記事・レポート

MBA僧侶が編み出すコミュニケーションのカタチ

松本紹圭:目覚めの技術としての仏教

更新日 : 2013年03月15日 (金)

第2章 「お寺カフェ」が人々とお寺をつないだ

2012年秋1day六本木アートカレッジ会場の様子

 
お寺イノベーション

松本紹圭: 「仏教やお寺の在り方を変えたい」という思いをもって、私は仏門に入りました。多くの人にとって、お寺はご法事やお葬式くらいしか接点はありませんが、私はとても価値のある仏教を、一般の人たちともっとつなげていく仕事がしたかったのです。「敷居が高い」といわれるお寺を、外の人々と接続していく。いわば「お寺イノベーション」です。そんな思いから、光明寺ではいろいろな試みをしています。

発想の転換が生んだ「神谷町オープンテラス」

松本紹圭: 光明寺のある神谷町はビジネス街です。交差点あたりには人がたくさんいるにもかかわらず、境内は閑散としています。住職は「うちの寺はいつでもオープンなんです。誰でもお参りに来ていいんですよ」といいますけど、どうでしょうか。「じゃあ、行きます」とはなかなか思えませんよね。江戸時代なら別ですけど、おそらく私が言われても、何のために行くのかがピンと来ません。

そこで神谷町をもう少し見渡してみました。カフェには人が集まっていました。男性も女性もたくさんいて、神谷町のコミュニティーのようにカフェが使われているのです。「そうか!」と気付いて、発想を変えてみました。「お寺に来てください」ではなくて、カフェのような雰囲気をお寺に持ってきてしまえばいいのだ、と。こうして、交差点から本堂まで、どのようにして人の流れを作るかが、光明寺での私のミッションの一つになったのです。

本堂に行く途中に、景色の素晴らしいスペースがあります。ちょっと顔を出すと、お墓が広がっていますけど(笑)。住み込みを始めた頃から「ここはすごく気持ちいいな」と思っていたのですが、全く知られていませんでした。本当は誰もが来て良い場所であるにも関わらず、です。そこで考えたのが「神谷町オープンテラス」、通称は「お寺カフェ」です。誰でも自由にお弁当や飲み物を持ってくることのできるオープンスペースとしました。「お寺と関係を持ちたい」「仏教を知りたい」という方がいれば、本堂で一緒にお経を読んだり、ここでお話を聞いたりすることもできます。

お坊さんとの会話も楽しめるカフェ

松本紹圭: 最初は、小さい黒板に「お寺カフェはじめました」と書いて、お寺の前に置いておきました。すると、少しだけ人がのぞいてすぐに帰っていく。2~3日すると、もう少し人を連れてきて、でもまた帰っていく。4~5日すると、少しずつテラスの席に人が座り始めました。気がついた頃には、日中は憩いの場所として地域に定着したのです。最近は予約制にしなくてはならないほど、人気が出てきました。「神谷町オープンテラス」は無料のスペースですが、一応おさい銭方式をとっています。お茶やお菓子のおもてなしをすると、それに対しておさい銭を入れて帰っていただく、というシステムです。

私がテラスにずっといるわけにもいかない。そこで、就職もせずにブラブラしていた友達を店長にして、手伝ってもらいました。それが結構ハマったのですね。しばらくすると、店長はお坊さんになっていた(笑)。オープンテラスに来ていただくと、この店長がみなさんのお話を聞いてくれたり、仏教の話をしてくれたりします。このようにして、お寺と一般の方がコミュニケーションを取れる場所ができたのです。