記事・レポート
三谷宏治が語る、経営戦略の100年
経営の本質はつながりとストーリーから見えてくる
経営戦略ビジネススキルその他
更新日 : 2013年08月30日
(金)
第3章 2つ目の源流~エルトン・メイヨー
労働条件だけで生産性は本当に変わるのか
三谷宏治: テイラーが亡くなって数年後、1923年から翌年にかけて、フィラデルフィアの紡績工場を舞台に1つの実験が行われました。この時に登場したのがエルトン・メイヨーです。オーストラリア出身で、医学・論理学・哲学を学び、後にハーバード・ビジネス・スクールに招聘された人物です。
この紡績工場は、重大な問題を抱えていました。それは、ミュール紡績機(※編注)を使う部門の離職率が年250%と異常に高かったこと。他の部門は年数%でした。途方に暮れた経営者は、メイヨーらのグループにアドバイスを求めました。
ミュール紡績機の特徴は、大量の装置をわずか数人で管理できることでした。従業員の仕事は、広大な工場の中で何百台もの装置の間を巡回し、切れた糸があれば補修し、装置のトラブルがあれば直す。それは単純かつ孤独な作業でした。そこで午前と午後に2回ずつ、自主的に10分間休憩をとれる、というルールを導入しました。すると途端に離職率が下がり、生産性も向上しました。
実はこの話には後日談があります。新ルールの導入に不満を持った現場監督が突然、休憩をなくしてしまったのです。すると再び、離職率も生産性も元に戻ってしまった。慌てた経営者はすぐに休憩を復活させましたが、今度は状況が改善しませんでした。科学的管理法では、労働条件を良くすると生産性は上がり、悪くすると生産性は下がるとしていましたが、なぜかその通りにならなかった。この結果を受け、メイヨーらは悩みました。
人間の社会性が労働生産性を決める
三谷宏治: メイヨーがその答えを見つけたのは、1927年から数年かけて行われた「ホーソン実験」でした。今度の舞台は、何百人もの従業員が電話機の組み立てを行う工場。メイヨーたちのグループは6人の従業員を選び、賃金の上げ下げ、休憩や軽食の有無、室温や湿度の変化など、労働条件を様々に変えて生産性の変化を調べました。しかし、不思議なことに生産性は常に向上(もしくは維持)し続けました。
結論として挙がってきたのは、彼女らの連帯感とプライドでした。選ばれた従業員たちは、自分たちに対して何が行われるのかを理解していました。有名なビジネス・スクールが、私たちを試している。何があっても負けるものか。選ばれし6人の連帯感とプライドが、労働条件の大きな変化を凌駕したわけです。この実験を通して、人間の社会性というものが労働生産性に多大な影響を与えることが分かりました。
さらにメイヨーらは、一部の従業員に対する面接調査も行いました。最初の頃はメイヨーらが質問票に沿って質問していましたが、途中から現場管理職が同席するようになり、最終的には全従業員2万人に対して現場管理職自身が面接をすることになりました。当然、面接は統制がとれずに単なる雑談になり、2万枚の雑談レポートが集まることになりました。メイヨーたちはそれらをどう分析すべきか途方に暮れましたが、不思議なことに面接が終わった職場から順に、生産性が向上していったのです。
理由はコミュニケーションにありました。それ以前、現場管理者と従業員の間にはほとんど会話がありませんでしたが、雑談を通して互いの状況や思いを理解するようになった。それだけで従業員のやる気に火がつき、管理職は思いやりを持つようになったのです。こうした結果から「経営においても人間の感情面に目を向けよう」という考え方が生まれ、「科学的管理法」と双璧をなす「人間関係論」の端緒が拓かれていったのです。
※編注
ミュール紡績機
産業革命とともに進化を遂げた自動紡績機で、当時の主要産業であった紡績工場の大型化と生産量の飛躍的な増大を可能にした。
関連書籍
経営戦略全史
三谷宏治ディスカヴァー・トゥエンティワン
三谷宏治が語る、経営戦略の100年 インデックス
-
第1章 経営と経営戦略を生んだ3つの源流
2013年08月27日 (火)
-
第2章 1つ目の源流~フレデリック・テイラー
2013年08月29日 (木)
-
第3章 2つ目の源流~エルトン・メイヨー
2013年08月30日 (金)
-
第4章 フォードと大量生産時代の到来
2013年09月02日 (月)
-
第5章 3つ目の源流~アンリ・フェイヨル
2013年09月03日 (火)
-
第6章 そして、“経営戦略”は生まれた
2013年09月05日 (木)
-
第7章 予測不能な時代がやってきた
2013年09月06日 (金)
-
第8章 イノベーションを阻む大きな壁
2013年09月09日 (月)
-
第9章 イノベーターのジレンマ
2013年09月10日 (火)
-
第10章 経営の明日は、発見と探究の先にある
2013年09月12日 (木)
該当講座
三谷宏治 (KIT虎ノ門大学院 教授 / 早稲田大学ビジネススクール・女子栄養大学 客員教授)
ディスカヴァー・トゥエンティワン×平河町ライブラリーのコラボセミナー。
出版に先駆け、著者の三谷宏治氏(K.I.T.虎ノ門大学院 教授)によるセミナーを開催します。(書籍の先行販売も実施いたします。)
20世紀初頭から現在に至るまでの100年のビジネス・経営戦略の概要が分かる1冊です。
経営戦略 ビジネススキル その他
注目の記事
-
10月22日 (火) 更新
本から「いま」が見えてくる新刊10選 ~2024年10月~
毎日出版されるたくさんの本を眺めていると、世の中の”いま”が見えてくる。新刊書籍の中から、今知っておきたいテーマを扱った10冊の本を紹介しま....
-
10月22日 (火) 更新
aiaiのなんか気になる社会のこと
「aiaiのなんか気になる社会のこと」は、「社会課題」よりもっと手前の「ちょっと気になる社会のこと」に目を向けながら、一市民としての視点や選....
-
10月22日 (火) 更新
メタバースは私たちの「学び」に何をもたらす?<イベントレポート>
メタバースだからこそ得られる創造的な学びとは?N高、S高を展開する角川ドワンゴ学園の佐藤将大さんと、『メタバース進化論』を出版されたバーチャ....
現在募集中のイベント
-
開催日 : 11月28日 (木) 19:00~20:30
World Report 第10回 アメリカ発 by 渡邊裕子
いま世界の現場で何が起きているのかを、海外在住の日本人ジャーナリスト、起業家、活動家の視点を通して解説し、そこから見えてくることを参加者の皆....
「ハリス V.S. トランプ 米国大統領選挙結果を読み解く」