、ノーベル経済学賞やフィールズ賞を獲るような人材がたくさんいます。たとえば、「ブラック・ショールズモデル」(※編注1)という、金融工学の礎となり、ノーベル経済学賞を受賞した計算モデルがあります。その原型を創り出したフィッシャー・ブラック(※編注2)は、大学教授などを経て、ゴールドマン・サックスに入りました。こうした偉大な学者や研究者が、実際のマーケットで自分のアイデアを試そうと吸い寄せられてくるのです。



好奇心の強さが最大のモチベーション

佐渡島庸平: そのような猛者が集う投資の世界で実力を高めていくには、どのような努力を行えばいいのでしょうか?

松本大: 私はあまり料理をしませんが、おいしい料理をつくるためには、下ごしらえに長い時間を費やします。トレーディングも同じで、常に情報を収集・整理・分析する。売買の判断を下すまでの地道な作業に時間をかけなければ、うまくいきません。

スポーツにたとえると、基礎トレーニングなしに試合に勝てる、などとは考えないはずです。しかし、頭を使うことに関しては「ヒラメキだけで大丈夫だ」という傾向・風潮があります。特にトレーディングや賭け事では顕著です。脳も筋肉も、基本は同じ仕組みです。可塑性(plastics)があると表現しますが、使えば使うほど性能が向上するのです。基礎トレーニングを怠っては、試合には勝てない。脳も使わなければ、性能は上がりません。トレーディングにおいても、情報を収集し、マーケットの動きを丹念に分析し続ける基礎トレーニングが重要です。マーケットには「流れ」があります。基礎トレーニングを続けていると、流れの変わり目が分かるようになり、対応できるようになるのです。

こうした努力を継続するための最大のモチベーションは、好奇心です。何らかの理由でトレーディングが好きになり、さらに上手になりたいと思い、労を惜しまずに努力する。好奇心の強さが、トレーダーの成長にも影響を与えるのだと思います。

(※編注1)
ブラック・ショールズモデル
1973年にフィッシャー・ブラックとマイロン・ショールズが共同で発表し、後にロバート・マートンにより証明されたオプション価格算出のための理論式。フィッシャー・ブラックの没後、1997年にショールズとマートンがノーベル経済学賞を受賞。

(※編注2)
フィッシャー・ブラック
米国の数学者、経済学者。ハーバード大学で応用数学の博士号を取得後、コンサルティングファームであるアーサー・D・リトル社に入る。その後、シカゴ大学教授、MIT スローン経営学大学院教授を経て、1984年にゴールドマン・サックスに転職。1995年、がんにより55歳で他界。

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