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「池上彰が紐解く、アラブの今と未来」in 六本木アートカレッジ

~アラブ美術のツボがわかるニュース解説~

政治・経済・国際文化教養
更新日 : 2012年09月27日 (木)

第8章 アラブ世界に広まる民主主義のジレンマ

池上彰(ジャーナリスト/中東調査会会員/東京工業大学教授)

会場からの質問: 今後のアラブの動向で、池上さんが一番注目している点はどこですか?

池上彰: アラブ世界はジャスミン革命によって、今、大きく変わろうとしています。その一方で「民主主義のジレンマ」に直面しています。

これはどういうことかというと、例えばエジプトでは、これまではムバラクによる独裁政権によって、ムスリム同胞団というイスラム原理主義勢力が抑えられていました。しかし独裁政権が倒れ、民主主義的な大統領選挙が行われた結果、ムスリム同胞団に非常に近い人物が大統領になりました。そのため今、イスラム原理主義勢力が勢いづいています。リビアもチュニジアもそうです。結果的に、いわゆる西洋的な民主主義の概念とは全く違った政治体制が生まれようとしています。

私たちが考える民主主義というのは、いわゆるアメリカ型の民主主義です。アラブ世界で独裁政権が倒れて「アメリカ型の民主主義になるか」というと、決してそうはなりません。それぞれの文化や宗教に根ざした民主主義の形になると思います。

そのいい例がミャンマーです。アウンサン・スーチーさんが軟禁状態にされていたとき、欧米諸国はいわゆるアメリカ型の民主主義を要求していましたが、そうはなりませんでした。でも、独裁政権がテイン・セイン大統領になった途端、スーチーさんが政治の場に躍り出て、欧州を訪問し、ついにはノーベル賞受賞から21年経って受賞スピーチをするに至りました。今、ミャンマーは、ミャンマー型の民主主義に取り組んでいるのです。

つまり、民主主義にもいろいろな民主主義があるということです。アラブ型の民主主義がどのようなものになるのか、あるいはイスラム過激派の勢力が増して民主化の流れがついえてしまうのか、そこに注目したいと思います。

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該当講座

池上彰が紐解く、アラブの今と未来
池上彰 (ジャーナリスト/中東調査会会員/東京工業大学教授)

長期独裁政権下に置かれたアラブ諸国の民衆が、民主化を求め立ち上がった「アラブの春」。チュニジアから端を発した民主化運動は、隣国のエジプト、リビアに飛び火し、各国で続いた長期独裁政権を崩壊させる結果となりました。 アラブで起こった一連の民主化運動は、FacebookやTwitterなどのSNSが民衆....


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