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人はなぜ旅をするんだろう?

旅の本、いろいろ 〜好きな本がみつかる、ブックトーク

カフェブレイクブックトーク
更新日 : 2014年03月26日 (水)

第1章 本の中の旅

六本木ライブラリーの〈TRAVEL〉コーナーに並べられている本は、結構読まれています。その他にその内容から別の書棚に収められている旅の本も少なくありません。また新刊書が配架されるタワーライブラリーには、いつも何点かの旅の本が並んでいます。
旅の本たちを少しばかり詳しく見てみると、実にさまざまな内容で、さまざまなスタイルのものがあります。今回は六本木ライブラリーに最近受入れられた旅の本を中心に紹介します。

講師:澁川雅俊(ライブラリー・フェロー)
※六本木ライブラリーのメンバーズイベント『アペリティフ・ブックトーク第30回 旅の本、いろいろ』(2013年10月25日開催)のスピーチ原稿をもとに再構成しました。


澁川雅俊:  『本のなかの旅』(湯川豊/文藝春秋)は、人がなぜ旅に出るのかの観点から古今東西の二十人の作家が書いた旅行記のアンソロジーです。作家や文人や芸術家たちはよく旅をします。そして、それぞれが旅のエッセイを出版します。しかし、人びとの〈旅する心〉を解きほぐすためにそれらを撰集した本はあまり多くはありません。すこし古い本ですが『旅する哲学』(アラン・ド・ボトン、安引宏・訳/集英社)は何人かの欧米文人の旅への期待が書かれています。旅を計画する愉しみ、旅に出て日常から脱出できる愉快さ、あるいは自然であれアートであれ誘いかける未知なるものへの魅惑、そして帰宅後の愉しみ、です。この本も人がなぜ旅に出るのか、〈旅する心〉が明確に語られています。

●‘る・る・ぶ’本

「智に働けば角が立つ。情に棹させば流される。意地を通せば窮屈だ。兎角に人の世は住みにくい」は漱石の『草枕』の冒頭の一文ですが、それゆえに‘見る・食べる・遊ぶ’旅にでも出て浮き世の憂さを忘れようかなどと、いわゆる物見遊山に出掛けようと思う人たちのためのトラベル・カイドブックの別称です。旅の本のなかでこの種のものが圧倒的に多いのですが、このブックトークでは意識的に外しました。なぜなら、今回は「人はなぜ旅にでるのか?」の視点で紹介する本を選んでいるからです。

 この種のガイドブックをまったく取り上げないのも大人気ないので、ちょっと調べてみました。総花的に物見遊山の盛りだくさん情報を掲載するという従来の編集法が少し変わる兆しがあります。たとえば『最好的台湾(ズェイハオダダイワン)』(青木由香/講談社)は、台湾に在住している著者の生活体験を素にした観光情報を日本に向けて発信しています。また『グリム童話で旅するドイツ・メルヘン街道』(沖島博美・文、朝倉めぐみ・絵/ダイヤモンド・ビッグ社)は、いまから200年前に、あのグリム兄弟が伝説や民話を採集して歩いた道筋、いまでは公式に同国のメルヘン街道と称される観光街道にそって、童話とそのキャラクターを探しながら旅するガイドブックです。その街道は、兄弟の生地フランクフルト近辺のハーナウを起点に、ロバ・イヌ・ネコ・ニワトリの音楽隊がいたブレーメンや、約束を破られた笛吹きが子ども達を連れ去ったハーメルンまで続いています。なお、このガイドブックに描かれた挿絵は実に愉しく、出掛けたくなる気持ちをそそります。



『ヴェネツィア〜カフェ&バーカロでめぐる、14の迷宮路地散歩』(篠利幸/ダイヤモンド社)もその意味で<行ってみたくさせる>本です。バーカロは日本で言うと、赤提灯、縄のれん、一杯飲み屋というところですが、路地裏のそういう所で、地元の人と肩と肩をふれあいながら軽く呑んだりできれば、それこそ醍醐味でしょう。軽口を言い合うことができれば最高ですがね。また『新世界の路地裏』(ピーピーエス通信社/パイインターナショナル)と『新日本の路地裏』(佐藤秀明/ピエ・ブックス)には、ツーリストのために創られた表向きの‘お・も・て・な・し’ではなく、年月を重ねた結果、自然に醸し出された風景やそこに漂う空気があります。そうしたものごとに何気なくふれ、ものによっては食べたり、その土地々々の、時々の深く、ローカルな行事に参加できたりすることができれば、最高の物見遊山でしょう。これらの本は旅人が自ら街々の裏側の深いところに潜り込まないと発見できない風景を集めています。


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