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人はなぜ旅をするんだろう?

旅の本、いろいろ 〜好きな本がみつかる、ブックトーク

カフェブレイクブックトーク
更新日 : 2014年04月07日 (月)

第6章 我、辺境・異郷を愛す




澁川雅俊:  ここではまず『旅とチベットと僕』(棚瀬慈郎/講談社)と『旅に溺れる』(佐々木幹郎/岩波書店)を挙げることにします。棚瀬の本の帯には「あるいはシャンバラ国の実在について」と解題されています。シャンバラはその所在が知られていないチベットの伝説上の仏教王国。理想郷として、いまも人びとに崇められています。著者は過去30年間、その理想郷を探し求めて、ヒマラヤの過酷な地域をあちこちと旅してきました。詩人の佐々木もそれらの地域を棚瀬と同様30年も駆けめぐります。葬礼のさまざまな様式を調べ、それを通じて人びととその祖先との魂のつながり、家族の中で前に亡くなった人たちとのつながりを大事にするのはなぜかを思索してきました。ブータンの人びとの価値観がもてはやされているいまどきのチベットやネパールを辺境、ないし異郷と差別化するのは適正ではないかもしれませんが、これらの本には辺境・異郷との触れ合いを読みとられます。



 『アグルーカの行方』(角幡唯介/集英社)と『悠久の時を旅する』(星野道夫/クレヴィス)は北極です。『アグルーカの行方』は、19世紀中頃の探検家フランクリンの最後の北極探検の後の物語です。その探検隊は隊長を含め隊員全員が遭難したとされましたが、アグルーカと呼ばれた生存者がおり、その後しばらく極地のどこかで生きていたという噂が広がりました。著者は探検家として有名ですが、この本は仲間たちとその痕跡を求めて探検した1600kmにおよぶ冒険記です。『悠久の時を旅する』の著者は写真家です。彼は、「私はいつからか、自分の生命と、自然とを切り離して考えることができなくなっていた」(帯解説)、と言いアラスカの大自然に生きる人や野生動物を撮り続け、その地に生きる人びとの間で語り継がれた物語の意味を思索してきました。フィールドでヒグマに襲われ43歳で亡くなった彼ですが、自然と共生する意味を、その瞬間に理解したのではなかったかと、私は思います。

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