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人はなぜ旅をするんだろう?

旅の本、いろいろ 〜好きな本がみつかる、ブックトーク

カフェブレイクブックトーク
更新日 : 2014年04月03日 (木)

第4章 「山のあなた」に、何かが見つかる?




澁川雅俊:  「よく旅をされますか?」の問いかけには簡単に答えられても、「なぜ旅にでるのですか?」と尋ねられると言いよどんでしまいます。それは、自分にとって旅とは何なのか? などということを普段はっきりと意識していないからでしょう。以下はそんな旅に出た‘ふつう’の人たちが書いた本です。

 まず『あの日、僕は旅に出た』(蔵前仁一/幻冬舎)と『旅の終わり 始まりの場所へ』(柏田哲雄/いろは出版)です。前者はちょっと名の知れたグラフィックデザイナーが突然仕事をほっぽり出して、ぷらっとインドに出掛けて以来、病みつきになってしまった旅の日記。蔵前はそれ以来30年間として旅をし続けながら、旅についての講演をしたり、雑誌を発行したりして、バックパッカーの教祖として君臨しています。後者は在学中にカメラ片手にふと海外に放浪の旅に出掛けた大学生の少し長い旅日記です。柏田はまだ20代前半のフォトグラファーで、先のことはいざしらず、いまも旅をしながら、自分は、何を失くしていたのか、なぜここに来たのか、自分に大切なものが何で、いらないものは何か、自分の居場所はどこにあるのか、そして、自分はどこへ歩いていきたいのか? 「旅で拾った妻とともに考えている」と本の中で言っています。





 夫婦で放浪の旅をした人たちが他にもいます。『遊牧夫婦』と『中国でお尻を手術。遊牧夫婦、アジアを行く』と『終わりなき旅の終わり—さらば、遊牧夫婦』(ミシマ社)の著者は近藤雄生となっていますが、この三連作は奥さんとした海外旅の結末です。この人は、理工系の大学院を修了したにもかかわらず、旅をしながら文章を書いて生きていこうと決心したというのですから、無謀です。それにもまして、結婚したてなのに一緒に彼に付いていった奥さんも相当な猛者ですね。しかも、この夫婦は豪州を皮切りに世界のあちこちを5年間も旅してきたのです。この旅行記は、生きるためにぎりぎりの生活を世界中の底辺で生きてきた記録でもあるので、単なる観光旅行や感傷旅行とは違う読み応えがあります。また、放浪の旅での彼らの悟りが良いのです。「アフリカで象を見ながら考えた。旅には終わりがある。終わりがあるからいいのだ」と言うのです。もう一冊は『ソーシャルトラベル』(本間勇輝&本間美和/U-CAN)です。この夫婦も世間的な見解からすると変わっています。なにせ大会社で正規社員として勤められたのに、新しい価値観を求めてアジア、アフリカへ2年間の旅に出たというのですから。副題は「旅ときどき社会貢献」と掲げられており、帯には「価値観をシフトする新しい旅のかたち」と解題されていますが、それは彼らにとって世の中をよく知るためのモラトリアムだったのでしょう。彼らはいま、NPO法人を立ち上げ「東北復興新聞」を発行しています。

 以上の数点を読んでみて「旅、何かが見つかる?」の「何か」がおぼろげながら見えてきます。直裁に言えば、K・ブッセの詩「山のあなた」です。

山のあなたの空遠く  「幸」住むと人のいふ。

噫(ああ)、われひとと尋めゆきて、涙さしぐみ、かへりきぬ。

山のあなたになほ遠く「幸」住むと人のいふ



 まさに「幸」を探して世界中を歩き回った人の書いた本があります。『世界しあわせ紀行』(E・ワイナー/早川書房)は、戦争・紛争、貧困などの悲惨な現場ばかりほじくってきた新聞記者が、それにうんざりしてこの世の至福なるものを探しに出た旅のレポートです。原題の「The Geography of Bliss」を素直に邦訳すると「至福地理学」ということになりますが、世界の10ヶ国を訪れ、それぞれの国でそれぞれの国の人たちが至福と思っていることを確認して論評しています。たとえば“National Gross Happiness(国民総幸福量)”で有名なブータンで彼が発見したのは「貧しいけれども、なんとなく懐が深い。この国の幸せは、高望みをしないこと」で、同じような意味で「タイでは幸せなんて考えないところが幸せ」で、その反対に米国では「高望みする、つまりアメリカン・ドリーム」だなどとコメントしています。傑作なのは「オランダでは麻薬も売春も合法で、この国の幸せは、自由奔放なことだ」です。その他にスイス、カタール、アイスランド、モルドバ、イギリス、インドなどでの幸せについて心理学や哲学の知見を交えつつ、ユーモアとウィットに富んだ語り口(文章)で書いています。著者は日本にも滞在したことがあるにもかかわらず、日本人の幸福感については何も言っていません。

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